平和ですわ
体術を習得した事によって以前よりダンスの腕前が上がってしまいましたわ。体幹と重心の移動に足使いなど学ぶ事でより軽やかなステップができますの。 今では僅かな足音さえ立てませんわ。
下手なお相手ですと足運びで踏む事は無くとも、蹴り飛ばしてしまうかもしれませんが、その時は御免あそばせ、オホホホホ。
ダンスは令嬢の教養であり、そして武器の一つですもの、勿論得意でしてよ。仮にも前世で第一王子の婚約者なんてやっておりましたもの。それ位の事は当然で御座いましたわ。
武術だけではなく、令嬢の武器足る礼儀や趣味なども網羅しておりましてよ。
人目を惹くような上品な振る舞いは当然として、ダンスにおいても優雅にそして夜の花として咲き誇る技術として教え込まれましたもの。
「タン♪タン♪タン♪――タン♪タン♪タ♪タ♪タ♪タン♪タ♪タ♪タ♪」
手拍子と共にコーチして下さる先生の声に合わせて舞い踊ります。最近は超難易度の物になっている気が致しますが、其の挑戦には受けて立ちましょう。
このパソドブレとか夜会で踊る事なんて無いのではないでしょうか……退屈は致しませんが。
以前はお兄様とのレッスンでしたが現在は弟や妹達と共に相手役をお姉さまにお願いしております。ダンスの運動量も決して馬鹿にできる物ではないのですが鍛えに鍛えている私にとっては軽い準備運動でしかありません。
本番はこの後の特訓でしてよ。
天然の障害を走り抜ける山のランニングも面白いですわ。昼下がりになって特訓を開始した私にシショーであるお姉さまが問いかけられました。
「その、お嬢様が先日仰っていた計画ですが……」
「えーと、どれかしら」
記憶力の問題では御座いませんわよ。
色々とやっていて計画ではちょっと判らなかったりいたしますの。
「私の一族の件です」
組み手をしながらも軽々と会話が出来るようになっておりますが、相当苦労いたしましたのよ。
それにしても、例の件は、お姉さまも本気かどうかお分かりではなかったようですわ。
「勿論の事、本気で進めていただきたいですわ、既にお父様の許可もとりましてよ。後は土地の確保ですわ。利権の関係を今調べさせておりますの」
お姉さまの一族をまるごと雇い入れたい。これが私の計画のひとつですわ。色々とお話を聞く事があった時から考えてましたのよ。私達のような貴族が王を盟主として仰ぐような関係ではなく、主を定める一族との事、簡単に主などと思っては頂けないでしょう。ですが、素晴らしい技術を認めない国におられる事など無いと思うのです。
というわけで先日カンパニーを立ち上げましたのよ、従者や護衛を派遣する為のカンパニーを作ってそこに我が家が投資するのです。
王妃様の件、私が許す筈御座いません事よ!
既に内々に数名の派遣はしておりますし、王子の教師役なども我が家からの紹介として派遣しておりますわ。私は反省しましたの、正論で訴えればなんとかなるなんて思っていた自分が浅慮だったと。
ですからこの国の闇は全て葬り去る事に致しましたのよ。
私が死んだのも暗殺者によるもの。
王妃様も暗殺されたのだと実しやかに言われておりました。ならば防ぐ為にも私が一網打尽にすればよいのです。
自らの手を汚してでも守り抜いてみせます。それがヒルデガルド・ルビー・スカーレットの決意ですわ。
軽い訓練を終えてお姉さまに現状を説明したら驚いて下さいました。
オホホホ、眼を見開いてキョトンとするお姉さまなんて眼福でしたわ。
優雅にお茶を飲み、お菓子を頂いて花を愛で、妹弟と遊ぶのも私の役目。
この子達もルビー・スカーレット家としての活躍が期待されていますから甘やかすばかりではいけませんが、姉として楽しいひと時を与えなくてはなりません。
夕食まで魔法に関する訓練と研究をし、湯浴みを終えてから私室で資料の作成などを行い就寝します。
こうして平和な日を過ごす事が出来て私は幸せですわ。
未だ恋愛などしておりませんが、愛情をたっぷり受けて育っておりますから、私は後悔は致しておりません。今世では婚約のこの字も頂けないようなお転婆令嬢になってしまっておりますが幸せでしてよ?