届かない祈り
高校3年生になって数ヶ月が経った頃だった。
「あそこの空席だよ、捕まったんだって。」
「この前の殺傷事件だろ?誕生日が早いから名前も出てたわ。」
「あんなにおとなしそうなやつがまさかな…。」
「今週ずっと休んでたしな。」
「でも精神異常だったらしいぜ?だから刃物を振り回した後に自分を刺したんだってよ。今は入院してるんだとさ。」
「結構ヤバいやつだったんだな。」
そんなクラスメイトの会話がサクラの耳に入ってくる。
空席のって………。
紛れもないシヅキの席だ。
先週まで一緒に話してたあいつが?
サクラの頭は真っ白だった。
サクラとシヅキは親友だった。
サクラはとても明るくて男女問わずどんな人とも接することができてみんなにも慕われていた。
シヅキはとにかくおとなしかった。いつも教室の隅で1人、本を読んでいた。
「その本知ってる!どこまで読んだ!?」
「えぇっと…ここ?」
そんな些細な共通点が真逆の二人を引き合わせるきっかけになった。
「どこに行くの?」
「シヅキに会いに面会行ってくる。」
「……………わかった。」
お母さんは何も言わなかった、仲良くしてたことはよく知っていたからだろうか。
病院の面会室はやけに静かだ。
そしてガラスの向こう側にはシヅキが座っている。
どう接すれば良いのかわからず、沈黙が続いた。
「元気してる?」
だんだん気まずくなってなんとなくそう話しかけた。
元気なはずがないのに…。
「元気だよ、なんで会いにきたの…。」
苦笑いしながら話すシヅキと目線が合わない。
「だって友達だし…それにこんなに近くにいたのにシヅキが辛かったのに気づけなかったから申し訳なくて。ごめんね、会いたくなかったよね。」
その途端目を見開いてシヅキは僕を見た。
「そ、そんなこと言わないでよ。サクラは何も悪くない、全部俺の責任だから。ごめんなさい、ごめんなさい!!本当に…ごめん…。」
泣きながらそう言うシヅキ。
気づけば僕も泣いていた。
そろそろ面会時間が終わる。
「全部なんて言わないでよ、これからも会いにくるから待ってて。」
僕は笑顔でそう言って、面会室を出た。
それからも僕は受験勉強の合間にシヅキに会いに行った。
最初のうちはお互いに口数が少なかったが、だんだんあの頃のように楽しく話すようになっていった。
そして僕も高校を卒業して約2年後、シヅキは退院して社会復帰した。
「1人暮らしできそうな部屋借りれた?」
「うん、保護司が保証人になってくれてなんとかね。家賃もバイト代でギリ払えるかな。」
僕はそう聞いて少しホッとしたが、少し不安も残っていた。
「じゃあ住所教えて!遊びに行くから!」
そう言うとシヅキはびっくりした様子だったけど、恥ずかしそうに教えてくれた。
「今から映画行こ!!」
それからはよくシヅキに会いに行ったり遊びにもたくさん誘った。
「いいけど、何観るの?」
「これ。」
「ホラー映画じゃん!!怖いよぉ…。」
なんやかんや一緒にホラー映画を観てくれたけど映画が終わるとシヅキは涙目だった。
「20歳の誕生日おめでとう!!!!!」
そう言って僕は弱めのお酒と本を渡した。
「あ、ありがとう!てかこの本って…」
「うん!!続編が出たから買った!」
「すごぉ!!本当にありがとう!また読むね!サクラの誕生日ってクリスマスイブだっけ?絶対に祝う!」
「じゃあクリスマスもシヅキの家行くわ!」
僕はもちろん19歳なのでお酒は飲まなかったが、その日は酔ったシヅキに捕まって帰れなかった。
「前髪長くない?切らんの?」
「いや俺はこれでいいよ…。」
「ん〜〜あっこれいいじゃん!!!」
そう言って僕はシヅキの前髪をあげてピンで止めた。
「似合うよw」
「えっあ、う、うん……。」
すごく苦笑いして鏡と睨めっこしている。」
でも内心邪魔だったのか、時々この髪型で見かけるようになった。
そんな何気ない日々を過ごしていた。
でもその反面シヅキの事件について知っている近所の人からはよく避けられていたり、周りの目はとにかく厳しかった。
シヅキも時々辛そうで通院しているし薬も飲んでいるが、それでも苦しそうだった。
僕はその度にシヅキが自殺してしまうんじゃないかと怯えていた。
だから暇があればいつでも会いに行っていたし、僕もシヅキの前では笑顔でいることを心がけた。
「寒いなぁ、今日はクリスマスか。」
夕方、歩きながらスマホの画面を見て呟く。
一緒にクリスマスを過ごす約束もしてたし酒でも買っていくか。
そう思っているとスマホに一件の通知が来た。
シヅキからだ。
普段シヅキから連絡がくることなんて滅多にない。
メッセージを見てみると
『メリークリスマス』
と一言来ていただけだった。
その瞬間、すごく嫌な予感がした。
とにかく気分が悪くてお酒を買うことも忘れてシヅキの家まで夢中で走った。
こんな何気ない言葉なのに…どうしてこんなに気分が悪いんだ…。
いつものようにインターホンを鳴らす。
出てこないし返事もない。
前に貰った合鍵を使ってドアを開ける。
中に入った瞬間金臭い匂いが僕の鼻を刺した。
クラクラする…。
重い足取りで部屋の方へ行く。
部屋はいつも以上に散らかっていた。
散らばった本、ぐしゃぐしゃになった衣服、座卓テーブルの上には薬やピン、僕のあげた本も置いてある。
床の血溜まり、赤く染まったカーテン、そして……………
壁に寄りかかって真っ赤になったシヅキが………………。
包丁が刺さってる、右手には血が付いたスマホがある。
僕とのメッセージ画面が映し出されている。
「なんで……………?」
もう返事は返ってこない。
パニックで刺したのだろうか…。
もう誰にも真実はわからない。
シヅキが死んだ、その事実があるだけだ。
僕はその場で立ち尽くしていた。
白黒の中で赤色だけがやけに目立つ、そんな感覚に襲われていた。
サンタさん、シヅキと明日を迎えさせてください…。
大人になった僕の声はサンタの耳にすら届かないだろう。
赤く染まったクリスマス――時計の針だけが、僕を置き去りにして進んでいった。
腑に落ちないところもあるかもしれませんが、あとは想像にお任せしたいと思います。




