第81話 王都クロウバーグ
やっと書けました。
ハウラ獣王国は帝国や王国と比べると国土が小さいため、獣王国の王都に辿り着くのに、そう日にちはかからなかった。とはいえ、パヴァンからの乗合馬車1回で王都へ行くのは不可能だ。王都に辿り着くまで何度も乗合馬車を乗り継ぎ、ついに王都前の関所までやってこれた。……のは良いんだが、乗合馬車の行列が出来ていて王都に入るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
立ち寄った街で再びリリーが治療する場面もあったが、3つ街を越えた辺りからそんなことも無くなった。どうやら王都付近は疫病に対する特効薬が行き渡っているという噂は本当だったようで、王都に近づけば近づくほど街に活気が溢れていた。
あ、そうそう。リリーが治療の手伝いをするために何度か教会を訪ねることになったが、どこの教会も閉鎖などせず真面目に取り組んでいた。やっぱりあの司祭がおかしかったんだな。リリーが代わりに治療して回ったら、教徒の人達が泣いて喜んでたからな。薬の行き渡っていない街は、今も罹患者の対処でいっぱいいっぱいなんだろう。このまま薬が国全体に行き渡ることを願うばかりだ。
「なあ!アンタ達、耳無しだろ? 珍しいな。やっぱり闘技大会か?」
ここまでの道のりに思いを馳せつつ、行列が消化されるのを待っていると、向かいに座っているおっさんが急に話しかけてきた。服装から見て冒険者か?それと耳無しって?
正直なんのこっちゃわからないので首を傾げて見せれば、おっさんが察したように話し始めた。
「あぁ、すまねぇ。耳無しってのはアンタらみたいな獣人じゃないやつを言うんだよ。っていうか、その様子じゃ闘技大会も知らない感じか?」
「何か大きなイベントでもあるんですか?」
「かーっ!知らないで王都まで来たのか!? 闘技大会ってのは国中の腕自慢が集まって国の一番を決める一大イベントよ! でも、運がいいぜお嬢ちゃん。今年はあの疫病のせいで大会が中止になってな。でも疫病がやっと終息するってんで、ついに開催が決まったんだよ」
はぁ~闘技大会ね~。通りでこんなに乗合馬車が多いわけだ。闘技大会に出るために大勢の参加者が乗合馬車で一斉に王都へやってきているんだな。俺達の乗っている乗合馬車も、よくよく見れば冒険者っぽい人ばかりだ。
「おじさんも出るんですか?」
「え、俺かい? ムリムリ。毎年こうやって色んな強者を見に来るので精一杯さ。アンタらももし見るんなら早めに席を取ったほうがいいぞ。当日は席の取り合いになるからな」
観戦も出来るのか! それはいいな。獣王国に来て初めて観光っぽいことが出来るかも知れない。楽しみになってきたぞ。
「次!」
おっさんと話しているうちに俺達が乗っている乗合馬車の順番がやっと来たようだ。
乗合馬車での身分証の確認は一斉に行うことになるので、各々が確認しに来た衛兵に身分証を渡している。予想通り乗っているのは冒険者ばかりだったようで、皆一様に冒険者用のカードのような物を身分証として持っているようだ。
俺達にはこういった物が無いので、ここまで来た街と同じようにエリスさんに書いてもらった紹介状を取り出して衛兵に見せた。
「これは?」
「紹介状です。中を検めて貰えればわかると思います」
俺が紹介状の中を見るように催促すると、衛兵は中から一枚の紙を取り出して目をギョッとさせた。
「も、申し訳ない。これはちょっと俺では判断出来かねる。裏へ来てもらえるか?」
断る理由も無いので、乗合馬車から降りて衛兵の後に付いていく。俺達が乗ってきた乗合馬車は、「もう行っていいぞ!」と衛兵が見送ってしまった。
衛兵に連れてこられたのは関所の裏にある詰め所のような場所だった。
「隊長!ちょっといいですか」
隊長と声をかけられた獣人は、小さな丸眼鏡をかけたクマっぽい獣人だった。表に出ている衛兵と違ってヘルメットを被っていないので、獣耳が丸見えだ。黒みがかった茶色の毛に、丸みを帯びた形の耳。うん、クマだな。実際、身体もここまで連れてきた衛兵の一回りは大きいし、身に着けている鎧も重厚だ。
「ん?どうした」
「こちらの方々が紹介状を持ってきたんですが、その、とりあえず見て下さい」
