佐々木 智和
今ある全てをこれにつぎ込みました。(ガチです
突然だが、母さんの話をさせてもらう。
母さんはシングルマザーだ。僕たちをたった一人で養ってくれた。
毎日愛情がこもったご飯を作ってくれて、支えてくれてありがとう。
当たり前のことかもしれないけれど、それこそが本当の幸せ。幸福なんだよ。
とっても優しくて、強くて―そんな母さんを僕は好きだ。大好きだ。
笑ってくれて、怒ってくれて、泣いてくれて、支えてくれて、愛してくれてありがとう。
この気持ちを伝えるのは恥ずかしいが、今日帰ったら伝えようと思ってた。ちょうど節目だったし。
『智和、葵。お母さんは智和のためだったら、葵のためだったら、何でもがんばれるのよ。』
『100点採ったの? すごいじゃない。今夜はお母さんお料理がんばっちゃうわ!』
『がんばれ! 智和!』
「はいもしもし」
そのとき、体中に電気が走るような感覚が僕を襲った。
『イマスグダイサンコウジョウアトニコイ』
今すぐ第三工場跡に来い。
『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
僕は全力で走る。
僕は知っている。
シラナイ
本当は知っている。
ウルサイ
目を逸らすな。
ダマレ
僕は全て知っている。
ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
悲しい怯えるような気持ちが体を駆け回る。
底知れない寂しさと不安に苦しめられる。
ナンダ?
心が一本の糸のように痩せていく。
ドウシタ?
背中をつららで撫でられたように悪寒が走る。
もう全身汗でびちょびちょだ。
張り付くTシャツは気持ち悪い。
本当は知っているんだろう?
シッテイル
ガラ!
「来たか。」
「椎名君!」
椎名君は天井の鉄骨の上に乗っている。
コワイ
椎名君は笑っている。
オソロシイ
頭が痛い。
椎名君の笑顔が頭の中でフラッシュバックする。
何度も見た笑顔。
ソウ、ナンドモミタ
怖い
「…………」
何か言おうとしても舌が上顎にくっ付いたみたいで声が出ない。
「フッ、貴様は本当に恐ろしいやつだよ。能力といいなんといい。」
口角が上がっている。
怖い。全身もう鳥肌がたっている。
「さあて、ショーを始めますか―」
指を鳴らす椎名君。
『かああああああああああああああああさああああああああああああああああん!』
突然現れた俺の母、佐々木望
口には雑にガムテープが張られている。
何かをしゃべっているようだが、口がふさがっていて何もわからない。
動けない術でもかかっているのか、まったく体は動かない。
中に浮いている椎名君の前に、同じく浮いている。
顔面蒼白。
怖さに息も詰まる。声は出ず、膝はしきりに震えて立っていられない。
動け! 僕!
母さんの目には、涙がたまっている。助けて!というサインのようにとれた。
ウゴカナイ
スキルを使えよ!
「じゃあそういうわけだ。」
印を軽く切る椎名君
『ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
あるべきところにそれが無かった。
首が―無かった。
アリエナイ
ウソダ ウソダロ?
ドウイウコトダ?
ユメ? イヤチガウ
『『『『『『『『お前が何度も見てきたものだろう!』』』』』』』』
『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
僕はそこで93620648297回目の最後のスキルを使う。
夢想無双!
佐々木智和は、母を失った強いショックで、守れなかった悔しさで、自分を責める嫌悪感で、93620648298回目の1年生生活を始めた。
コウスレバイイ コウスレバ……
受け入れたくない! 嫌だ!
僕を引き止めさせているのは、僕だった。
第2部へ……