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異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。  作者: 愛枝ハル
ハウラ獣王国

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第78話 解任

誤字報告ありがとうございます。

更新が遅くなってすみません。

 慌ただしくグレイスさんが走り去った後、もう一度親子の様子を確認すると二人とも眠ってしまっていた。お互い体力面だけじゃなく、精神面でも消耗していて緊張の糸が切れてしまったんだろう。

 このまま帰っていいか迷っていたらキーンさんが後は任せておけと言ってくれたので、約束の時間が来るまでは宿に戻って時間を潰すことにした。宿に戻った時に、受付の女将さんに何があったのか聞かれたが、正直に話すわけにはいかず適当に誤魔化してしまった。



 「スズ様、そろそろ時間ですよ」

 「ん…。もうそんな時間が経ったのか」


 朝早くから突然起こされたのもあって、うとうとと微睡んでいたらいつの間にか時間が来てしまったみたいだ。一度水で顔を洗ってから宿を出て、教会に向かうことにする。

 教会の正確な位置はわからないが、教会はこの街で比較的高い建造物の部類のようで、遠くからでもあのロザリオと同じ月の満ち欠けに似たマークが刻まれた尖った屋根が一際高い位置に見える。


 遠くに見える屋根を目印に歩き、やっと教会を正面に捉えたところで教会の前に人だかりが出来ているのが見えた。教徒だけじゃなくこの街の獣人達も集まって、人が人を呼ぶ状態になっている。



 「司祭様は今お会いになられない。もし話がしたいのであれば相応の手続きを……」

 「だーかーらー!! そういうことを言いに来たんじゃないって何度言ったらいいのよ! 私達じゃなくてアンタたちに関係あることなの! わかったらさっさと司祭を呼んでくることね!」


 人だかりの先頭で、赤毛にウェーブがかかったシスターが、見るからにふてぶてしそうな教徒に怒鳴り散らしている。何事かと遠目に眺めていると、人だかりの中にグレイスさんを見つけた。


 「グレイスさーん!」


 俺の呼びかけにキョロキョロと辺りを見回したグレイスさんが、俺達を見つけこっちに向かってくる。


 「お待ちしておりました。今ゴートス司祭を表に出すところですので、リリー様はロザリオを首から下げて待っていて下さいますか」


 ロザリオを持っているのは俺なので、インベントリから取り出したロザリオをリリーに渡そうとすると、リリーが屈んで首を下げてきた。


 「折角なのでスズ様が付けてくださいませんか?」

 「え。ま、まぁいいけど…」


 このロザリオは普通のネックレスとは違って留め具がない物なので、輪っかをリリーの頭を通すようにして首にかけてやる。


 「これでいいか?」

 「はい、大満足です」


 ロザリオをつけてあげただけなのに、リリーはニコニコと妙に上機嫌だ。


 ちょうどそのタイミングで、教会前で口論をしていた教徒の男が教会に戻っていき、赤毛のシスターが近寄ってきた。


 「ハァー…、やっと司祭を呼びに戻ったわ。あなたがグレイスの言っていた聖女ね? 私はスージー、よろしくね。へぇ~、聖女のロザリオってそんな感じなのね、初めて見たわ」

 「スージー、失礼ですよ」

 「でも、本当に本物の聖女なの? こんなクソ田舎に突然聖女が現れたなんて、まだ半信半疑なんだから」

 「それでも、この方は間違いなく聖女です。私が保証します」

 「この街一信心深いあなたがそう言うなら本物なのでしょうね。そろそろ司祭が出てくるわ、行きましょう」


 グレイスさんとスージーさんに人だかりの先頭、教会の目の前まで連れられ、その間リリーはちょっとした打ち合わせをグレイスさんから聞かされているようだ。


 打ち合わせを一通り聞いた俺達が教会の前で待機していると、教会の中から初老の白髭を生やした男が教徒二人を伴って出てきた。服装の色使いは他の教徒達と違う物で、さらに手や首に宝石のついたアクセサリーを下品なくらい付けている。あいつが例の司祭か?


