魔族を風船
「時は満ちた! よくやった魔女よ」
もうもうと湧き立つ埃の向こうから、低くひび割れ、それでいてガラスを引っ掻くような不快音が混じった声が響きます。
この特徴は、13年前散々戦った魔族のものです。
「お前には大した期待はしていなかったが、陛下は立派に育たれた。褒めてつかわそう」
高慢な声が言い放ちますが、意味が分かりません。
不明瞭な視界の向こうで、バサリ、と翼の開く音がして、声の主は飛び立ちました。
不気味なシルエットは脇に何かを抱えています。
何が何だか分かりませんが、急襲してきた魔族が大切なものを奪って行ったことだけはすぐに理解しました。
防御を解いて目を見開きます。欠片が降ってきていますが、構っている暇はありません。
いつでも出せるように腕に仕込んでいる大弓を実体化し、構えました。
目に映るのは、大穴の開いた天井。
その向こう、上空に飛ぶ黒い魔族。
その手が掴む私の息子。
――――――返せ!!
弓を引き絞り放つと、魔族の翼を打ち抜きました。しかし一枚だけで、魔族はバランスを崩しながらも滞空しています。
13年間ろくに鍛えていなかった、腕の衰えに舌を打ちます。
もう一撃打とうとすると、聖女が近寄ってきて止めました。
邪魔だと睨みますが、聖女は安心させるように微笑みます。
そしてパチン、と指を鳴らすと、上空で魔族が風船のように弾けました。
落ちてくる息子を風魔法が柔らかく包み、私たちの元にゆっくりと降りてきました。




