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小さな友だちVS犬猿幼なじみ!?4

「へえ、すごいね。大御所さんとも仲よくなれるなんて、さすが犬伏くん!」


「いや、それは……その、」


 なぜか高坂さんが健太くんの隣に来て、隼人もなぜかぼくの隣に座る形になってしまった。


 ちょうど横の席が開いているからと内村くんが店員さんにお願いして、内村くんたちもぼくらの横の席に移動したのだ。


「梨花、それじゃ語弊がある。三上さんは声優の先輩として犬伏の実力を認めてるんだよ。そうだろ、犬伏?」と内村くんが話を振ってくる。


「そう、かな? 演技が悪いとかのダメ出しは受けてないから、ほんのちょっとは認めてもらえているかも」


「なんだよ。めちゃくちゃ、すごいじゃん!」


「そ、そんなことないよ。ぼくなんて、まだまだで……」


「自信持っていいと思うよ。わたし、演技とかよくわからないけど、アニメを見て普段のホワっとした犬伏くんとは、ぜんぜん雰囲気が違くてビックリした。最初は、すごく怖い悪役だなって思ったけど、生い立ちを話す声を聞いたとき、すごく泣きたくなって胸が苦しくなったんだ。それくらいハマり役だったよ」


「田崎さん……ありがとう」


 恥ずかしいなと思いながら頭を掻いていたら「バッカじゃねえの」と隼人が、あきれた声で言う。「たまたま運よく目立っただけだろ。現に、こいつはあのアニメが終わってから大役をもらってない。主役やキーパーソン、悪役にもなれず、ただのモブばっかなんだぜ? 三上さんとのことも、どうせ事務所の社長のコネで、無理やり話せる状況にしてもらったんだろ」


「違うよ、隼人。そんなんじゃないってば!」


 反論する間、幼なじみはホットコーヒーを優雅に飲んでいた。白い陶器のカップを木製のソーサーへ静かに戻す。


「だったら、なんで突然、古株の先輩とつながってるわけ? 声優オタクでない俺らでも知ってるような人と急接近するなんて、どう考えても変だろ」


 身体が凍りつきそうになるくらい冷たい目線を向けられる。


 高坂さんたちも、なんともいえない顔をして口をつぐんだ。


 ヒューマン・トランスフォーマーのことをみんなに説明できないし、嘘をつくわけにもいかない。


 どうしよう……心臓がドクン、ドクンと音を立て、いやな汗を手足にかいた。


「ほら、見ろ。そうやって危ない橋を渡って、声優としてのし上がろうと――いってえ!」


 突然、隼人が大声を出して飛び上がるものだから、隣にいたぼくは、おっかなびっくりする。


 隼人の向かいにいた高坂さんも、ぎょっと目を剥いた。


「ちょっとホズミン、何やってんのよ!? ほかのお客さんもいるんだから騒がないで!」


「だ、だって――」と顔を引きつらせた隼人が健太くんのほうへ目線をやる。


「犬伏さんは、そんなことをしませんよ。お友だちなのに意地悪なことを言うんですね」


「健太くん?」


 にっこりと子どもらしく、かわいい笑顔を浮かべて健太くんは、隼人に笑いかけた。


 だけど隼人は唇を引き結び、柳眉を器用に片方、ピクピクさせている。


「そういえば、きみ、どこの子? 犬伏くんのご親戚?」


 口角を上げた高坂さんが健太くんに話を振る。


「初めまして、三上健太です。声優の三上修二の息子で、先週から犬伏さんに勉強を見てもらっています。どうぞお見知りおきを」


 ぼくは、みんなに挨拶する健太くんの言葉に、あんぐり口を開き、まばたきを繰り返した。


 家庭教師だなんて初耳だ。


 健太くんは、ぼくのほうを見て上手にウインクをした。


「犬伏くん、小学生の家庭教師もやってるんだ。すごい! 仕事熱心だね」


「犬伏、声優だけじゃ食っていけないって言ってたもんな。がんばるなー」


「そっか! そういうことなんだね」と高坂さんが手を叩いた。「家庭教師の仕事をすることになって、おうち訪問したら憧れの先輩の子どもを見ることになった。運がいいね!」


「えへへ、そっ、そうなんだよ。健太くんには、お世話になってばっかりで、どっちが先生かわかんないんだけどね」と空笑いをする。


 高坂さんたちはぼくの演技と、健太くんのやさしい嘘を信じてくれた。


 が、「いーや、嘘だね。渉、演技してるだろ?」


 目ざとい隼人は、すぐに気づいて指摘した。


「ちょっとホズミン。何言ってんの? 健太くんが嘘をついて、なんのメリットがあるわけ?」


「このガキにメリットがあるかどうかは知らない。けど、渉をかばうために口裏を合わせてるんだろ。だって渉の成績、いつも赤点スレスレだし」


 真夏でもないのに全身から大量に汗をかく。


 隣にいる幼なじみの顔が見えず、顔を下へ傾けた。


 もう言い逃れできないかも……と焦っていたら、「犬伏さんは音楽の成績は学年で一、二を争うレベルなんですよ。だから歌とリコーダーの練習を見てもらっています。そんなことも知らないんですか、幼なじみさん」


「……なんだよ、ガキんちょ。俺に喧嘩売ってるわけ?」


「そんなことするわけないでしょう。勝手な思い違いは、やめていただけませんか?」


 いつもならぼく以外の人には涼しい顔をしている隼人がなぜか異様に苛立っている。相手は七つも年下の小学生なのに、だ。


 健太くんも健太くんで、なんだか言葉の端々にトゲがあるような気がする。

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