1-9.お買い物
英莉奈が入った書店は個人経営の小さなものだったが、書棚にはぎっしりと本が並べられていて、中では結構な人数が立ち読みをしていた。
英莉奈はその中で、就職と書かれた札がある一角を目指した。そこの棚には竜騎士についての本がいくつも並べられていた。
やはり、竜騎士は人気があるのだな、と英莉奈は思った。
その中から、英莉奈は竜騎士入門という本を手に取った。その本には竜騎士の一日の過ごし方や、入隊試験についての説明など、役に立つ情報が載っていた。
「この本なら勉強になるかも。買ってみよう」
英莉奈はその本を買うことにした。
「まだ時間は大分残ってるな……。服も見てみるかな。この服だけじゃ流石に嫌だし」
英莉奈はそう呟き、また街を探索し始めた。
しばらく街を見て回った後、良さそうな服屋を見つけたので、英莉奈はその店に入った。
「やっぱり制服みたいにスカートだと寒いんだよなあ……」
「何かお探しですか?」
店員が英莉奈のもとに来た。英莉奈は少し考えた後に話を続けた。
「ズボンと上着を探しています。安くて着心地が良いものはありますか?」
「こちらはどうですか?」
英莉奈は渡されたズボンと上着を見た。デザインは地味だったが高級感があり、暖かそうだったので良いかもしれない、と英莉奈は思った。
「試着しても良いですか?」
「もちろんです。こちらにどうぞ」
英莉奈は試着室に案内され、中に入った。試着室の中で値札を確認してみると、思っていたよりも安かった。実際に着てみると、軽い割に暖かく、大きさも合っていて動きやすかった。今着ている制服上下とコートよりも遥かに良い、と思った。
こちらでの相場は分からないけれど、向こうの基準で考えるとかなりお買い得だな、と英莉奈は思い、両方とも買うことにした。
「どうですか?」
「大きさも大丈夫でしたし、両方ともお願いします」
「ありがとうございます」
お金を払った後、店員に見送られて英莉奈は服屋を出た。
荷物が増えたので一旦帰ろうと思い、英莉奈は来た道を戻っていると、左右の建物が途切れたところから細い道が延びているのを見つけた。
「登り坂……? この辺はあまり坂がなかったし、行ってみようかな」
英莉奈はその道を進んでみることにした。
坂はそれなりに長いようで、しばらく歩いてもまだ緩い坂が続いていた。また、道はかなり荒れていた。舗装がされていないのはどこも同じだが、この道は草が生い茂っていた。ほとんど人が通らないのだろう。
この間までは大通りでも雪が積もっていたので、雪が積もっていない分だけましだろうな、と英莉奈は思った。
坂の頂上に着き、振り返ると、英莉奈は思わず声を上げた。
「うわっ、すごい景色。この辺だけ高くなってるんだ。」
かなり高い場所という訳ではなかったが、周りの建物も高いものがなかったので、遠くまで見渡すことが出来た。
「……荒れ地ばかりだし、ここに家を建ててもらおうかな。ギルドにも駅にもそれほど遠くないし、良い場所だよね」
英莉奈は嬉しそうに呟くと、恭介の家に戻っていった。
家に戻った後、英莉奈は買ったばかりの竜騎士についての本を読んでいた。
認定試験が竜に認められることだと知って、英莉奈は驚いたと同時に、少し安心した。
学科試験があったり、実技試験があったりすると英莉奈は不利だと思っていたためだ。ここの知識は全くないも同然であり、身体能力も高いとは言えないのだ。
しかし、竜に認められるのが条件ならば、英莉奈が説得すれば応えてくれる竜がいるかもしれない。そう考えると、むしろ英莉奈の方が有利になる。
ただ、魔術が使えないと竜とろくに戦えないことも分かり、なんとかして魔術を身に付けなければ、と思った。
また、武器を最低一つは持っていないと、いざという時に対応できないことも分かった。武器はすぐに手に入れられるだろうと英莉奈は思った。
一通り読んだ後、英莉奈は武器を探しに家を出た。
先程の繁華街に行き、竜騎士らしき人が頻繁に出入りしている武器屋を見つけた。英莉奈は少し入るのに躊躇ったが、勇気を出して入っていった。
英莉奈は自分が扱うことができるのは弓だけだと思い、弓が並べてあるところに向かった。
西洋弓のようなものばかりが並んでいたが、和弓のようなものもあったので安心した。
数はあるが、どれも値段が高いのでどうすべきか英莉奈が考えていると、店主らしき人が英莉奈に話しかけた。
「ちょっとそこの君、ここは君みたいな人が来るような場所じゃないよ」
確かに、竜騎士のように鍛えている訳ではないので、英莉奈は周りの人から比べるとかなり貧弱に見えた。
「これでも一応弓は引けますよ。これを試し引きさせてもらえますか?」
英莉奈はさっきから気になっていた弓を指差して言った。
「そこまで言うなら……。疑っている訳じゃないけど、あなたの腕前を見させてもらうよ」
店主はそう言って英莉奈を的の前に案内した。的も弓道で使われるものと似ていたので、英莉奈は一安心した。
一通り準備を済ませた後、英莉奈は弓に矢を番え、的に視線を向けた。そのまま少しずつ弓を引いていく。普段引いている弓よりも若干重かったが、十分引ける範囲だった。
こちらに来て弓を引くのは初めてだが、今までと同じ感覚で引けている。英莉奈はそう思い、心を落ち着けた後、矢を放った。
小気味良い音と共に放たれた矢は、見事に的に中った。英莉奈はホッと息をついた。
「いやー、見事。人は見かけによらないな。それだけの腕があれば弓も喜ぶだろう。買うのはこれで良いかい?」
「癖がなくて引きやすかったので、この弓でお願いします」
「分かった。特別に二割引きにしてやるよ」
「良いんですか!? ありがとうございます!」
店主が素直に褒めた上に、弓を値引きしてくれたので、英莉奈はとても嬉しくなった。
英莉奈はその弓と弓懸、矢を数本買って店を出た。
さすがにこれ以上お金を使う訳にはいかないので、英莉奈は家に戻った。
弓を背負っているためか、通行人がこちらをちらちら見てきたが、英莉奈は慣れているので気にならなかった。