優雅ですわ
あれ以来アルフレッド殿下と取り巻きのエルリッヒとは顔を会わせておりませんが、王妃様の茶会には2週間に一回以上のペースでお呼ばれされております。
「最近は息子も武術と魔法の勉強を頑張ってるのよ、ヒルデちゃんのお陰ですわ」
にこやかにそう言っている王妃様は大変嬉しそうでした。
「もう、駄目よ? うちのヒルデちゃんはあげないわよ」
「それがあの人も是非、義理の娘になって欲しいっていってたのよ」
私も思わず絶句するしかありませんわ。息子に紅茶を浴びせた令嬢なのにどうして是非にとなるのでしょうか?
あの傲岸不遜な王子はこの話を聞いてたらきっと顔を真っ赤にしておられるでしょう。
「ノイマンがいい顔しないわよ?」
「オーッホッホッホッホ、あの時の顔は面白かったわ~」
笑われておられますが、王妃様……大丈夫なのでしょうか、どんな場面で国王陛下が一体どのような顔をされたのでしょうか、非常に気になってしまいますわ。
それにしても王妃様の高笑いはいつ聞いても素晴らしいですわ。
でもその前に聞き捨てならないセリフがあった気がするのは気のせいですわよね?
ええ、気にしたら負けだと思いますの。
本当はこのような時間も全て修練に当てたいのですが、貴族令嬢として茶会は夜会とは違って同性の繋がりを持つ重要なものですから、出ない訳にはまいりませんの、いえ寧ろ重要な活動と言った方がいいですわね。
まだまだ子供だけでの『茶会の開催』などというのは無理ですから必然的に親も付いてきますし。
更には『将来の息子の嫁探し』から『情報収集』や『伝を作る事』など、様々な事がこの茶会という社交場の戦場では行われていますから、能力のある貴族の婦人ともなれば毎日茶会にでかける方もいらっしゃる程です。
ある意味、男性もおられる夜会ではやり取りされない、『漏れた情報』さえも手に入る事が御座いますから疎かになどできません。
女性には子供を生むという女性にしか出来ない役目が御座いますが、魔法にしろ事務にしろ、肉体を使わねばならない剣術戦闘のような事を除けば、女性の活躍の場は広いのです。そして事務作業などは男性よりも優れてさえいますから、宮中の女官といえば伝も多く、そして仕事も沢山抱えております。
いざ戦争、国難となった際に出陣するのはなにも男性だけでは無いですし、特に『優れた魔術師』の多くは女性であり、中でも怪我などの治療を行うのに長けている治癒担当の魔術師の殆どが女性なのです。
貴族や大商会の一部では家に居る事を望まれる場合もありますが、寧ろ女性のネットワークこそが国を陰から支えているといえましょう。
前世においてもこの茶会で培われた人脈から様々な事が可能だったのです。
唯一、そうたった一つだけ困る事があるとしたら……お、お姉さま方から妙に可愛がられる事はまだ良いとしてもお姉さまと慕われてしまう事でしょうか。
私も物語は教養の一環として趣味の範囲内では読みましたが、行き過ぎた女性同士への愛というのは少々対応に困ってしまいます。
熱病のようなものと思いつつも突き放せば残酷に思えてしまいますし……かといって想いに応えてあげる事も出来ません。
私の外見といえば普通怖がるのが普通だと思うのですが、一部の女性は目を合わせると避けるまでは普通なのに、頬を染められるのは如何なものかと思います。
自分で言うと悲しくなりますが、この目つきは怖いと思いますのよ。
ええ、前世でもある程度自分の仕出かした事が原因なのは知っているのですが、あれは飽くまで貴族としての当然の責務であって普通の事です。
困っている子を助けたり輪に入っていない女の子を誘ったりするのは当然ですし、ヤンチャをしたい年頃の男子の悪戯を阻止するのなんて当たり前なのだと思うのです。
お兄様がいれば私に代わってやって下さるのですが……
残念ながら一、二歳年上の男子の方々は紳士としての振る舞いについて習っておられないのですもの。
お兄様なんて8歳にして華麗な紳士としての振る舞いを身につけておられたというのに……
はぁ、はしたないですがついつい溜息を吐いてしまうのも仕方がないとお許し頂きたいのです。何故でしょうか、今世ではまだそれ程の事をしていないのに、このように羨望の眼差しが既に浴びせられているのでしょうか。
ハッ! もしや、この髪型でしょうか!?
それでしたら納得いたしましてよ!
この金色に輝くお母様譲りの髪も癖がありましたので、王妃様のようにクルクルっと巻いておりますからね! 気品が溢れているのですわ。
今世でこの髪型にしたのは4歳の頃から、それこそちょっと巻きの甘さが気になりつつも魔法で固めるという高等技術を駆使しておりますから型崩れの心配さえございませんことよ?
そうなのですわね、この髪型の秘密がお聞きになりたいのでしょうか。
よ、よろしくってよ、ウフフフ、いくらでもお教えいたしますわー!