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小さな友だちVS犬猿幼なじみ!?2

『おまえなら、そういうと思った。だから三上さんも安心して健太くんと、おまえの契約を見守ってんだろ』


「そう、ですかね」


 三上さんや健太くんに信頼されているなら、これ以上うれしくて幸せなことはない。


『まっ、デートだからって浮かれないで、先輩方の演技を耳で覚えてこいよ』


「聡太さん!」


『じゃっ、また後でなー』


 ピコンと音が鳴り、通話が切れる。


 耳に入れてあったマイクつきのワイヤレスイヤホンを外し、鍵をかけてバス停まで歩いていった。




「おはよう、健太くん!」


 池袋のイケイケふくろうの銅像前に私服姿の健太くんがいた。約束の時間、十分前なのに着いてるなんて、すごいなと感心しながら駆け寄る。


「おはようございます、渉さん」


「ごめんね、待たせちゃって……」


「いえ、ちっとも。スマホで電子書籍を見てたんです」と健太くんはスマホを背中にある黒のウェストバッグへ入れた。


「へえ、なんの本?」


 今日、一緒に見に行くアニメ映画の原作漫画や絵本かな? なんて思いながら声をかける。


「フランツ・カフカの『変身』です」


「? それってフランスのカフスボタンが人間に変身するまでの物語?」


 どんな内容かよくわからなくて適当なことを言ったら、健太くんが口もとを手で隠し、肩を揺らした。


 あっ、これ絶対に違うやつだ。


 顔から火が出るほどに全身が熱くなる。


「……ごめん、年上なのに恥ずかしいことを言って」


「いえ……いいんです。その物語、読んでみたいかも……」


「気を遣わなくても平気だよ。それより早く行こっか!」と気を取り直した。「今日は午前と午後に一本ずつ作品を見るんだもんね」


「そうですね、行きましょう」


 横を歩いてアニメの話をしようと思ったら、健太くんに手を握られ、引っ張られた。


 ひょえええ! と心の中のぼくは悲鳴をあげる。


 心臓がバクバクして全身に冷たい汗をかく。


「どうしたの、健太くん? 手なんか握ったりして」


 池袋駅の中を行き交う子どもたちや大人の目が気になって、しょうがない。


 持ち場を交代するのか、はたまた休憩から戻ってきたのか早足で歩く駅員さんの姿にドキッとさせられる。


「渉さんと人ごみではぐれないようにするため、手をつないだんですが、いやでしたか?」


「そんな、いやじゃないよ! 健太くんに触ってもらうと茶々丸(犬のときのぼくの名前。健太くんがつけてくれた)なんか大喜びするし」


 ここでは声を出して言えないけど、健太くんと仮契約をした後も隼人がきつい言葉をかけてくるから、放課後になると犬の姿に変態しちゃうことが多々あった。


 学校の終わった健太くんにボール遊びや縄遊びをしてもらったのだ。


 そのたびに池袋住みの健太くんに川越まで来てもらって、男の裸を強制的に見せてしまう状況を申し訳なく思う。


 ぼくがヒューマントランスフォーマーじゃなかったら完璧事案だろう。


 手を放してほしいとストレートに言わずに、それでいて健太くんを傷つけないよう、やんわりと伝えて納得してもらうには素直に大人の事情を話したほうがいいよねと頭を悩ませる。


「――おれは渉さんさえいやじゃなければ、このまま手をつないで歩きたいです」


「ん?」


「母や父と手をつないで出かけるのが楽しくて、でも母がいなくなってからは、どんなにさみしくても父に迷惑はかけられないし、おじいちゃんや、おばあちゃんは近くに住んでいないから長期休みじゃないと会えません。かといって兄弟も、友だちもいないから、いつも家でひとりでいます」


 その言葉を耳にして、子どもの頃の自分を思い出す。


 小学生のとき、お父さんと、お母さんが仕事で留守にしていても、親しい友だちがいなくて、遊びに出かけることは少なかった。


 隼人が、たまに「遊ばねえの、渉?」って誘ってくれたけど、あいつあいつで塾で勉強をしたり、ピアノ教室なんかにも通っているし、喧嘩をするとお互いに口もきかなくなってしまう。


 そんなときは家で、お父さんや、お母さんが帰ってくるまでアニメを見ていた。


 主人公たちが友だちと遊んだり、恋をしたり、冒険をする姿を見ていると、自分も彼らと一緒に悩んだり、仲間になって努力しているような気になったんだ。


 現実の世界で、家にひとりでいるさみしさを、ほんの少しだけ忘れられた。


 温かくて一回り小さな手を握りしめる。


「……いいよ」


「渉さん?」


「そういう理由なら手をつないで歩こっか。でも、おまわりさんに『何してるんだ?』って訊かれたら、すぐに放そうね。できれば健太くんも、どうして手をつないでいたのか説明を一緒にしてくれると、うれしいな」


「はい、もちろんです!」と彼は目をキラキラ輝かせ、笑みを浮かべた。


 いつもぼくも、茶々丸もお世話になってるんだもん。


 健太くんがぼくと手をつないで、少しでも元気になれるなら、つながない手はないや。


 そうしてぼくらは映画館までの道のりを歩いていったのだ。




 一本目に少しファンタジーな小学生たちの冒険物語を見て、お昼は洋食屋さんで健太くんはハンバーグ、僕はオムシチューを食べた。

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