懲らしめますわ
……ハッ、余りに失礼な態度でこられたので無視してましたが、気がつけば私の前にご令嬢の壁が出来ておりました。
「失礼ね」「そうよ、お姉さまに向かってなんて口を」「そのヘラヘラと笑った顔を鏡でみてから言いなさい」「自信過剰なのではなくて?」「礼儀作法も躾けられてないお子様なのでしょう」「あらやだ、下品すぎて目と口が穢れますわ」「そもそも無粋です」「お近づきになりたいという方を差し置いて」「不届き者には触れさせません」…………
お、お姉さま方や姉と慕ってくれた令嬢の方々の壁から放たれる罵詈雑言の数々が留まるところを知りませんわ。
壁の間から見える彼らは段々と顔色が悪くなっておりますけど大丈夫でしょうか……
5歳のお子様で無くとも、これは流石に耐えれる状況ではないでしょう。
「皆様……」
「「「お任せ下さいませ」」」
「いえ、そうではなくて……」
この状況だと恐らく彼等が泣こうが止まりませんでしょう、謝罪するか、逃げ出すかでしょうが……
「ご、ご、ごめ……」
「クッ、貴様ら俺たちが誰だか分かってないの「失礼な子供でしょう?」クソッ」
「令嬢如きが調子にのるなよ!?デイヴィッドも謝ってん「あら、礼儀も知らない子供如きが調子にのってますわ」なっ!?」
デイヴィッドはとばっちりですわね、まあ家格の問題で付き合いのあるのが他の2家なのでしょうが、一緒に居れば同罪にされましてよ。
あの『女ったらしのデイヴィッド』って少年の頃は知りませんでしたがここまで気弱な少年だったのですね。
『無口』で『無表情』で『無感動』の『秀才(万年2位)のバートレット』の印象も随分と違いますし、今の彼は頭が良いようには見えないです。
そして『ムードメーカー』『意見調整役』『意志薄弱で兄の出涸らし』と呼ばれたクリストフが一番の驚きです。
口が悪い、態度が悪いのはまあ子供だとしても違いすぎませんこと。
彼らの前世のようになる要因がまだ生じていたりしていないというのもあるのでしょう。
それにしても、本当に私の同年代の男性ときたらまともな者はおりませんわ。
違いますわね、このような下地がある性格だからこそあの事態に繋がったのかもしれません。男性に関しては、比較対象がお兄様というのがいけないのでしょうか、いえ、理想はあのように在るべきですわ。
ついつい自分の世界に浸っておりましたら無口無表情が売りなはずのバートレットの癇癪がでたようです。バートレットのようなタイプは溜め込んでから突拍子も無く悪質な爆発するから性質が悪いですわ。
「黙れって言ってるだろうがぁっ! 大気に満たされし……風の力を我が意によりて我が敵に……」
この子は本当に性質が悪いですわね! 中途半端な秀才はこれだから困るのです。少々ゆっくりですが魔法の詠唱を始めてしまいましたわ。
「どうだ、バートレットは魔法が使えるんだ謝罪するなら今のうちだぞ」
「や、……・・・…………」
「…………ゥォ」
他人の威を借りて得意げに話すとか何様ですのかしら。
しかも、その威を借りるバートレットの魔力制御が甘いですわよ、これだから万年2位と呼ばれるのです。
そのままだと暴発して自分達が一番最初に吹き飛ばされますわよ?
火の熱魔法でなかったり水等の質魔法ではないにしても中心にいるのは危険な状態ですわ。
それとデイヴィッドは声が小さいですわー、ってそんな些細な事に拘ってる場合では御座いませんですわね。
「失礼! 前に出させて!」
令嬢の方々に万が一の事があってはいけませんわ。お姉さまに目を合わせれば既に誘導を開始しておられます、流石ですわね。これで安心して対処できます。
「今更謝罪しようったって遅いんだよ、やっちゃえバートレット」
「ゥゥッ」
「バートレット?」
呻くバートレットに対して、何も理解できていないクリストフが間の抜けた表情で問いかけていますが……
判っておられませんのね?
未熟な者が使う魔法が如何に危うい事態であるか。
「その魔法、既に暴走寸前ですわよ、早く逃げなさい」
私が告げた内容で漸く理解したのでしょう、貴族の師弟たるもの多少は習っているのでしょう一瞬にして表情が恐怖に包まれました。
「うわぁぁぁぁ」
「ひっぐぅ」
尻餅をついてる場合ではありませんのに……。貴族としての情け……ズボンの惨状などは見逃して差し上げますわ。記憶に留めるのもありえないですし。
手間の掛かる子供ですわ。
「お母様、その子たちを」
流石はスカーレットの名を持つお母様、いつの間にやら渦中に平然と立っていらっしゃいます。
「大丈夫なのかしらー」
ウフフ、お母様ったら心配性ですわ、既に準備は整ってましてよ。
「問題御座いませんわ、私もスカーレット家の娘でしてよ」
「じゃあ任せたわ~」
ええ、お任せ下さいませ。魔力が溢れた瞬間を捕らえますわ。
今! ですわ!
魔力が魔法に変わる瞬間に同等以上の魔力をぶつけて消し去っていく対魔法使い用の技術。対象の近くで、尚且つ相応の技術差がないと成り立ちませんが、5歳の子供の魔力制御など暴走しようが抑えきるなど、私に掛かれば目を瞑りながらでも可能でしてよ。
オーッホッホッホッホ!
「な、にが……」
そう呟いたバートレットは魔力を一気に放出した反動で魔力枯渇状態に陥り気を失いました。
はぁ、またライバル認定されてしまいそうですが致し方ありませんわね。
風を動かす動魔法で地面にバートレットを寝かせるように受け止めて後はお姉さまにお任せ致しましょう。
仕方ありませんでしょ?
「「「お姉さまぁ!」」」
私この方々の対応をしなくてはいけませんもの。それよりも明らかに私よりもお姉さまな方々まで目があの熱に浮かされた状態になっておられますがおかしくありません事!?
あの……少々怖いのですが。
後日、正式な訪問として宰相閣下を初めとして家長の方々が謝罪に来られました。当然ですわね、一つ間違えば多くの令嬢に傷をつける大事件に発展いたしましたもの。
勿論、茶会に関してはそのまま続ける方向でスカーレット家が動きましてよ。お子様の責任などを取って優秀な官僚をされている方達を失う訳には参りませんもの。
息子達の教育を今後見直す事等を述べられておられました。フフフ、あの様子ですと相当な教育が課されますでしょう。私としては問題も何も、そんな大した事もせず直接宰相閣下や国の重鎮の方とお知り合いになれた事の方が将来においても家の為にも良く嬉しい事でしてよ。
色々と興味深いお話もできましたし、オーッホッホッホッホ!