隊長さんが受け取った紹介状に目を通すと、難しそうな顔で頭をポリポリと掻いた。
「う~ん…。まぁいいだろ、通してやれ。それと、出来ればこれはこっちで預かっておきたいんだが、良いか?」
「はい。構いませんよ」
王都から移動する予定は今のところ無いし、王都に入れるなら問題はない。
「それと……あ~言いにくいんだが」
また隊長さんが頭を掻きながら言いづらそうに口をもにょもにょさせている。何を言われるんだろうと次の言葉を待っていると
「こういう物がある場合は一般じゃなく貴族用の門に行ってくれ。うちの部下が腰を抜かしちまう」
あ…、すみません。気をつけます……。そういえばここに来るまでの街でも、関所で紹介状を見せたら驚かれてたっけな。通れればいいやとあんまり気にしてなかった。次からは気をつけよう。
「よろしく頼む。というわけで、ようこそ王都クロウバーグへ。おい、裏口から通してやれ」
「了解しました!」
申し訳ないことをしたと最初に紹介状を渡した兵士にペコペコ頭を下げ、関所の裏口から王都へ入った。結局あの衛兵は最後まで恐縮させっぱなしだったな…。
ついに足を踏み入れた獣王国の王都は、まさにお祭りムードだった。大通りでは獣人の冒険者が大勢歩いている。やはり闘技大会とやらが開催されるせいか、商機を逃すまいと商魂たくましい商人達が武器や防具、野営用の道具などを売ろうと冒険者達に声をかけまくっている。
もちろん、出店の屋台なんかもたくさん建ち並んでいて、肉料理よりも芋や野菜を使った料理を出している店が多い印象だ。寒冷地だし、あまり家畜を育てるのには向かないんだろうか?
「闘技大会のエントリー受付は今日で締め切りになりま~す!!希望者は早めの登録をお願いしま~す!!」
大通りを抜けた先の広場で、机に向かった獣人の女性が声を張り上げている。闘技大会のエントリーはあそこからするのかな?出るわけじゃないけれど、どんなもんか見に行くか。
「あっ、エントリー希望ですか?」
「いや、王都に来たのが初めてなので、闘技大会がどういうものかと思って…」
「それでしたら――こちらをどうぞ!」
机の下に置いてある箱から一枚のチラシを取り出して俺達に見せてくれた。内容は闘技大会の開催を予告するもので、開催の日時、エントリーの締め切り日、試合においてのルール、最後に優勝賞品が書かれていた。
お、なになに……。優勝賞品は“火球”のスペルブック…。スペルブック!?
「賞品ってスペルブックなんですか!?」
「はい!今年は特別だそうですよ! それに、攻撃魔法のスペルブックってのが肝ですよね。我々獣人は魔力による身体強化が得意でも、こういった攻撃魔法は不得意ですから、獣人にとっては垂涎の的です!」
お~、本当にスペルブックが優勝賞品なのか。攻撃魔法が使えないっていうとクラスの関係で俺も攻撃魔法は使えないんだよな~。クラスとしての攻撃スキルは使えるが、ファイアボール!とか言って魔法を撃ってみたいという憧れも無いことも無かったりする。
まぁでも優勝賞品だからな。売り物じゃないんだし、欲しがったところで仕方のないことだ。
「スズ様ッ!」
「な、なんだよアリア」
突然アリアが俺の両肩をガッシリと掴んできた。なんか覚悟の決まったような顔までしてるし、どうしたんだ?
「そのスペルブック、この俺が取ってきましょう」
「ハァ!? いやいや良いよ! 攻撃魔法使えなくても別に困ってないだろ!」
「いいえ! スズ様の物欲しそうな目を俺は確かに見ました! 獣人など蹴散らして必ずやスズ様にスペルブックを献上してみせましょう。おい、俺もエントリーする。どうすればいい」
俺の返事も聞かず、アリアは受付の女性からエントリー用の用紙を貰って書き始めてしまった。
「スズ様に良いところを見せたいんですよ。結局ここに来るまで見せ場がありませんでしたから」
確かに戦闘にでもならないとあまりアリアの出る幕は無いし、ここいらで暴れさせてストレス発散させるのもアリか? 案外楽しそうだし、たまには好きにさせてやろう。
「エントリーして来ました!」
アリアも無事にエントリーを終えて満足そうだし、今日はもう宿に泊ってゆっくりしようかな。




