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王子による昔語り⑤

【王子:現在は呪いが解けたグレーテルによる回想】






 乳母から話を聞き終えると、私はようやく泣きやんで、目じりに溜まった涙をぬぐいました。

「アルブレヒト様。…いいえ、アルアリア様。確かに王妃様は大変な事をなさってしまいました。けれど、決して…」

 話すうちに一緒に泣きだしてしまった乳母に、私は微笑みました。

「大丈夫。もう私にも分かりますから。―――母は、私を確かに愛して下さっていました」

 乳母は私の手を固く握りしめ、はい、確かに。確かに。と何度も何度も頷きました。




 ふと、先ほどまで一緒にいたはずのコウキ様の姿が無いことに気付きました。

「聖女様なら先ほど外へ出られましたよ」

 乳母の言葉に、なんだか嫌な予感が胸をよぎります。

 私は慌てて扉を開け放って外へと走りました。




 廊下を駆け抜け、面倒な階段は飛び降り、窓を開け放って外へ出ます。

 引かれるように中庭に辿り着くと、今まさに近衛隊長に抱きしめられようとしている、真っ青なコウキ様のお姿がありました。


「その方に触れるな、ゴーウィン!!」


 腰から剣を引き出し、コウキ様を背に近衛隊長と対峙しました。

 彼は最初は不満そうにしましたが、強く睨むと掠れるような声で謝罪し、去ってきました。

 即座に振り返ってコウキ様の肩を掴みます。

「ご無事でしたか? お守りできず申し訳ありませんでした!」

 怯えた様子だったコウキ様は私を見て、失敗を見られてしまった子供のように無邪気な笑顔を見せて下さいました。

「恰好いいなあ、王子様」






「そうだったんですか…」

 私が乳母から聞いた話をすると、コウキ様は静かに頷きました。

「それで、どうするんですか?」

 問いかけられて私は戸惑いました。

「どうする、とは…」

「アル様は本当は女性です。戻りたくはありませんか?」


 戻りたい。


 自然と浮かび上がる自分の考えに苦笑しました。

 結局私は、いつだって自分の性別に疑問を持っていて、女性に憧れていたのです。


「心は決まったようですね。では、目を閉じてください」


 コウキ様が優しく言うのに従って、ゆっくりと目を閉じました。

 温かいものがふわりと体を包みます。ゆらゆらとそれは体の周りをゆらめいて、解けるように消えて行きました。

「…あれ?」

 コウキ様の戸惑う声を初めて聞きました。

 まだ開けて良いとは言われていませんが、そっと目を開きます。

 目の前には戸惑ってあちこちを見回すコウキ様が居て、見下ろすと私の手は大きめな男性のままでした。

「コウキ様。呪いは簡単には解けないからこそ恐れられているのです。破られる心配が無いからこそ、母も私にこの呪いを授けたのだと思います。この呪いも私の一部。共に生きて行こうと思います」

 偽りない本心で告げたのですが、コウキ様は「駄目だ!!」と叫びました。

 必死な大声も初めて聞きました。

「呪い…呪いを解く…解呪…恨み…呪い…祈祷…」

 ぶつぶつと呟きながら何かを考えている様子ですので、私は見守る事にして。そういえば呪いを掛けたり解いたりして人に悪さをするおとぎ話があったな、と思って呟きました。


「呪いなんて、おとぎ話の魔女くらいしか解けません」


「それだ!!」


 

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