帰ってきた日常に。
王子が王女で息子が美少年になってから何日か経ちました。
息子は何度も鏡を見ては、首を傾げて腕や髪を不思議そうに眺めています。
魔族疑惑は、鏡の映像を一度見せたら霧散しました。息子の人生最初の我儘は不発に終わり、こちらとしても胸をなでおろす思いです。
10歳で独り立ちは早すぎると思うんですよ。
それから、立ち居振る舞いや言葉遣いから男っぽさが抜けず、王女様はどうにも宝塚っぽくなってしまっています。
私は恰好良いと思うのですが、この世界としては…まあ、良くないようで。
「魔女さん、料理を教えてください!」
女子力を高める選択をしたグレーテルに料理を教えたら、記憶力が良いのか手際が良いのか、めきめきと上達して、今や我が家の料理担当はグレーテルです。
ちなみに掃除や洗濯や庭の管理など、その他の家事はこれまでどおりに家事チート持ちの聖女が担当しています。
なんだか本当にお婆ちゃんになってしまった気分です。
暇だなぁ、とグレーテルが淹れてくれたお茶を啜りながら庭を眺めていると、必死の形相で棒切れを振りおろしている息子が目に映りました。
「何してるの?」
「力が、っ…落ちて、何にも、出来なくなっちゃったから…」
息も絶え絶えになりながら答えてくれます。
確かに、以前の威風堂々とした巨人の両腕に比べたら、今は年相応。10歳の少年の、細い両腕がそこにありました。筋肉もあまりついておらず、柳のようにしなやかで白い腕です。
グレーテルが女子力向上に燃える一方、息子は男を上げる為に頑張っていたのですね。
ふむ、と私は頷きました。
「母さんが鍛えてあげようか?」
えっ、と驚く息子に微笑みかけます。
「母さんもね、ちょっと腕の衰えが気になっていた所なの」




