小話②【聖女曰く、『ある何でもない日』の真相】
そろそろ12月に差し掛かるかという日、ゼミの飲み会で、友人の恋愛話になった。
「お! ついに告白すんのか!」
「相手はマドンナだもんなー。勇次、勝率はどうよ?」
酔っ払いが囃し立てる中、話の主役の勇次もまた酔いの回った赤ら顔だ。
「まかせとけー! …って言いたいけど、でもなー…」
ちなみに勇次は泣き上戸だ。酒が入ると暗くなるので、まあまあとバシバシ叩いて慰めた。
「勇次は頼りになるからな! なんとかなるよ!」
と俺が言うと、ぐりん、と首を回して俺の手を掴んだ。
「言ったな! おまえ見てろよ! もしフられたら女装してクリスマス隣歩いてもらうからな!」
おおおお、と盛り上がって、やんややんやの大騒ぎ。
俺も正直、酔っていた。
「やってやるよ! ただし衣装はお前がよういしろよな!」
そして12月23日。
「聞いて喜べ! フられたぜ!」
ガラ、と勇次がゼミのドアを開けて入ってきた。
ちょうど、部屋にいたのはあの飲み会のメンバーだ。
それは残念だったな、と慰めようとしたのに、メンバーたちは席を立って、おおおお!! といきなり物凄いテンションに沸いた。
「勇次良くやった!」
「勇次ならやってくれると思ってた!」
「だっろー!! 褒めよ称えよこの俺様を!」
フられた、んだよな?
宝くじが当たったとかじゃないんだよな?
一人ついて行けない俺の前に、メンバーたちそれぞれからどさどさと何かを渡される。
首を傾げながら広げると……メイド服と猫ミミ?
「他にも選び放題だぞ!」
と各々服を広げる友人たちに、約1ヶ月前の約束を思い出して血の気が引いた。
見たことのない形のセーラー服や、ミニの婦人警官服、ピンクのナース服。メイド服は何故か三種類もあるし、レザーのホットパンツとカクテルドレスもある。
ここはキャバクラか何かか!?
「や、あんなの酒の場の悪ふざけだろ!?」
焦る俺に、メンバーはにやにやとにじり寄る。
「○っくみくにしてやんよ?」
「いやいや巡○ルカも似合うよ。パッドまで手に入れたんだぜ!」
「うおお!ホンモノみてぇ!」
「彼女のカットモデルするためだっけ? 髪伸ばしといて良かったな!」
「俺は基本に忠実にメイド押しで。御主人さまって言えよな!」
「「「さあ、どれを選びますかお嬢様!!」」」
「お前ら俺のこと嫌いだろ!」
鮮やか過ぎる連携に一言も挟めず、やっと反撃するのだが、
勇次がハッ、と鼻で笑って一言言った。
「俺たちはただ、リア充をリアル爆破してみたいだけだ!!」
「意味が分からないっ!!」
結局、押しに負けて一番まともなセーラー服を選んだ。手に取ると、
「ほむ○む行ったか…。髪は黒じゃないが妥協するか…」
とざわざわした。
怖い。これただのセーラーじゃないのか!?
翌朝、嫌々ながらセーラーを身に付けていると
「こうき、学校遅れるわよー」
と。
母 が と び ら を あ け た 。
セーラーのスカートに片足を半分入れた状態の間抜けな俺を見て、母は目を見開いた。
で、ぽん、と両手を打って。
「ついに目覚めたのね!」
斜め上の解釈!!
「どうしましょう! 今から成人式のお着物って間に合うのかしら!? こうき、今度一緒にお買い物行きましょうね!? お母さん娘も欲しかったのよ!!」
どうしましょう!と頬を押さえながら、振り返って叫ぶ。
「あなたー! こうきが、女の子になりたいってー!!」
ガタゴタガタ!!とリビングで酷い物音が響いた。
「こうしちゃいられないわ。お義母様達にも報告しなくちゃ!」
さっ、とエプロンのポケットから素早く携帯を取り出す母。
「母さんやめてええぇ!!」
俺は、爆破の意味を身に沁みて理解した。




