第77話 ロザリオ
更新がめちゃくちゃ遅れてすみません。
“蘇生”を唱え、その場にいる皆が固唾を飲んで少女の様子を見守っていたが、天使が消えてからまもなく、変化が訪れた。
「…………けほっ、けほっ! うぅ……」
「ミラ!? 大丈夫!? お母さんよ、ここにいるわっ」
「おかあさん…?」
ピクリとも動かなかった少女が突然咳き込み出し、慌てて母親が呼びかけると返事も返してくれた。
これは成功といってもいいかもな。良かった…、あんな派手なエフェクトが出ておいて、何も起こらなかったんじゃ肩透かしにもほどがあるからな。
“蘇生”
文字通り死んだプレイヤーをその場で復活させる魔法だ。だがこの魔法は死亡後3分以内でないと復活が出来ず、さらに蘇生時は最大HPの10%しか持たない状態でしか復活できない。ゲーム内では3分が過ぎてしまうと強制的に最寄りのホームタウンにリスポーンされる仕様だが、この世界にリスポーンなどという概念は無い。死んだらもうおしまいだ。
だからこそ今この瞬間、この魔法がいかに危険なものであるかを、思い知らされた。
「リリー、蘇生後はHPが低いはずだ。回復してやってくれ」
「はい。“高位回復”」
リリーが少女に回復魔法をかけると、気怠そうにしていた少女の顔色が一気に良くなった。
「わぁ…おかあさん、もう苦しくないよ。お胸も痛くなくなっちゃった」
「本当? 無理してるわけじゃないのよね?」
「うん、むしろいつもより元気になっちゃったかも」
回復した少女は上半身を起き上がらせて、母親とはきはき喋っている。見る限り問題なく回復したみたいだ。
「無事《《治った》》みたいですね。良かったです」
「ありがとうございます…! あなたは娘の命の恩人です。何かお礼をしなければいけないのはわかっていますが、今の私には何も…」
「気にしないでくださいね。私はスズ様に従っただけですから」
リリーに縋り付くような形で母親がリリーに感謝しているが、リリーは優しい声色で宥めた。
母親はそれでも落ち着く様子が無かったので、リリーが母親にも回復魔法をかけた後、親子2人を残して別室に移ることにした。シスターから俺達に聞きたいことがあるそうだ。まぁ、目の前であんなのを見せたらそうなるよな…。
「まずは私からもお礼を言わせて下さい。私ではあの少女は救えなかった。ですが、どうやったんです? 私が確認した限り、貴方方が到着した時にはすでに……その、息がありませんでした。考えられるとすれば、あの魔法は……」
「そのことに関しては、詳しく話せません。今日起きたことは他言無用でお願いします。キーンさんも」
「あ、ああ、勿論だ。誰にも話さないと誓おう」
「本来なら追及しなければいけない立場ではありますが、女神セレニタに誓って他言しないと誓いましょう。でもせめて、何者かだけは教えて下さいませんか」
「何者かと言われてもただの旅人としか…。それより、教会の話は本当なんでしょうか? 治療を断っているって聞きましたが、シスターさんは治療をしているんですね」
このまま色々突っ込まれても困るので、無理矢理話を変えよう。実際この街の教会についてはヤラさんに聞いてから気になってたんだ。
「もう耳にしていましたか…。正確に言えば、私達セレニタ教徒は原則教会外での治療が禁じられているんです。なので、教会を管理しているゴートス司祭が教会を閉じてしまったことによって、実質治療が出来なくなってしまいました。今は掟の穴をついて教徒達が治療を行っているのが現状です」
ヤラさんの言っていた通り、教会にいる司祭が事の元凶らしい。でも司祭が教会を閉鎖って何の意味があってやってるんだろう。そもそもなんでそんな権限持ってるんだ? 治療費代わりのお布施がないと教会も運営出来ないだろうに。
「教会を閉鎖って、なぜそんなことに?」
「司祭は疫病の感染を恐れているんです。獣人が入れないように教会を閉じて自分は自室に籠もり、疫病の終息をただ待っているだけ。運営資金は今まで巻き上げた治療費で十分賄えると思っているんでしょう。ですが、私達が治療を始めてわかったことがあります」
「わかったこと?」
「ええ、この疫病は獣人特有のもので他の人種には感染しない、ということです。まだ仮説の段階ですが、ほぼ間違いないかと。実際、治療に協力してくれている教徒の中で感染した者は1人もいません」
獣人にしか感染しない。確かに考えてみれば、こんなに感染者と接触しているのに俺達が発症していないのもおかしな話だ。この街で会った獣人はほとんど感染していたのに、治療に尽力していたシスターも感染している様子もなく元気そのものだ。十分信じて良い仮説かもしれない。
