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異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。  作者: 愛枝ハル
ハウラ獣王国

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第79話 持ち逃げ

更新遅れてすみません。

 とある街道を走る馬車の中で、男が歯噛みしていた。


 「どうなってる! どいつもこいつも騙されおって、誰のお陰であの教会が運営出来ていたと思っている…!」


 膝の上で拳を強く握りしめ、己の中の激情をなんとか抑え込もうとしている。


 「で、ですが聖女のロザリオを持っていましたよ。本当に聖女様だったんじゃ…」

 「偽物に決まってるだろう!! そんなこともわからんのか!!」


 男は気に障る同乗者の一言で抑え込んでいた感情が溢れ出し、馬車の壁を思い切り殴りつける。馬車の外まで響いた衝撃で同乗者はビクリと体を震わせ、面倒臭がらず御者役を引き受けておけば良かったと後悔していた。


 「まぁいい、どの道私が教国に着くまでの辛抱だ。今のうちに楽しんでおくがいいさ」


 先程の苛つきとは一転して、男はほくそ笑む。

 教国へ行き、教皇猊下へこのことを報告すれば、審問官が派遣されるはず。現在聖女位についているのはたった3人。その中にリリーなどという名は存在しない。勝利が確定しているようなものだ。偽聖女に唆されて優秀な司祭を追い出した奴らは破門され、私はパヴァンで返り咲く。

 いや、何もあの街に執着する必要も無い。この一件で私は大司教になり、西側の出世コースへ入ることも夢ではない。

 これはむしろ奴らに感謝しなくてはならないかもしれないな。





 大陸の北に位置する教国において、教徒には一般的に3つの道が用意されている。一つは教国に留まり、己の信仰を高めていく道。残りは東の獣王国に派遣されるルートか、西の諸外国に派遣される道の2つ。

 一見、派遣される2つの道には違いが無いように見えるが、教徒の間ではこの2つは自らの今後を決める重要な意味を持つ。

 西の諸外国へ派遣されるルートは、そのまま大陸をぐるりと回って王国や帝国へ行ける、所謂出世コース。その反対に東の獣王国へ派遣されるルートは、巨大な山脈に阻まれ獣王国で奉仕活動を行うだけの通称『行き止まり』。

 そして、この派遣命令は特別な理由がない限り拒否出来ない。




 男――――ゴートス司祭はその行き止まりの最たる位置、パヴァンへの派遣を言い渡されており、その当時から強い憤りを持っていた。出世欲が強かった司祭は神学校での成績も良く、西の出世コースへ行くのを確信していたのもあって、その失望感は耐え難いものだった。


 (フフ…、だがこれであの穢らわしい獣共と暮らす生活も終わる。仮に本物でも審問官に金でも握らせておけばいい。教会の金は、私が貯めてきた。どう使おうが私の勝手だ。そういえば、あの偽聖女、見てくれだけは良かったな。首輪でも付けて侍らせるのも悪くない。

 だが、そのためにはまず一刻も早く教国へ着かなければ)


 「おい、教国に着くのはいつになる」


 ゴートス司祭が、御者をしているもう一人の教徒に問いただす。


 「最短でも2週間はかかるかと思います。ただでさえパヴァンは教国の反対側ですから、相応の時間が……」

 「くそ……」


 司祭は不安や苛立ち、期待感、様々な感情が心のなかで渦巻くのを感じながら、悪態をつくことしか出来なかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 教会をあの司祭から解放した後、教会へ再訪したのは翌朝になってからのことだった。

 実はあの後、冒険者ギルドへ換金をしに行った帰りに眠気が襲ってきてしまい、そのまま眠ってしまった。昨日の昼に教会へ行く前からうつらうつらとしていたし、肉体的には限界がきていたのかもしれない。いやでも、一晩寝なかっただけで眠気が抑えられないって…。前の世界じゃゲームに徹夜なんか当たり前だったのにな…。

 あ、そうそう、冒険者ギルドではあまり換金が出来なかった。金貨の量が多すぎて、うちのギルドでは換金し切れないと断られてしまったのだ。それでもいくらか換金してもらい、これだけあれば王都に行くどころか往復まで出来るとお墨付きを貰ったので、とりあえずは良しとした。


 まぁそんなこともあり、朝早くから教会へ行って何か手伝おうと来たはいいんだが…。


 「あンの、クソジジイ~~~~~~~~!!!!!!!!!」


 教会の入り口へ差し掛かった瞬間、聞き覚えのある声が教会の奥から響いてきた。


 叫び声の訳が気になって声のした方向へ廊下を進んだ先には、呆然とするグレイスさんと、四つん這いで項垂れているスージーさんが見えた。


 「どうしたんですか?」

 「スズさん。それがその…実は…」

 「あのクソジジイが教会の金庫に入ってる金を全部持ってったのよ!!! あの時ちゃんと監視しておくんだったわ!! どうするのよ! これじゃ何も買えやしないじゃないの!!」

