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1-16.手紙の内容

 夜になってもショウと恭介が帰ってこないことに気付いた英莉奈は、心配で居ても立ってもいられなくなり、慌ててドネクスに二人の行方を聞いた。

 

『まだ仕事が終わらないとか、急に出張が入ったとか、そんなものだろう。竜騎士って言っても戦争に行くのは年に数回だしな』

「なら良いんだけど……」

『考え過ぎは良くない。何かあったら連絡を寄越すはずだ。もう遅いから安心して寝てな』

「うん……、ありがとうドネクス。おやすみ」

 

 英莉奈は部屋に戻り、ベッドに入ったが、不安からなかなか寝付けなかった。

 

 

 翌朝、英莉奈が目覚めて時計を見ると、九時近くになっていた。なかなか寝付けなかったせいで寝坊してしまったようだ。

 ふと窓を見ると、ドネクスがこちらを覗き込んでいた。英莉奈は思わず声を上げる。

 

「うわっ、びっくりした……。どうしたの?」

『お前が寝てる間に、お前宛ての手紙が来た。郵便受けに入ってる』

 

 英莉奈の名前を知っている人はかなり限られる。しかもわざわざ手紙を寄越してきたので、英莉奈はなんとなく嫌な予感がした。ドネクスもそうらしく、先程から笑おうとしない。

 少しでも雰囲気を明るくしようと、英莉奈は不安が顔に出ないように振る舞う。

 

「持ってきてくれても良かったのに……」

『俺が触ったら確実に破れるぞ?』

「そっか、竜だもんね。取ってくるよ」

 

 英莉奈は玄関脇の郵便受けまで行き、手紙を取って部屋に戻った。手紙は恭介からだった。

 

『出張か? 問題ないなら読んでくれるか?』

「分かったよ。ええと……、『英莉奈、悪いが招集がかかって遠くに出征に行くことになった。少なくとも二週間は帰れない。その間事故のないように過ごしてくれよ。それから、勝手にすまないが三日後から始まる竜騎士学校の手続きをしておいた。詳しくはギルドで聞いてくれ。俺が帰ってきた時に竜騎士となった英莉奈に会えることを楽しみにしているよ』だって。……ちょ、ちょっと待って!?」

 

 英莉奈は一気に出来事がいくつも起こり過ぎて頭が付いていかない。事態に混乱しながら声を上げた。

 ドネクスを見ると、こちらを見てにやついている。……端から見ると獲物を狙っているように見えるが。

 

『良かったじゃないか。恭介がそこまでお膳立てするとは、相当気に入られているんだな』

「他人事だからって冗談言って……。頭を整理したいから手伝ってね。新井さんは戦いに行ったってことだよね? 大丈夫なのかな……」

『心配すんなって。恭介は偵察隊の副隊長だから直接戦いはしない。余程のことがなけりゃ無傷で済む』

 

 ドネクスの言葉に英莉奈は一安心した。続けてドネクスに質問する。

 

「なら良いんだけど……。話は変わるけど、竜騎士学校は一週間泊まりで竜騎士になるための勉強をするところで、卒業試験は入隊試験と同じことをするはず。合ってる?」

 

 学校については以前買った本や、前日にショウの家で読んだ本に書かれていたので、英莉奈も知っていた。竜騎士になるための基本的な方法だ。

 後で行こうと思っていたのだが、恭介も考えていることは同じだったらしい。

 

『その通り。試験では俺みたいな竜に認めてもらい、本部に戻ってくれば合格だ』

「確認ありがとう。でも私がいない間、家はどうするんだろう」

『手紙の裏にも何か書いてあるぞ』

 

 英莉奈が手紙を裏返してみると、確かに続きが書かれている。ドネクスがこちらを見てきたので、英莉奈は続きを読み始めた。

 

「『追伸。ギルドに俺とショウの家の鍵、英莉奈の学校関係の書類を預けてある。学校に行く時には戸締まりを忘れないこと。あと英莉奈の口座にお金を振り込んでおいたから入学準備にでも使ってくれ』って。……ここまでしてくれなくて良かったのに」

 

 英莉奈はあまりの気遣いに困惑する。自分が小学生のように扱われているようで良い気分になれない。

 ドネクスはそんな英莉奈の様子を見て笑いを抑えられないようだった。

 

『本当に至れり尽くせりだな。恭介が帰ってきたらお前に告白したりして』

「なっ、なんてこと言うの!? とりあえず、ギルドに行ってくるから見張りよろしく!」

 

 英莉奈はそのまま家を飛び出した。

 

 

 ギルドで恭介が預けた一式を受け取り帰ってきた英莉奈は、学校案内と入学書類に目を通していた。

 一週間のうち五日は授業があり、最後の二日が試験になるようだ。服装は自由だが、試験の時は指定の武具が渡されるらしい。もし指定の武具を使わなかった場合は失格だ。

 使用武器は人によって違うので、あらかじめ申込書に武器の種類を書いておく。英莉奈のものにはしっかりと弓矢と書かれていた。恭介を信用していない訳ではないが、ひとまず安心した。

 試験では竜に認められたことを確認するために同調の魔術を使う。竜も知能は高いが人に騙されている、または無理やり連れてこられている可能性があるので、双方が同時に発動しないと効果のない同調術を使うのだ。

 同調術については英莉奈も本で読んでいたのである程度知っている。同調術は対象と魔力を共有する術だ。人が竜と同調する場合は、多くの場合人が竜の魔力に耐えきれず気を失うので、試験の時はすぐに医務室に運べるよう準備するらしい。

 普通の人は同調術は試験の時くらいしか使わないが、上達すると魔力の共有以外にもできることが増える。かつての英雄は同調術によって竜と意思疎通ができたという。

 英莉奈は同調術を実際にやってみようと思い、ドネクスに声をかけた。

 

「ドネクス、私と同調術を発動できる? 試験の練習をしたいんだけど……」

『やめた方が良い。いくらお前が変わっているとはいえ、耐えられる保証はどこにもない。もしお前が倒れても俺は回復してやれない』

 

 倒れた時のことを考えると不安になったので英莉奈は仕方なく諦めた。

 

 

 その後、書類を見返した英莉奈は、いくつか買っておかなければならないものがあることに気付いた。必要なものを買うためにお金を下ろし、買い物に行った。

 買い物が終わる頃には、すでに夕方になっていた。

 家に戻ってきた英莉奈は、荷物の準備を始めようとしたが、まだ二日残っているから大丈夫だろうと思い、この日は買い忘れがないか確認するだけにとどめた。


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