何でも映せる水晶玉
息子を拾ってから10年が経ちました。
すっかり大きくなり、身長は腰が曲がった老婆の私の2倍はあります。2メートルくらいでしょうか。
腕の長さや太さは左右で違いますが器用に使って薪を集めてきてくれます。
足の細さや腹のでっぱりは飢餓の兆候だったので、今では筋肉に覆われてがっしりした体形です。
歯も生え揃い、歯並びは良く無いですが岩をも砕ける剛健さです。
ちなみに肌の色は、相変わらず緑です。
まるで魔物? 私の息子を悪く言うなら呪いますが何か。
そんな中、私は苦労に苦労を重ねて土魔法で造り出した、何でも映せる水晶玉を眺めていました。
「母さん、何見てるの?」
「王宮だよ」
嫌な気配がしたので久しぶりに、私を召喚した国を遠見します。
例の王子が王様になっていました。
それが再び異世界召喚をしてしまったようです。
丁度、光の中から1人の少女が浮かび上がり、不思議そうにきょろきょろと周囲を見回している場面でした。
『ようこそいらっしゃいました、聖女様。わたくしは、ロンダリア帝国の王、ヨアヒム=イルシアータ=ロンダリア。聖女様を召喚致しました』
『ここは、…異世界?』
『その通りです。聖女様には別の世界からいらして頂きました。ロンダリア帝国では100年に一度、異世界から召喚の儀を行っております。それは、王族に新しい血を入れる為です』
『これはわたくしの息子。第一王位継承者のアルブレヒトです』
『はじめして、聖女様。アルブレヒト=イルシアータ=ロンダリアです。どうぞアルとお呼び下さい』
腹黒王子が腹黒王にレベルアップして有る事無い事嘘っぱちを並べていました。
勇者の次は聖女ですか。この国の宗教が何だったか覚えていませんが、何かしらあるのでしょう。
不安そうに周囲を見回す少女はまるで小動物のように儚げです。
挨拶をする王子はキラキラしていますが水晶玉越しでは本性は良く分かりません。あの親なので期待はしないほうが良いでしょう。
これからどうなることやら。
私はため息をついて水晶玉の映像を消しました。