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1-12.魔力切れ

 あまり炎を灯し続けると疲れてしまうので、恭介は英莉奈にしばらく休むように言った。

 

「もしかしたら、元々持っている魔力の総量の問題なのかもしれないな……」

「私の魔力が他の人よりも少ないってことですか?」

「その可能性がないとは言い切れない。単純に英莉奈が魔力を使いこなせていないだけかもしれないし、こればかりは本人じゃないと分からないな」

 

 恭介はそう言って腕組みをした。英莉奈はまた何度か試してみたが、結果は同じだった。

 

「あえて中位魔術を発動させてみるか……。英莉奈、ちょっと俺を見ててくれ。行けっ、水矢!」

 

 恭介が呪文を唱えると、水でできた矢が何本も出現し、前方にあった木に向かって飛んだ。矢はほとんどが木に刺さったが、すぐに水に戻り流れていった。

 

「さっきのファイアは基本魔術で、今の水矢は中位魔術。中位になると消費魔力も増えるから、普通の人は無詠唱じゃ発動できない。ちなみに中位から上の魔術は日本人が作り出したのが多いから呪文も日本語が多い。……英莉奈が魔力の扱いに慣れてないだけなら、魔力を沢山使えば慣れてくるはずだ。今のをやってみて。想像すればできるはずだ」

 

 英莉奈が水の矢を想像しながら呪文を唱えると、小さな水の矢が発生し、木に向かって飛んでいった。

 炎を出した時と同じように英莉奈は何度も試したが、やはり大きさは変わらなかった。駄目元で一度無詠唱で試してみると、詠唱した時よりも威力が小さくなっただけで発動はできた。

 

「どういうことだ……? 魔力量が少ないなら中位魔術は発動できないはずだぞ? 一回で発動できてるし、無詠唱で発動できるんだから、量は決して少なくないはずなのに、どうして一発の威力が小さいんだ……?」

 

 ますます深まる謎に、恭介はお手上げのようだった。

 一方、英莉奈はずっと気になっていたことがあったので、解決の糸口になれば良いと思って聞くことにした。

 

「あの……、魔力って消費する時に普通はどのくらい重く感じるんですか?」

「魔力に重さなんて無いも同然じゃないか? 感覚的には力を出してるようなものだし」

「じゃあ、原因はそれかもしれません。魔力を使う時に物凄く重く感じて、なかなか引っ張り出せないんです」

 

 恭介はそれを聞いて驚いた顔をした。

 

「……やっぱり英莉奈は普通の人とはちょっと違うな。初めて聞くことばかりだ。……いっそのこと上位魔術を発動させるか。英莉奈、奔雷ほんらいっていう魔術を発動できるか? 激しい雷を想像すればできるかもしれない。……俺はまだ成功したことがないけど」

「やってみます」

 

 英莉奈は手先から雲を起こして雷を落とすところを想像しながら、まだ重く上手く動かせない魔力を無理やり引っ張り出し、呪文を唱えた。

 

「奔雷!」

 

 すると英莉奈の手先から何かが飛び出すような感覚がした。英莉奈は成功できるかもしれないと思い、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。

 英莉奈の手先から飛び出したものは空で雲となり、雲は一気に成長して轟音と共に凄まじい雷を一発落とした。

 

「う、嘘だろ……、成功するなんて……」

 

 恭介は思わずそう呟いた。

 英莉奈も成功したことに驚いていたが、次の瞬間、全身から力が抜けると同時に目の前が真っ暗になった。

 

 

 何の前触れもなく英莉奈が倒れたのを見た恭介は慌てて英莉奈に駆け寄った。英莉奈が倒れたことで雷雲は霧散した。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 英莉奈は反応を示さない。息はしているので命に別状はないだろうが、心配なのは変わりない。

 

「魔力切れか……? ペレグリン、来てくれ!」

 

 恭介は笛を取り出し、笛を吹いてペレグリンを呼んだ。

 ペレグリンはすぐに飛んできて恭介の横に着地した。

 

「英莉奈をショウの家まで運んでくれ。俺は回復術を掛ける」

「グルル」

 

 ペレグリンは短く鳴いて返すと、英莉奈を持ち上げて自らの背に乗せた。

 恭介は、自分も竜の話すことが分かれば良いのに、と思いながら英莉奈に触れて回復術をかけた。しかし、特に変わったところは見られなかった。

 

「回復術が効かないってことはやっぱり魔力切れか……。ペレグリン、家まで急ぐぞ」

「グルル」

 

 恭介とペレグリンは家に向かった。

 

 

 家の扉を開けると、既に家の中に戻っていたショウが不思議そうな表情をして出てきた。

 

「どうした? そんなに焦って……」

「英莉奈が魔力切れで倒れた。寝かせられるところはあるか?」

「マジか!? 分かった、こっちだ」

 

 ショウは家の奥に向かった。

 

「ペレグリン、ご苦労様。後は俺だけで大丈夫だ」

「グゥ」

 

 恭介はペレグリンにお礼を言い、英莉奈を抱えてショウを追った。

 ショウは恭介を一つの部屋に通した。

 

「ここは来客用の寝室だ。ここなら大丈夫だろ?」

「ありがとな」

 

 恭介は英莉奈をベッドに寝かせた。

 

 

「それにしても……、今日が初日とはいえ、魔力切れなんて早々起こるもんじゃないぞ。一体何をやらせたんだ?」

 

 英莉奈を寝かせた部屋から出ると、ショウは呆れた様子で恭介に聞いた。

 

「英莉奈がちょっと変わっててな。基本どころか中位も一発で成功させたんだが、いかんせん威力が小さ過ぎたんだよ。それで駄目元で上位をやらせたらこれも一発で成功して、そのままぶっ倒れたって訳」

「お前、何をやらせてんだよ……。上位を一発で成功させる英莉奈もおかしいが……」

 

 ショウはそこまで言うと言葉を切り、何かを考え始めた。恭介は黙って次の言葉を待った。

 しばらくして、ショウは再び口を開いた。

 

「あくまでもそういう可能性があるって話だけど、英莉奈は魔力量が少ない代わりに、持っている魔力の質が高いんじゃないのか? それだったら、身に余る魔力を扱いきれないって考えれば説明がつくだろ?」

「確かにそうかもな……」

 

 恭介はショウの仮説に同意した。

 ……英莉奈はこちらの常識すらも通じないものを持っている。向こうの世界とこちらの世界の関係を解く鍵になるかもしれない、そうすれば向こうに戻るためのより良い方法が見つかるかもしれない、と恭介は思った。

 

「まあ、とりあえずは英莉奈が起きないことには話が始まらないな」

 

 ショウの言葉に恭介は深く頷いた。


補足。

回復術は対象者の魔力を活性化させて怪我を治したり体力を回復させたりするので、魔力切れには効果がありません。

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