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1-13.限界を知る

 夕方になったが、英莉奈は一向に目覚める気配がなかった。

 

「本当に魔力切れを起こしただけなんだろうか……」

「さっきの俺の考えが正しいとしたら、魔力の質が高いせいで回復にも時間がかかるんじゃないのか?」

「そうなら良いんだが」

 

 心配そうに呟く恭介に、ショウは冷静に答えた。しかし、ショウも内心は気が気でなかった。

 二人とも経験したことがないことなので、推測で対処するしかなかった。

 しばらくして、恭介は申し訳なさそうにショウに尋ねた。

 

「英莉奈もこんな状態だし、今晩ここに泊めてもらっても良いか?」

「全然構わないさ。俺もこれで追い出すほど薄情な奴じゃない。お前だけだったら確実に追い出すけど」

 

 受け入れてもらい恭介は嬉しかったが、ショウの答え方は気に入らなかった。

 

「……最後の一言は絶対に余計だと思う」

「じゃあ今から英莉奈もろとも追い出してやろうか?」

 

 思わぬ返しに恭介は反論できなかった。ショウはしたり顔で恭介を見つめていた。

 

「……その顔が非常に癪に障るのですが全て私が悪うございました是非とも泊めてくださいお願いします」

「あからさまな棒読みじゃねえか……。丁寧な言葉遣いでもその態度で台無し。おまけにしれっと俺のこと貶してるし」

 

 恭介とショウはしばらく睨み合った後に、急にお互いに笑い始めた。

 恭介にとってはショウは命の恩人であると同時に良い友人であり、ショウにとっても恭介は親友であるので、冗談を平気で言い合えるのだ。

 

 

 結局夜になっても英莉奈は目覚めなかったので、二人は諦めて眠りに就いた。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 英莉奈は気が付くと、真っ暗で何もない空間にいた。

 ここはどこ、と言おうとしたが声が出ない。それどころか、身体を動かすこともできなかった。

 何もできないことに混乱していると、どこからか声が聞こえてきた。

 

「……わ――――は……、……お――」

 

 声はかなり遠いところから響いてきたため、英莉奈はよく聞き取れなかった。

 声はその後も聞こえ続け、だんだんと声がはっきり聞こえるようになってきた。

 しばらくすると不意に声が聞こえなくなり、辺りがぼんやりと明るくなったかと思うと、目の前に巨大な影が現れた。

 英莉奈は影に驚き、逃げようとしたが、相変わらず身体は言うことを聞いてくれなかった。

 

「……我の失敗に巻き込まれたのはお前か?」

 

 影は先程から聞こえていた声で英莉奈に聞いた。

 

「し、失敗って……?」

 

 英莉奈は思わず聞き返すと、ようやく声を出すことができた。……身体はまだ動かなかったが。

 

「分からぬか、では質問を変えよう。お前は元々この世界の住人か?」

「違います。別のところにいたんですけど、気付いたらこちらに来ていました」

 

 変わったことばかり聞くな、と思いながら英莉奈は質問に答えた。

 

「……そうか。お前で間違いないようだな。この世界とは関係のなかったお前を巻き込んでしまってすまなかった」

 

 影はそう言うとだんだんと薄くなっていった。英莉奈は慌てて聞き返そうとしたが間に合わず、影は消えてしまった。

 影が消えたことで辺りは再び真っ暗になった。初めよりも暗くなり、ついには何も見えなくなってしまった。そのうちに自分が起きているのか眠っているのかも分からなくなっていった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 英莉奈が目を覚ますと、辺りは暗くなっていた。

 

「夢、だったのかな……」

 

 英莉奈はそう呟き、辺りを見回すと、見たことのないベッドで寝ていたことに気付いた。

 一体何があったのか記憶を辿ってみると、上位魔術の奔雷を発動させたところで記憶は途切れていた。

 

「あのまま、ずっと夜中まで気を失ってたってこと……? ということは、ここはターセルさんの家なのかな?」

 

 気を失うまではショウの家にいたので、その可能性が高いだろうと英莉奈は思った。

 夢の内容が不思議なものであったことなど、他にも気になることは山ほどあったが、急に眠気が襲ってきたため、英莉奈はそのまま眠ってしまった。

 

 

 翌日、恭介とショウが英莉奈の部屋を見に行くと、英莉奈は既に起きていた。

 

「回復して良かった。いつ頃目覚めたんだ?」

 

 恭介は安心した様子で英莉奈に話し掛けた。

 

「夜中です。そのまま、また寝ちゃいましたけど。……ここはターセルさんの家なんですか?」

「そうだ。英莉奈が魔力切れでぶっ倒れたってんで、恭介が慌ててここに連れてきた」

「魔力切れ……?」

 

 英莉奈はショウの言葉に首を捻った。恭介がすかさず英莉奈に説明した。

 

「体力と同じで、魔力も底を尽きると色々と支障が出るんだ。ひどい時は気を失うこともある。今回の英莉奈はまさにその場合だったんだ。無茶させて悪かったな」

「いえ、大丈夫です。……やっぱり私は魔力の量が少ないんですか?」

「そのことなんだが、英莉奈の魔力は量は少ないが、質がかなり高いようだ。だから上位魔術も発動できたんだ。ただ、魔力の質に身体が耐えられないから無意識のうちに魔力を抑え込んでるみたいで、基本や中位の時は威力が下がってしまうらしい」

 

 恭介が丁寧に説明したのは英莉奈にとってありがたかったが、英莉奈は情報が増えすぎて混乱し始めた。

 

「あの……、もう少し簡単に説明できますか? 頭がこんがらがっちゃって……」

「例えるなら魔力が燃料、魔術が機械ってとこだな。魔術を発動、つまり機械を動かすのに必要な燃料は燃料の質が高いほど少ない。だから魔力量が少ない英莉奈も上位が発動できた。ただし、質が良い燃料はそれだけ大きな力を発生させるから、下手をすると機械が壊れてしまう。それで制限をしてるってことだ」

 

 英莉奈は今度は話が分かったため、恭介の言葉に頷いた。

 

「そういう訳だから、魔術を発動させる時は気を付けてな。それじゃ仕事に行ってくる」

 

 ショウはずっと二人の話を聞いていたが、そう言うと家から出ていった。窓を見ると、桜色の竜が飛び立つところが見えた。スイフトに乗って行ったようだ。

 

「悪いが俺も仕事だから留守番をよろしく。ショウの家の鍵は持ってないから、なるべく家から離れないでな」

 

 恭介も家から出ていき、英莉奈だけが家に残された。


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