 「スージー、残りの食料は? 朝に確認してましたよね?」

 「切り詰めてもあと4日程度の量しか無かったわ」


 どうもあの司祭が街を出ていく際に金を持ち逃げしていったらしい。最後の最後まで迷惑をかけてくれるな…。


 「各自でお金を出し合って確保出来ないんですか? お布施を貰うとか…」

 「今まで高額なお布施を要求してたのに、お金が無くなったからまたお布施して下さいなんて恥ずかしくて言えないわよ。それと、教徒の皆からお金を集めるっていうのも、難しいわ」

 「セレニタ教徒というのは、原則として私財を持てないんです。衣服や小物、少額なら持っていても構いませんが、集めても大した額にはならないかと……」


 なるほど…。思ったよりもセレニタ教っていうのは厳格な宗教らしい。そう考えると、あのゴートス司祭はかなりの不信心者みたいだな。

 それにしても、切り詰めてもあと4日しか持たないってのは由々しき事態だ。う~ん…、ここまで来たらどれだけ助けても一緒か? 俺としても、早いところ街を離れたいから、置き土産にしていくのもいいかもしれない。


 「あの、食料でしたら差し上げましょうか?」

 「え…、有り難い申し出ですが、そんなに量をお持ちなんですか? この教会は10人程いるので、少量ですとあまり…」


 10人か、それくらいなら十分持つかな?

 実を言うと、今まで立ち寄った街で買い込んだ食料を消化し切れてないんだよな。ただでさえゲームから持ってこれた料理アイテムや料理素材が大量にあるのに、街で物珍しい食べ物をちょこちょこ買ってしまうのが原因なんだけどね…。

 馬がよく食べるのでちょっとずつ減りはするんだが、ここ最近宿に泊まってそこの食堂で食べることのほうが多くなったせいで、食料を消化するタイミングが無いんだ。

 馬を預かってくれる宿は大抵餌も代わりに出してくれるから、馬で消化する機会も少なくなってしまった。そもそも、馬だってなんでも食べてくれるわけじゃないしな…。


 「それなりに量はあるので心配ありませんよ。どこに出したらいいですか?」

 「い、今からですか!? なら食料庫のほうに…」


 グレイスさんとスージーさんが先導して食料庫に案内してくれるが、その顔はまだ釈然としていない様子だ。ショルダーバッグしか持っていない人間が、今から10人分の食料を出しますよと言ってきたら、そんな顔にもなるか。




 「食料庫はこの下にあります。暗いので気をつけて下さいね」


 食料庫は薄暗い階段を降りた地下に設けられていた。階段を降りるたびに下から冷気が漂ってきて、食料庫の扉の前に着く頃には食べ物を保存するのに十分過ぎるくらい寒い。室温の安定した地下で食料を保存しているわけか、北国ならではだなぁ。こういうのを氷室って言うんだったかな?


 「こちらにお願いします。ですが本当にそれだけの食料をお持ちなんでしょうか?」

 「今から出すので、ちょっと下がってくださいね」


 ショルダーバッグ……からはさすがに無理があるので、開き直ってインベントリを空中に展開して、そこからドサドサと食料を落としていく。比較的日持ちのする物を選んで出したほうがいいよな。いくら氷室が優秀だからといっても、生魚はやめておこう。


 「あ…え…」

 「ちょ、ちょっと!今どこから出したのよ!食べて大丈夫なんでしょうね!?」


 驚いたスージーさんがどういうことかと詰め寄ってきたので、魔法みたいなものだと言ってなんとか誤魔化すことに成功した。




 「本当に助かりました、あれだけあれば2週間は持つでしょう。それだけ持てば、またお布施でやりくり出来そうです。それに南の高級食材まで頂けるなんて。清貧な暮らしをしなければならないのに、舌が肥えてしまいそうです」

 「あんな魔法聞いたこともないわよ…」


 スージーさんは未だに納得していなさそうだ。でも俺だってインベントリの原理はわかってないんだ。どうやったんだと言われても、説明のしようがない。


 それとグレイスさんの高級食材、という言葉に引っかかったが、この国はそう簡単に国を越えられないんだよな。王国に行くためには西からグルーっと回らなくちゃいけないし。北にあるこの国の端っこに南の食材が来ることなんてほとんど無いだろうな。仮にやって来たとしても、輸送費でとんでもない価格になっていそうだ。そういう訳もあって、高級食材なのかな。



 食料の問題が解決したところで、教会に訪れる罹患者の様子を聞いてみたが、教会を解放した側からひっきりなしに罹患者が来ているらしい。今のところ軽症の患者ばかりで安定しているが、いつ重症者が出てもおかしくない状態だと聞かされた。


 「何もかも任せきりで申し訳ありませんが、今一度お力添えをお願いできないでしょうか」

 「私達はもうすぐ街を出る予定ですが、それまでなら」

 「十分過ぎるくらいです。このままではパンクするのも時間の問題でしたので、本当に助かります」



 一仕事してから街を出ることにするか。さすがのグレイスさんも街中を治せとは言わないだろうしな。

 まぁ、一仕事するのは俺じゃなくてリリーなんだけど……。

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