第83話 闘技大会
闘技大会当日、余裕を持って宿を出たつもりではあったが、いざ会場へ着くと、そこは既に人で溢れていた。
「こりゃすごいな…、ギュウギュウ詰めだ」
「どうしますか? 他に入れそうな場所を探しますか?」
リリーが解決策を提案してくれるが、見渡した限りそういった隙間も無さそうだ。通常の観客席は満杯で溢れた観客が立ち見しているため、背の低い俺ではロクに見ることも出来ないだろう。俺より多少背の高いリリーも、満足に見れると思えない。これでは、折角のアリアの勇姿を見ることが出来ない。
ちなみに、アリアは会場入りする前、参加者専用の入口で別れてしまっている。
どうしたものか…、と腕を組んでうんうん唸っていると、後ろから声を掛けられた。
「スズ様とリリー様、でよろしいでしょうか?」
振り向くと、そこには老齢の獣人が立っていた。口元には白髭が蓄えられ、首元まで伸びている。髪色もすっかり白髪に染まり、獣耳もなんだか元気が無さそうに折れてしまっている。腰も曲がっているし、なんだか小さく見えちゃうな…。
「そうですけど……えっと…」
「これは失礼致しました。ルマール・バーメインと申します。陛下のご命令で貴方がたをVIPルームへお連れするために参りました。アリア様は今回エントリーなさっているとお聞きしましたが、お間違えありませんか?」
陛下って、獣王国の国王以外に無いよな…。そんなところから直々に招待されるなんて、もしかしたら関所で渡した紹介状が伝わったのかもしれない。アリアが闘技大会にエントリーしていることも把握しているみたいだけど、もしかしてエントリーに条件があったりしたんだろうか? いやでも受付の人は普通にエントリーさせてくれてたし、大丈夫なはず…。
「もしかしてエントリーしたらマズかったですか…?」
「いえいえ、何の問題もございませんよ。むしろ参加者達にとって良い刺激になるでしょう。それよりもうじき開会式が始まってしまいます。まずはVIPルームへご案内致しましょう」
そう言ってルマールさんは、腰を曲げたままヨタヨタと歩き始めた。
「お~~……!」
案内されたVIPルームは前面がガラスに覆われ、床にはカーペット、座る場所は5人がけも出来そうなほど大きいソファが置かれていた。さらに一般の観客席よりも高い位置に設けられているので、視界を遮られることもない。ここならゆったり観戦できそうだ。
スポーツ観戦なんかでVIPルームがあるのは知っていたが、こっちの世界で体験することになるとは思わなかったなぁ…。本当に帝国様々だ。
でも、こういうVIPルームって本来予約でいっぱいだったりするもんじゃないか? 国主催のイベントなんて、それこそ予約が埋まっていそうなもんだけど…。
「あの、良いんですか?こんな部屋。他に使う人がいたんじゃ…」
「このVIPルームは本来王族の方々が使う予備の部屋ですので、ご予約などは入っておりません。気にせず観戦をお楽しみ下さい」
「王族、ですか。わざわざありがとうございます」
俺が頭を下げて感謝の意を伝えると、ルマールさんは首を軽く振って「ヴァロニア帝国からの賓客を歓待もせず放っておけば、我が国としての沽券に関わってしまいますからね」と少しぶっちゃけてきた。
なんと返したらいいかわからず、苦笑いしていると、闘技場全体がにわかに騒がしくなった。
「おや、そろそろ開会式のようですね。では、私はこれで失礼いたします」そう言って頭を下げたルマールさんは、出ていってしまった。
「スズ様、もうそろそろ始まるみたいですよ」
俺よりも先にソファへ座っていたリリーが、隣をポンポンと叩いて座るよう促してきたので、隣に座って闘技場を覗き込むように少し身を乗り出す。
闘技場は大きな楕円形で、その周りを囲うように観客席が設けられている。まさに元の世界でも見たコロッセオとまんま同じ構造だ。だが一つだけ違うのは、参加者同士が戦う場所には、ぐるりとお堀が掘られている。観客が間違って落ちたりした時の安全策だろうか?
ソファに座ってVIPルームの前面に貼られたガラス越しから、階下の観客席に人が所狭しと押し込められているのを見ると、心の底からVIPルームに招待されて良かったと思ってしまう。俺があの中にいたら今頃潰されてるぞ。
顔を上げて見れば、俺達と同様にVIPルームを使用している貴族らしき人達が目に入る。俺達の対面に位置する部屋なんか、バルコニーまで設置されて外に出られる構造みたいだ。
「誰か出てきましたよ」
俺が観客席を見回している間に、闘技場のド真ん中に人が立っている。
「さぁ、ついにやって参りました!! 国王陛下主催ハウラ獣王国闘技大会!! ここ数年疫病という災厄に見舞われ、長らく延期されてきたこの催しが、ついにまた開催されます!! どうですか皆さん! 皆さんも待ちわびていたんじゃないですか!?」
ど真ん中に立っていた人物が、手に持った水晶を口元に近づけながら声を張り上げた。声の聞こえる方向があそこ以外からも聞こえてくるが、水晶がマイク代わりなのか? どこかにスピーカーがあるんだろうか?
なんて考えていると、呼びかけに応じた観客達が雄叫びを上げて闘技場全体がビリビリと揺れた。
「「「「「うおおおおおおーーーー!!!!」」」」
「結構!! それではまず開会の挨拶として、主催者であるタロン・ハウラ・ウィンドクレスト国王陛下から、お言葉を頂戴したいと思います!!」
俺達のちょうど対面に位置するVIPルームのガラス戸が開き、バルコニーに真っ赤なマントを翻しながら国王が姿を現した。手には闘技場あのバルコニー付きのVIPルームは国王の部屋だったのか、どうりで豪華なわけだ。って、え……?
「顔が、ライオンだ……」
「珍しいですねスズ様。今までの獣人はどれも獣の耳がついているだけでしたのに」
そう、今まで会ってきた獣人達は人間の顔に獣耳が付いた程度で、たまに毛深い人がいるくらいのものだったが、今バルコニーに現れた国王と思しき人物は、顔がまんまライオンなのだ。金色の鬣で首がすっかり隠れてしまっている。
「皆、よくぞ疫病に耐え、この場に来てくれた。此度の参加者は疫病に打ち勝った強者達だ。今までよりもより苛烈な試合が見れることを期待する。もちろん、優勝者には約束通りスペルブックを、そして王立騎士団への入団を許可しよう。勝ち取りたければ己が力を示せ! 今ここに、闘技大会開催を宣言する!」
国王の開会宣言と同時に、先程よりも大きな歓声が闘技場中に響き渡った。




