小さな友だちVS犬猿幼なじみ!?6
横にいた健太くんが小声で「貸してください」としゃべり、手を出してきた。
なんだろうと思いつつ右手を彼の小さな手の上に置く。
「――スマホです、スマホ」
「あっ、なるほどね」
茶々丸がお手をするのとは、わけが違うんだよ。顔から火がふき出しそうになりながら、通話中のスマホを渡した。
「あっ、お電話変わりました、三上です。今、犬伏さんは、おれとデート中です」
「んんっ?」
これまた初耳だと目を丸くしていれば、微笑した健太くんが空いている手のほうの人差し指を唇の前で立てた。
「今は無理でも十年後には合法ですよ。悔しかったら早く犬伏さんを迎えに来てください。それじゃ」
スマホの画面をタップした健太くんは「これで、あのあまのじゃくな人も来てくれますよ。よかったですね」と目を細める。
「ええっ!? 困るよ、隼人が来るなんて」
また喧嘩になったり、言い合いになるだけだよ、なんて事情を知らない健太くんには口が裂けても言えなくて、ぼくは目を伏せた。
小さな手から、自分の水色のカバーがついたスマホを受け取る。
「犬伏さんもいい加減、素直にならないと。いつまで経っても穂積さんに好きになってもらえませんよ」
「何言ってるの、健太くん!? どうして、知って――」
思わず面食らって、スマホを落としかけたら、困ったように苦笑された。
「最初は穂積さんを苦手に思ったり、嫌っているのかと思いました。でも、その割にはあの人の行動を気にしたり、うっとりした顔で見つめていたので、カマをかけてみたんです」
「そっか、そういうこと……」
そして、ぼくは見事にカマにかかったのかと沈んだ気持ちになる。
「犬伏さんは隠せていると思っているみたいですけど、おそらく皆さん、知っていると思いますよ」
さらに図星を突かれ、ゲームだったらオーバーキル状態の精神になり、梅干しを食べたときのような眉や鼻、口を中心に寄せたような顔になった。
隼人と恋人ではないと主張しても、学校の人たちから「ウソだー」「照れるなよ」とちゃかされてしまう。
本気で嫌いな相手だったら全力で、この人と付き合ってるはずがないと、なりふり構わず叫んで否定できた。
あいつに迷惑をかけていると承知しながら、いつかそういうふうになれたらいいのにという醜い欲や淡い希望を捨てられず、みんなの行動や発言を本気で止められない――止めようとしていないんだ。
撮ったプリクラを台の上にあるハサミでカットし、ちょうど半分になった写真を渡してくれた。
「田崎さんも言っていたように、もっと自信を持ってください」
「ありがとう。でも自分でも、どうしたらいいのかわからないんだ。一番好きな人と、友だちみたいに会話したいだけなのに、いつもうまく話せない。仲よくなる方法なんかをネットで調べて実践しても成功した試しがないんだよ」
「お母さんを失った悲しみを癒す特効薬も、友だちと仲よく打ちとける方法も、ぼくだって知らないし、わかりません。だけど犬伏さんが声優の演技がうまいから今までの努力が実り始めているのも伝わる人には伝わっている」
「健太くん……」
「もちろん大好きな穂積さんに『好き』って気持ちが伝わるよう努力もされていると思います。だから今度は、おれが犬伏さんの背中を押す番です」
エレベーター横にある自販機のところへ連れていかれ、簡易ベンチに座らされる。
「ここで待っていれば、きっとあの人が来てくれますよ」
「ちょっと待って、健太くんは?」
さすがに夕方のゲームセンターで、小学生の男の子をひとりにさせるのは、あまりよくない。万が一、健太くんの身に何かあったら、生きている心地がしなくなる。
それは父親である三上さんに責められるからなんて理由でも、せっかく見つかった仮契約のマスターがいなくなるからじゃない。
出会ってからの期間は短いし、きっと、まだまだ知らないこともある。
だけどぼくを慕い、助け合おうと一緒に決めてくれた友だちだ。
彼が傷ついたり、悲しい目にあうようなことがあっては、ほしくない。
「はいはい、お邪魔虫登場ってね」
「高坂さん!?」
どこからともなく現れた高坂さんに肝を抜かれ、心臓が一瞬止まった。すぐにせわしなく動き、荒くなった息を整える。
「ごめん、ごめん。じつはここへ向かう途中、健太くんともLIME交換しちゃったんだよね!」
「いつの間に!?」と仰天しながら訊けば、「信号待ちの最中」と彼女は、茶目っ気たっぷりに舌を出す。
「高坂さんは、いろいろと察してるようだったので、おれからお願いしたんです」
案外、健太くんに友だちができるほうは時間が解決してくれるかも、と思いながら顔を見合わせているふたりを凝視した。
「この通り健太くんには、わたしがついているから安心して。犬伏くんは、ホズミンと、ふたりっきりになって仲よくすること」
「がんばってください、犬伏さん」
「そんな……」
待ってと手をのばすより先に、ふたりは階段をすばやく上っていってしまったのだった。




