何でもかんでも映せる鏡
「勝手に持ってきたら泥棒になっちゃいますよ?」
無言でお金を投げ入れた私を見て、息子が聖女からりんごを受け取りつつフォローしています。
聖女は最初は不思議そうでしたが、私の不機嫌に気付くと慌てて謝罪を始めました。
その態度で分かります。
常習犯だな?
「申し訳ありません! 払います!」
「いいよ」
沢山の資金を持っているようですが、こうなってはそれすらどこから持ってきたか怪しいものです。
「ペンダントと鏡の代金は払うから。あんたはとっとと出て行きな?」
「ちが、違うんです!これを見て!」
聖女がばしっと音を立てて鏡を叩きました。
鏡面に、実像ではないものが映し出されました。
それは、街の中を狂ったような勢いで走る、馬車でした。御者がしきりに手綱を引いていますが、馬の口からは泡が溢れ、もはや誰にもどうにも出来ないことは明白でした。
その馬車の進行方向に、八百屋がありました。中には呆然と立ち竦む幼い子供がいます。
母親の悲鳴が響く中、今まさに馬車が店に突っ込むという時に間に立ちふさがる影が。
「止まれ!!」
ぱしん、と何かに弾かれて馬は止まり、ゆっくりと座り込んで眠り出しました。
「ありがとう!! あんたは店と娘の恩人だよ! 家の野菜でよければいつでも好きなだけ持って行っておくれ!」
女性のアップが消えると、もとの鏡に戻りました。
「だから泥棒じゃない! 信じて!!」
私が頷くと、聖女は目に浮かんだ涙を指で拭って、ほっと息をつきました。
鏡が何でも写りすぎて怖い。