 「また君かね、グレイス。何度抗議に来ようが答えは同じだ。分かったらさっさと教会に戻ってお祈りでもしていろ。全くこんなに人を集めよって。私に疫病が感染ったらどうするつもりだ!」


 司祭は呆れた様子でグレイスさんや集まった獣人達に向かって手で払う仕草を見せた。

 コイツ…、話には聞いてたがここまで酷いとは…。だが、こいつの天下も今日限りだ。


 「この疫病は獣人以外には感染りませんし、今回ばかりはその話をしに来たのではありません。あなたに会わせたい方がおりまして」

 「なに?」


 先頭に立つグレイスさんが横にズレて、リリーを中心にした俺達が司祭の視界に入るが、意図がわからず困惑している様子だ。


 「その小娘どもが私に何の用だ。セレニタ教に似た服を着ているが、まさか異教徒を連れてきたわけではあるまいな」

 「口を慎んで下さい、ゴートス司祭」

 「口を慎め? 誰に物を言っている!」

 「この御方は聖女です。口を慎むのは当然のことかと思いますが?」


 そうグレイスさんが言った途端、司祭はキョトンと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたと思えば、今度は笑いが堪えきれないといった様子で口に手を当ててクスクスと笑い始めた。


 「何を言い出すかと思えば、聖女だと? 聖女リリーなぞ聞いたことも無い。そもそも聖女がなぜこんな街に来るんだ。騙されているんだよグレイス、あぁいや、それとも君が唆したのかな?」

 「やはり信じてはもらえないようですね…。リリー様、お願いします」


 グレイスさんの言葉を合図に、リリーは胸元へ隠していたロザリオを取り出して司祭の方へ掲げ、打ち合わせ通りゴートス司祭へ命令する。


 「ゴートス司祭、あなたをこの街の教会から解任します」


 「な…、聖女のロザリオ…!」

 「これでわかりましたか、彼女は正式な聖女に任命されています」

 「そんなわけがあるか! そのロザリオも偽物に決まっている! 騙されているのがわからないのか! 審問にかけてやるぞ!」


 司祭が喚き散らすが、教徒達の圧は増すばかりだ。今まで半信半疑で集まりに参加していた教徒や獣人も、司祭の動揺からリリーが聖女であることを信じ始めている。


 「ここから去るのはあなたですよ、ゴートス司祭。まぁただ、解任されただけですので教会に残るのは自由ですよ、残れるならの話ですが。さて、聖女リリー、これからどうしますか」

 「まずは教会を開放して罹患者の治療といきましょうか。あぁそれと、あなたとあなたも解任しますね」


 付け足すように解任命令を出された教徒二人は、自分は無関係だと思っていたのかビックリしている。この二人は司祭に伴って教会から出てきた教徒の男二人だ。あれ、でも教徒二人の解任って打ち合わせにあったか?


 「わかりました。皆さん、急いで教会を開放して治療にあたりますよ!」

 「ま、待て! 」


 グレイスさんが後ろにいる教徒に呼びかけると、教徒達は司祭を無視してぞろぞろと教会に向かい始める。さっきまで喚いていた司祭は突然焦った様子で教会の中に走り去り、取り巻き二人はそれを見て追いかけるように教会へ入っていった。


 「聖女リリー、これでこの街の人達を救えそうです。本当にありがとうございます。ここまでして頂いて申し訳ありませんが、早速私も治療に取り掛からねばなりませんので、ここで失礼いたします」


 グレイスさんは深々と頭を下げた後、他の教徒と一緒に教会の方へ行ってしまった。これから教会の開放やら、罹患者の受け入れ準備やらで大変なんだろう。扉を開けた瞬間から治療開始なんて簡単にはいかないはずだ。


 「これからどうしますか? スズ様」

 「準備中に部外者がいても邪魔になるだけだし、今日は冒険者ギルドで獣王国の通貨を換金しにいこうか。それで教会の準備が整ったら手伝いに行ってやろう。あんな目に遭う子供はもう見たくないしな。あっ、そういえば一つ聞きたいんだけど」

 「なんですか?」

 「取り巻きの二人を解任したのはアドリブか? 打ち合わせに無かったろ?」


 「あぁ、あれですか。教会から出てきてからずっとスズ様のことを不埒な目で見ていたので、ついでに解任しちゃいました」


 何でもないようにしれっとリリーは言っているが、完全にとばっちり……あ、いや、あの司祭の取り巻きだったんだし、居なくなっても問題ない…のか?

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