もうチート鏡でいいと思う。
夜。
珍しく寝苦しさを感じて目が覚めました。
喉が乾いた気がして、のっそりと起き上がりました。
水場は暖炉の部屋を通って隣です。
王子が丸まって幸せそうな寝息を立てているのを見ながら歩いていると、ふと、昼間の鏡が視界の端に入りました。
本当に何でも映せる鏡。
これを、聖女は一瞬で作り上げた…。
立ち止まってぼうっと見ていると、いつの間にかそこには私ではない人が映っています。
長い黒髪。
真っ白い肌。
華奢で長い手足。
シャープな輪郭に、少し垂れた目尻。
どこか寂しげに、不安そうにこちらを見ています。
なんだか、見覚えがあるような、ひどく懐かしいような…
て。
「私か!!」
慌てて自分の口を塞ぎながら後退します。
記憶にあるよりずっと大人になっていますが、よく見れば自分の顔でした。
呪いが解けた?
けれど、自分の手はしわしわのままです。
鏡を見ると、ゆっくりと今の私の姿に戻っていきました。
うわぁ…。
この鏡、呪いすらも透かして見れるらしいです。
今更昔の姿なんて見せられないので、大きな布を持ってきて鏡を覆いました。
で、とりあえず寝ました。
翌朝。
「あれ? 鏡にカバーを掛けたんですか?」
きょとんと聞いてくる聖女に、汚れがつくからね、と私は答えました。
聖女よ。とんでもないものを作った自覚はまったくないね?
これは怖い怖いチート鏡なんだよ。




