土魔法が使えます。
私は土魔法が使えます。
それも、この国には二人といないような、高度な使い手…と言われましたが、私自身の何かが優れている訳ではなくて、ただ膨大な魔力を持っているというだけです。
とはいえ、魔力さえあれば、理論上はいくらでも連続して魔法が使えてしまいます。
どうやら『異世界召喚』で身についたらしいこの特殊技能は、魔王との戦いでとても役に立ちました。魔法なんてもちろん一度も使ったことがない私がやってこれたのも、どんな土魔法もとにかく魔力を込めての力技がこなせたからなのです。
その度に、魔法の師匠である宮廷魔術師長や、仲間の魔法使いたちは遠い目をして「勿体ない」とか「余ってるなら分けてくれ」とか「その十分の一でいいのに・・・」とか言っていましたが。
仕方ないですよね?
習ったばかりでまだまだ下手だったのですから。
ですが、一年の激闘の末に、私の魔力操作も大分板についたものになりました。
少しだけ思い出したまだ楽しかった過去を胸に、私はやっと登ってきた山の中に広がった丘を眺めます。
頂上ではないけれど、麓から近すぎもしない。
行商人が通る山道は近くにあるけれど、彼らはその道を外れることは決してない。
文句なしに良い場所です。
さて、と手を広げて、まずは土を柔らかく変えて、付近に生えていた木を倒します。木は後でマキにしたいので、地面を波立たせて脇に寄せてしまいます。
次に、畑のスペースも考えて、広めに地面を平坦に均します。
そういえば、呪文も無しに手の動きや『なんとなく考える』だけで魔法が使える人も珍しいらしく、このことを知るたびに魔法使いたちは何かを諦めた顔になっていました。
呪文は長かったり発音の難しいものばかりなので、そこはとてもありがたかったです。
では、たった今作り上げた山の中の空き地に、家を立てましょう。
土魔法は数ある属性の中ではポピュラーで、使い勝手の良い魔法です。土製のものを記録して、復元する『創造』という魔法もあります。
そして、魔力が大きければ『家』も『創造』できるのです。
(『砦』を『創造』したときは、宮廷魔術師長、泣いてました)
私が住みたいのは、王都で見たレンガ作りのこじんまりとした家です。住んでいたのは、お仕事を引退された、国立図書館の元館長と夫人でした。
仲良くして頂いて良い思い出の詰まった家ですし、隠居するには憧れの平屋の一戸建てです。少しだけ改造して、リビングに大きな窓を付けて日当たりを良くしてみます。
それから、家の右側の土に魔力を大量に注ぎ込んで品質改良してしまいます。
どんな作物も作れるように、どの作物も美味しくなるように。しかもどれだけ使ったとしても、一週間もすれば元通り。
魔法って、凄いですよね。栄養もあるのに、肥料は魔力だけなのですから。
そして最後に、家と畑を包み込んで、私が作れる最高硬度の魔法結界を張ります。
野生の動物も入ってこれませんし、隕石が落ちてきても潰れません。万が一、隣の国との戦争の魔法砲の打ち合いに巻き込まれたとしても無事でしょう。
さあ、ようやく我が家の完成です。
初めての一人暮らしですが、何とかやっていけるでしょう。