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1-11.訪問と特訓

 英莉奈達が乗っている列車は定刻に目的の駅に着いた。

 英莉奈は列車から降り、駅員に切符を渡すと、駅から出た。

 車窓から景色を眺めていた時に思ったが、列車が進むにつれどんどん建物が減っていった。ここは建物が密集している、ギルドがある辺りと比べると、かなり畑や荒れ地が目立っている。

 

「そんなに遠くには行ってないのに、急に田舎っぽくなりましたね」

「ここはオロタガンの外れだからな。でもすぐに市街地に行けるし、この辺りが好きな人は多いんだぞ。ショウの家はあっちだ。付いてきて」

 

 英莉奈は先に歩き始めた恭介の後を追った。

 

 

 二十分くらい歩いた後、恭介は一軒の大きな家の前で立ち止まった。

 

「これがショウの家だ。竜も基本的にここにいるから敷地が広いだろ?」

 

 恭介はそう言うと玄関に向かい、呼び鈴を鳴らした。

 すぐにショウが扉を開けて出てきた。

 

「いらっしゃい。意外と早かったな」

 

 ショウの髪は寝癖が付いていた。起きたばかりなのだろうか。

 

「お前みたいに寝坊するよりはよっぽど良いだろ。ペレグリンは元気か?」

「もちろん。俺が世話してんだからな」

「英莉奈、こっちにペレグリンとショウの竜達がいるけど、すぐに見たいか?」

「お願いします」

「おい、俺を無視すんなってば!」

 

 三人でわいわい話しながら、家の隣の竜達がいるという建物に向かった。

 ショウが扉を開けて中に入り、英莉奈も中に入ると、三頭の竜がいた。英莉奈はそのうちの一頭がドネクスだと分かった。ショウは桜色がかった銀色の竜の頭を叩いていた。

 

「ペレグリン、なかなかこっちに来られなくてごめんな。元気だったか?」

 

 恭介が青い竜に向かって話しかけていた。

 

「英莉奈、この青い竜がペレグリンだ。飛ぶスピードはかなり速いんだぞ」

 

 恭介はそう言ってペレグリンを紹介した。

 英莉奈はペレグリンに向かって軽くお辞儀をした。

 

「清水英莉奈です」

『私に自己紹介するとは、随分と礼儀正しい奴だな』

「そんなことないですよ」

『……お前、私の言葉が分かるのか?』

 

 ペレグリンはドネクスの時と同じようにかなり驚いていた。

 

『やっぱりお前も驚くよな。俺は一度そいつに会ってるから分かるが、俺達の言葉を理解するのは間違いない。理由は分からないけどな』

 

 ドネクスがこちらに首を出すと同時にペレグリンに説明した。

 ペレグリンは首を傾げていたが、合点がいったのか英莉奈に近づいてきた。

 

『理由は分からなくても、こんな人間に出会えるとは私達は相当幸運だろうな。英莉奈、これから宜しく』

「宜しくお願いします」

 

 英莉奈はペレグリンの言葉に返した。

 その後も英莉奈はペレグリン達と話していると、ショウが先程まで世話をしていた竜を連れてきた。

 

「スイフトも入れてやりな。一頭だけ仲間外れじゃあ可哀想だろう」

 

 スイフトは英莉奈に興味があるらしく、すぐそばまで近づいて英莉奈を見つめていた。

 

『この子が私達の言葉が分かるの?』

『話せば分かる』

 

 ドネクスは何故かぶっきらぼうに答えた。スイフトはドネクスの様子には反応せず、さらに英莉奈を見回した。

 

『普通の人間にしか見えないけど……、本当に分かるんでしょうね?』

「分かりますよ。こうして答えられているでしょう?」

『確かにそうね。疑って悪かったわ』

 

 スイフトは英莉奈に素直に謝った。

 

 

 しばらくスイフトを含めた三頭の竜と話していると、恭介が英莉奈のもとに来た。

 

「英莉奈、そろそろ魔術の練習を始めるぞ。ペレグリン、スイフト、ドネクス、あまり遠くに行かなければ外に出て良いってさ」

 

 竜達は恭介の言葉を聞くと、一目散に建物から出て飛び立っていった。英莉奈はその光景に思わず見とれた。特にスイフトの光沢のある桜色の鱗が太陽の光を反射して輝いていた。

 竜達の姿が見えなくなるまで見送った後、英莉奈は恭介の方を向いた。

 恭介は英莉奈がこちらを向いたのを確認すると、魔術の説明を始めた。

 

「それじゃ、まずは魔力を感じるところから。弓道部だったなら集中するのは得意だよね? 自分の身体に意識を向けてみて。身体の真ん中のあたりに不思議なものがない? それが魔力だ」

 

 英莉奈は言われた通りにやってみると、確かに今までに感じたことのないものがあることが分かった。

 

「それらしいのがありました」

「よし、次だ。一番分かりやすい炎を出してみよう。魔力を指先に伝えて、指先で燃やすようにイメージしながら呪文を唱える。基本的に呪文は英語。炎だったらファイア。俺がやるから見てみな。ファイア!」

 

 恭介が呪文を唱えると、恭介が前に出していた指先に炎が灯った。

 

「凄い……」

「呪文は魔力を増幅させる効果があるだけだから、使いたい魔術の消費魔力が少ない場合、呪文を唱えなくても発動できる。いわゆる無詠唱ってやつだな。こんな感じさ」

 

 恭介は今度は何も言わずに炎を灯してみせた。

 

「ちなみに、魔術師が使う杖にも魔力増幅効果があるから、魔術師は無詠唱で強力な魔術を発動できるんだ。竜騎士になるのなら関係ない話だけどな。……さて、英莉奈もやってみな」

 

 英莉奈は言われたようにイメージし、呪文を唱えた。すると、かなり小さな炎ではあるが灯すことができた。

 

「見てください、できましたよ!」

 

 英莉奈ははしゃぎながら恭介に言ったが、恭介は複雑な顔をしていた。

 

「一発で成功する人はあまりいないから英莉奈は凄いんだろうけど、いくらなんでも威力が弱過ぎるんだよな……。もう少し消費する魔力を増やしてやってみてくれないか?」

 

 英莉奈はもう一度試してみたが、先程よりも少しだけ炎が大きくなっただけだった。恭介が無詠唱で出した炎よりも小さいのだ。

 恭介は英莉奈がなかなか上手くいかないので首を捻った。

 

「呪文の唱え方が悪いのか……? 英莉奈、一度無詠唱でやってくれるか?」

 

 英莉奈はできるだけ多くの魔力を流したが、今にも消えてしまいそうなほど小さな炎が点いただけだった。

 

「呪文ではなかったか……。英莉奈、何か心当たりはないか?」

「そう言われても、ついさっき魔力が何か分かったばかりなんですから、心当たりと言われてもよく分からないです」

 

 英莉奈もなかなか炎を大きくできずに困っていた。


余談。

スイフトは英語で雨燕(あまつばめ)という意味。

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