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1-18.それぞれの思い

展開の都合上、場面転換が多いです。予めご了承ください。

 アマティアスとホスタイルが対峙してから三日目。朝は曇っていたが、昼前から雨が降り始め、今も降り続いている。ホスタイル軍が大砲を使えない今が勝機と、アマティアス軍は緊急会議を開いた。

 会議の結果、遊撃隊のショウが先行することに決まり、ショウは準備に追われていた。

 

「先駆けになるなんて良かったじゃないか。思う存分暴れてきなよ。ただ、相手は大砲は撃てないだろうけど、まだ何か隠し持っているかもしれないから気を付けろよ」

「本来遊撃隊は先行隊じゃないから攻め方が分からないんだが……」

 

 恭介がショウのもとに向かうと、ショウは心配そうにしていた。かなりの強さを誇るショウでも苦手はあるらしい。

 

「良いよなお前は、偵察すりゃ終わりだもんな」

「大砲に撃ち落とされかけましたが?」

「それは偶然だろ」

 

 ショウは不満そうにしながらも、恭介が来る前より表情が和らいでいる。出撃準備の合図が来ると、ショウはスイフトに跨がり恭介を見た。

 

「それじゃ、英莉奈のためにもさっさと終わらせてくる」

 

 ショウは恭介をからかいつつ、スイフトに合図を送って飛び立っていった。

 

「だから何でその話に……、おい、最後まで聞けよ!」

 

 恭介の文句はショウに届かなかった。

 

 

 ショウ率いる遊撃隊の暴れぶりは凄まじかった。大砲が使えず混乱していたホスタイルの前衛をたったの一時間で全滅させてしまった。残りの隊もそれに続き、日暮れ前にホスタイルは降伏を申し出た。

 アマティアス軍は勝利の余韻に浸っている。いくら勝率が高いとはいえ、やはり戦争に勝つのは嬉しいのだ。

 撤退は翌日になることが決まり、夜になると祝宴が開かれたので本陣は大騒ぎになった。

 そんな中、恭介は一人空を眺めていた。そこへあちこちから称賛の声を浴びてくたびれた様子のショウがやってきた。

 

「おっ、今日の主役のお出ましだ」

「お前までからかいやがって……。どうしたそんな顔して、そんなに英莉奈が心配か? 明日になったら帰れるんだから良いだろ」

「いや、心配なんじゃなくてどんな竜を連れて来るか楽しみなだけだよ」

「受かる前提なのかよ……。もしかしたらとんでもない奴を連れて来るかもな」

 

 俺のスイフトやお前のペレグリンなんか相手にしない程のな、と真面目な顔で続けるショウに恭介は吹き出した。

 冗談じゃない、と派手に笑う恭介にショウも釣られて笑い出す。しばらくは二人の笑い声が辺りに響いていた。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 英莉奈は起きた後、不安そうに外を眺めていた。空を分厚い雲が覆っている。今にも雨が降り始めそうだ。

 ドネクスと話そうと外に出たが、あまりの寒さにすぐに中に戻った。部屋に戻るとドネクスがいつものように窓から覗き込んでいた。

 

「なんだ、いたんだ。雨が降りそうで心配なんだよね……。寒いから雪かもしれないけど」

『確かに今日は寒いかもな。俺は大丈夫だけど』

「寒くても平気なんだから竜は良いよね」

 

 英莉奈はドネクスを羨ましがりつつ、時計に目を向ける。まだ出発するまでには時間がある。もう少し話していても大丈夫だろうと思い、英莉奈は話を続けた。

 

「そういえば、ターセルさんと会ったきっかけって何なの?」

『前に言わなかったか? これからお前が臨もうとしている竜騎士認定試験で戦いを挑まれて、ショウを認めたから一緒に行くことに決めた。……そうだ、傲慢な奴は死ぬまで認めないから気をつけろよ。英莉奈は女だから特に厳しいかもしれない』

「わかった、気を付けるよ」

 

 ドネクスと話しているうちに出発時間になったので、英莉奈は家を出た。途中でギルドに寄り鍵を返し、駅に向かう。ほどなくして列車が来たので乗り込んだ。

 乗ったのはショウの家に向かう時と同じ車両だったが、改めて見ると英莉奈が日本にいた頃に乗っていた車両にそっくりだ。英莉奈はその車両ができた時、開発に携わっていた正史が自慢気だったのを思い出した。この車両と関係があるとは到底思えないが、何故かそのことが気になった。

 

 

 目的の駅に着くまでは特にすることはない。英莉奈がぼんやりと外を眺めていると、雪がちらつき始めた。どんどん勢いが強くなっていく。アズニグ駅に着く頃には、一面が真っ白になっていた。

 英莉奈は早く出発して良かった、と思いつつ宿を探す。幸いすぐに空き部屋のある宿が見つかり、予約を済ませると学校の場所を確認しに向かった。学校は意外と小さかったが、見た目が他の建物とは違うので分かりやすかった。

 確認が終わり宿に戻ると、チェックインできる時間になっていたので部屋に入った。外はずっと雪が降り続いていて、一向に止みそうにない。

 

「そういえば、こっちに初めて来た時も雪が積もってたな……。あれから一週間、か……」

 

 ふと呟いた英莉奈の目に涙が浮かぶ。どんなに抑えようとしても涙は止まってくれない。

 

「くっ……、こんなところで、泣いて、なんか、いられない……。これから、なのに……」

 

 英莉奈は頭を激しく左右に振るとベッドに飛び込んだ。

 しばらくはしゃくり上げる音が聞こえていたが、やがて静かになり英莉奈は寝息を立て始めた。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 英莉奈が行方不明になってから一週間が経った。

 家族の努力により事は大きくならなかったが、代わりに手がかりも得られていないため、優莉と優太は相変わらず英莉奈の発見を願いながら生活する日々が続いている。現時点で唯一の手がかりである自転車は車庫に仕舞ってあるが、チェーンが切れていること以外に変わったところはないのでほとんど役に立っていない。

 毎日、わざわざ英莉奈の同級生が学校での様子を報告に来てくれているため、英莉奈がみんなに心配されていることが分かっているのが救いだ。

 一方、正史は以前よりも酒を飲む量が増え、投げやりな態度を示すことが多くなったため、家族はあまり近寄らなくなっていた。今日も正史は独りで酒を飲んでいる。

 

「アイツに加えて、英莉奈まで突然消えるなんて……。何で俺の大切な奴に限って居なくなるんだよ……」

 

 正史は普段の様子からは想像もつかないほど弱気な発言をしたが、当然他にそれを聞いた人はいなかった。

 優莉が正史の様子を見に来た時には、正史は既に酔い潰れて眠ってしまっていた。

 気持ちは分かるけどこのままじゃ体を壊すよ、と優莉は心配そうに呟いた。


これにて1章は終了です。次回より2章、学校編です。お楽しみに。

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