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聖女による闇魔法講座 実践編

 何にしても、庭先で屈強な男がしくしくと泣き続けているのはあまり良い気持ちではありませんので、丁重にお帰り頂きました。




「話ができる状況じゃなかったから帰したが、これはバレたと見て間違いないね」


 私の言葉に聖女も賛同します。


「そうですね。あの札はロンダリア帝国で見た事があります。通称『鴉』。国王の隠密私兵のはずです」


「あの連中、まだいたのかい…」


 私はため息をつきました。




 『鴉』という集団は、私が勇者をしている時期にも存在していました。


 魔王討伐の旅の間は、斥候に伝言に届け物に、と何でもできてとても便利だったのですが、ロンダリア帝国から逃げる時は幾度も先回りと邪魔をされて、追跡を巻くのにとても苦労した苦い思い出があります。


 彼らは、王の為ならその命すら捧げる変態たちなのです。


 変態とは関わらないのが一番。三十六計逃げるに如かず。敵前逃亡は決して恥では無いのです。


 という訳で、さっさと夜逃げしましょうか。


 


「荷物をまとめるよ」


 私は家へときびすを返しました。



 それと同時に、少女の悲痛な悲鳴が夜の闇に響きました。


 絹を裂くようなそれは、グレーテルのもの。


 私たちは即座に走り出しました。





 一歩足を踏み入れて、私は唖然としました。


 家の中には、銀色の甲冑に身を包んだ騎士たちがひしめいていたのです。


 泥靴で踏み荒らされた床。散らばった割れた食器。家具もいくつか壊されています。


 家の中を荒らし続ける騎士たちの中心に、グレーテルを後ろ手に拘束する騎士がいました。


 騎士とグレーテルがこちらに気付きます。




「グレーテル!」


 息子が必死で叫びます。


「来ては駄目です!」


 グレーテルが悲痛な悲鳴をあげると、黙れとでもいうのか騎士がその細腕を捻りあげて、可憐な双眸が痛みに歪みました。


 息子の背中に瞬時に殺気が浮かびます。


 そのまま突撃してしまいそうな息子を私と聖女で押しとどめ、聖女が指を一振りすると騎士たちの兜が次々と床に落ちました。




 そして、生き生きと聖女が声を張り上げます。


「ブサイク!!」


「モテない!!」


「豚っ鼻!!」


「気持ち悪い!!」


 可憐な少女の罵倒という闇魔法に、次々と屈強な騎士たちが倒れていきます。あたりは一瞬で、野太い男たちのしくしくとした啜り泣きに満たされてしまいました。


 抜群の効果です。とくに最後の 気持ち悪い、は群を抜いて効き目がありました。


「聖女様に気持ち悪いって言われた…」


 啜り泣きに嘆く声が混じります。




「ほら、何か言って?」




 頬を薔薇色に染めた聖女が満足そうに振り返ると、息子は若干怯えながらもグレーテルを拘束する男をキッと睨みつけました。




「息が臭い!!」


 あ、何人か倒れた。



 そうして2人がかりで悪口…身体的特徴…コンプレック? を示唆し続けるという極めて平和的な闇魔法が連発されて数分後。


 そこには、立っている騎士は一人として残っていないのでした。


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