誇らしいですわ
「第一王子様と騎士団長殿の甥で辺境伯殿の息子も投げ飛ばしたとは、フフフ、流石だな我が妹は」
嫌ですわお兄様ったら、お母様からお聞きになられたのですね。
「オホホホ、スカーレットの娘として当然ですわ」
「ハハハ、普通は心配しなくてはいけないのだろうけれど、ヒルデなら当然と言われて納得できてしまうよ。でもヒルデ、もしも私が居るときなら遠慮なく頼るんだよ」
優しいマティアスお兄様、前世と変わらず素敵です。
兄であるのが本当に残念ですわ。しかも5歳離れている事で、この秋からお兄様は国立軍事魔法学校へご入学されてしまう……
魔法の素質を持つ者としての当然の進路ですが残念ですわ。
貴族ならば家庭教師に師事し10歳になる年の春から学校へ。
商家の家ならば5歳から10歳までは幼年学校へ。
農家や職人の子は国教会の開く寺院学校で。
ある意味これは魔法という特殊な力を強く発現させる貴族を隔離する為ですもの。それに授業料や働かなくてはいけない時間なども考えると効率的ではなくなってしまいます。
10歳を過ぎても、勉強するだけの才を見出されれば国立の学校へと進む事が可能になります。
国立軍事魔法学校はその名の通り、軍事と魔法に関しての才を持つ者にとっての学校です。例え勉学に秀でていても魔法に関しての能力が無い限り入学は認められておりません。
お兄様はこの学校を首席入学、首席で卒業され伝説を作られておりました。おそらく今世でも間違いなく首席でござましょう。私の訓練に付きあって頂いた事などから推測してみても、前世よりもその剣の鋭さ、魔法の多様な所など確実に上を往かれておられます。
斯く言う前世の私もお兄様の恥にならぬ様にと頑張ったものです。
ええ、陰で私の事を「炎姫」「執行者」「女帝」などと呼ばれていたなんて事は褒め言葉です。
オホホホホ、可愛らしいだけではスカーレットの娘は務まりませんことよ。
「私もヒルデ達が誇れる兄であるように頑張らねばな」
優しい眼差し……きっとお兄様にこの視線を向けられた令嬢など一撃で沈んでしまいますわね。
「お兄様は私の誇りですわ」
「ヒルデこそ私の誇りだよ、体が出来ていないからこそ今は私がなんとか立場を保っているが、将来は間違いなくこの国で初の女性宰相や元帥になれるよ」
「嫌ですわお兄様ったら」
「ハハ、冗談ではないのだが」
「その役目はお兄様がなされれば宜しいのであって私は支えるつもりですのよ?」
「ふむ、私の考えと逆なのだな」
「私も貴族の娘として将来は嫁ぐ事になるでしょうから……」
「ム……、私に勝てる奴でなくてはならないな」
お兄様、そんな方はそうそう居られないですわよ?
「それにな、ヒルデ、此処だけの話だがお父様がお母様と話されていたのだが……」
お兄様の教えて下さったのはやはり王子との婚約の事でした、頭を抱えているお父様には申し訳ありませんとしか言えませんわね。
予想通り現状での婚約には繋がりませんでしたもの、王家としては希望したいが鍛え直してからにしますという王妃様の発言で助かりました。
「まあ、私も例の一件を知らぬ訳では無いからな、ヒルデの嫌な婚約などならしなくていいからな」
「結婚せずによいのでしたら気にしなくてよいのでしょうが、こればかりは家としての問題ですもの」
「私としては可愛い妹にいつまでも居て貰いたいが幸せにもなってもらいたいのだよ」
「幸せ……ですか」
「そう、幸せになってもらいたいって、どうしたぁヒルデ!?」
ああ、お兄様、お兄様がいけませんのよ? あの時と同じようなセリフを言われるのですもの……
「すまん!? いや、でも、その、どうしたんだい、何が悲しかった?」とお兄様が慌てられても涙が止まりませんの。
『ヒルデ、婚約が破談になろうとも我が家は一切気にしない。私の可愛い妹をあのようなものと比べた奴など、叩き伏せる事ができなくて残念だと私も友人達もずっと歯噛みしていたんだからね。彼等らも今度の件には手を貸してくれているから安心しなさい。それにね、私はお前が長く家にいてくれるのなら幸せなのだから、ずっと家に居てもいいんだ……だがな私はお前に幸せになってもらいたいのだよ』
前世で王子から婚約が一方的に破棄される状況になった時にも一番最初に、お兄様にそう言って頂いたのでしたね。
私はなんて恵まれているのでしょうか。
ワタワタとされているお兄様って希少すぎますが、少し可愛いと思った私はいけないでしょうか。
「ありがとう御座います、お兄様。これは嬉し泣きですの」
「そ、そうなのか、悲しくは無いのだな?」
「はい、お兄様達に大事に思われている事が嬉しかったのですわ」
その後、嬉しそうに笑うお兄様が「じゃあ愛する妹に手を上げた王子と馬鹿をちょっと懲らしめてくる」と笑顔で宣言されたのを撤回させるのが少々大変でしたわ。事情を知ったお父様まで一緒になって……お母様の笑顔が少し怖く思えましたの。
翌日、王宮の王様と王妃様から謝罪が届けられたのは……お父様、お兄様、何もされてませんわよね?