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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編ホラー

寝言

作者: 壱原 一

結婚を視野に入れて恋人と同棲を始めた。


恋人は映画鑑賞が趣味で、ブルーレイやらの収集品が多い。よって元から所蔵室を複数確保できる古くも広い安物件に住んでいた為、こちらが移り住んだ。


些細な喧嘩や仲直りを挟みながら順調に同棲生活を営んでいた折、恋人が手強い風邪を引き、所蔵室で静養する運びになった。


しゅんとしょげているのが何とも労しく、我ながら熱心に看病し続けて迎えた休前日。流石に疲れたのか、夜寝る前に所蔵室へ寄って恋人の寝顔を眺めている内にいつの間にか寝入ってしまった。


寝入っていたと気付いたのは、夜半、近くで極々ちいさな音量の人の発話を聞き咎めて意識が浮上したからである。


声は結構な抑揚と張りがあって、断続的に延々と続いていて、1人分切りと思われる。


リビングで映画つけっ放しだったかなと目を開け、暗い所蔵室で眠る恋人の姿を夜目に認めてゆきながら怪訝に耳を澄ます。程なく謎の人声が、恋人の口元から漏れ聞こえていると識別した。


鼻が詰まっている所為で口呼吸に薄ら開いた乾き気味の唇から、全然恋人でない誰かの、どうやら激情に駆られている叫び声が、まるで再生機器の音量を下げている風に小さく小さく漏れている。


恋人の口端に耳を向け、ほんのり首を傾ける。声は切羽詰まって割れ、わなわな震えており、繰り返し人名を呼んで、謝り、制止し、懇願し、嘆いて、命乞いをして、「誰か」に助けを求めている。


時おり一際たかぶって乱れ、暫く長々と尾を引き、やがてこの世の終わりの様にさめざめと啜り泣いている。


じんわり顔を顰めつつ身じろぎもせず聞いていると、不意に、発熱した唇がふっくら耳朶へ押し付けられ、触れたままさりさりと動いて、病んで熱い息を吹き掛ける。


うん…どうしたの、□□。


心から安らいだ声で、眠たそうにぼんやり問い掛けられ、慕わしげに鼻先で懐かれた後に、寄せていた顔を元に戻す。


恋人はきっと暗闇の中で目を凝らしてこちらを見詰めている。


今まであんな人声は聞いた事がない。


誰だ。なぜ今夜。この部屋だから?


この人の名前ではなかったか。


それにしても広い家と思っていた。


もしかして。


実際に?


何を莫迦な。


映画の見過ぎだろう。


こんなに良い人なんだから。


長い沈黙に、恋人が起き上がろうとする。そっと額に手を当てて、「少し下がったね」と発する。


映画の見過ぎに違いない。


こんなに良い人なんだから。


だから、何気なく伝える。


「寝言、言ってたよ」



終.

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