歓迎しない! 『智和×智和』
僕が……主人公……ねえ。
だとしたらこの世界は僕を基盤として成り立っているという事になるのか?
病院の廊下で、僕は考えている。
謎の男により、A高校2年Bクラス全員が負傷してしまったために、全員入院。
皆、目立った傷はないのだけれど、全員立ち上がる事が出来ないそうだ。
やはりあの男は強すぎる。
でも、あれより強い奴が上にいる。
主人公なら、敵の黒幕を倒す事ができるだろう。
僕は主人公らしいけど、自分にすごい力があるとは思えないんだよな。
少し前だったらそう思えたかもしれない。
けれど今はもうあの『強大な力』はない。
……何弱気になっているんだ僕は!
そうだ……あの日俺は誓ったはずだ。
『絶対に母さんを生き返らせる』って。
普通は嫌いなんだよ。
病院から出ると、外は暗かった。
外灯の明かりのおかげで、なんとか安全には帰れそうだ。
何もなければね…。
翠蓮寺は家の事情で早く帰っている。
今は僕一人なわけだ。
家まであと1キロ程度といったところで、外灯がない路地に来た。暗くて向こうの方は見えない。
僕はその時、また変な感覚がする。
誰かが…来る!
確信した。
「やあ智和君。」
驚いた。
だって目の前にいたのは、
『僕』だから――
「君は本当にすごいよ。流石は主人公。」
「…………」
「でも、私も主人公なんだよ。」
「お前は……」
「だって僕は『佐々木智和』だから。」
!
やはりな。
「僕はこの世界とは別の世界の『佐々木智和』なんだ。つまり異世界人だね。」
「なるほどな。それじゃあ組織の親玉もお前だな。」
「どうして今の会話の流れでそういう結論になるのかな?」
「黙れ。」
お前が今此処に現れている事が何よりの証拠だ。
「ハハッ、そうだね。私が『ゼロ』の親玉さ。」
『ゼロ』どうやら敵組織の名前のようだ。
「お前のせいで母さんは死んだ!」
「間違いではないね。でもやったのは私じゃない。」
「お前人ごとみたいに!」
「だって事実でしょう?」
「黙れぇ!」
「フッ、智和君。君では私を制することは出来ないよ。」
智和が、目を細めてこちらを見る。
「私は漫画やアニメでいう原作者さ。私の言うことは絶対なんだよ。そして君は執筆者。物語を直で動かす。そう、私たちは主人公。でも、君では、物語を創造することは出来ないんだよ。」
智和の左眼が銀色に光を放つ。
辺りの風が異常に強くなる。
立っていられない。
「君の母親を生かしておけばまた新たな驚異が生まれるかもしれない。だから殺した。君もまた新たな驚異を生み出すかもしれない。だから殺す。フフッ、じゃあ君の妹も殺さなくてはね。」
「ぶっ殺すぞテメエ! 葵に手ぇ出したら死んでもテメエを殺しに行くからなぁ!!」
「ハッハッハッ。やっぱり君は……危険だぁ!!」
智和の左眼に紋章が現れる。
「消えろ厄災! 貴様は…」
「待ってえぇ!」
その時僕の視界に、予想もしない人物が現れた。
「静華!?」
智和が、驚いた表情で彼女の名前を呼ぶ。
麻生静華。僕の彼女だ。
何故あいつは彼女の事を知っている?
「・・・・・・・・!!」
彼女が何か喋ったが、強い風の音に遮られ聞こえなかった。
刹那――
黒い光が僕達を包んだ。
第二部 普通は嫌いだ! 反撃の智和! 完