「そのことを司祭には伝えたんですか?」
「勿論伝えましたが、返ってきたのは『そんな仮説で私が死んだらどう責任を取るんだ』と扉越しに怒鳴られて終わりでした」
碌でもないやつだな…。王都で会ったファルム枢機卿とはえらい違いだ。あの人は変人ではあったが、孤児院まで経営していたってのに…。
「なんとかならないんですか? 無理矢理教会を開いたりとか…」
シスターは首を横に振った。「そういった勇気ある者達もいましたが、掟破りとして皆追放処分になってしまいました。あれでも司祭の権限を持っていますからね。逆にあの司祭を追放処分とするのが確実ですが、それが出来るのは教皇か枢機卿、さらに言えば聖女か聖人といったところでしょうか。まぁ、ありえない話ですね」
「聖女、ですか…」
聖女、ここでそれが出てきちゃうのか~。ヤラさんに会った村でも言われたが、今シスターが言った聖女は例えでもなんでもなくセレニタ教の一役職の話だろう。だがこの役職を持っているのは俺じゃなくリリーだ。俺はただロザリオを預かっているだけ、勝手にこれ持ってますよと出していい物じゃない。
「スズ様、スズ様」
俺が黙りこくっていると、そのリリーが肩を指でトントンと叩いてきた。
「うん?」
「アレを見せてみては如何ですか?」
「アレって、アレだろ?いいのか? あんなの見せちゃった後だし、このまま早いところ街を出たっていいんだぞ」
「ふふっ、スズ様ったら相変わらずですね」
「? 何のことだ?」
「そうはしたくないって、顔に書いてますよ」
「ぐっ…」
また顔に出てたのか…。確かにこのまま逃げるように街を出て終わりにするのは後味が悪いと思ってはいるが、そんな露骨に顔に出てるのか?
「あのぅ…、何のお話でしょうか?」
俺とリリーのハッキリしない会話を聞かれていたのか、シスターもキーンさんもこっちを見て疑問符を浮かべている。リリーはどうやら俺のことはお見通しみたいだし、素直に見せる物は見せちゃうか。
俺はおもむろに鞄へ手を突っ込んで、インベントリからロザリオを取り出し、さも鞄から取り出したように手を引き抜く。
「!? そ、それ! なぜあなたがそれを!」
「な、なんだ。ただのネックレスじゃないのか?」
キーンさんはこれが何かわからないようだが、セレニタ教徒のシスターはこれが何かしっかりと理解しているらしい。
「聖女ですよ! 聖女のロザリオです! 初めて現物を見ました」
「聖女って……、なんでそんな物を嬢ちゃんが持ってるんだよ」
「これは預かってるだけで本当はリリーの物なんです。ヴァロニア王国にいた時にファルム枢機卿って人から授けられまして」
「ファルム枢機卿!? 賢者ファルムですか!? あっ!そう考えればあのような神聖魔法を使えることにも納得がいきます。そう…そうだったんですね…」
シスターは自分の中で何か合点がいったのか、うんうんと頷きながら考え込んでいる。っていうか、賢者ファルムって…あの人そんな呼ばれ方してるのか。俺の中じゃ神聖魔法狂いの変人だが、功績だけ見ればそういう印象になるのか?
考え込んでいたシスターが、今度はゆっくりと両膝をついてから両手を組み、祈りを捧げるようなポーズを取り出した。
「知らなかったとはいえ数々の無礼をお許し下さい。聖女リリー様、どうか私達に協力をして頂けませんか。私達には今も苦しんでいる人達を救わなければなりません。どうか、どうか…」
跪かれたリリーが俺を見てきたので、頷いて返す。
「わかりました。協力はいたしましょう」
「本当ですか!」「ただし、」
「先に言っておきますが、私は教徒ではありません。私の主はスズ様ただお一人。それでもいいですか?」
「教徒でない方がそのロザリオを持っていることに若干の疑問は残りますが、今はそんなことを気にしている場合ではありませんから」
そう言うとシスターはすくりと立ち上がり、綺麗な立ち姿を見せた。
「申し遅れました。私はグレイス、シスターグレイスです。あのクソ司祭の追放をアピールするためにも、他の教徒へ声をかけて人を集めます。昼頃にまたお会い出来ますか?」
再度合うことを了承すると、昼頃に教会前で待ち合わせということになり、そのことが決まった途端家から飛び出すようにして走り去ってしまった。というか、なんかさらっとクソ司祭って言ってたよな…。
それにしても、ファルム枢機卿に『いつかこのロザリオが必要になる』なんて言われてその場のノリで受け取っちゃったけど、まさか本当に必要になるとはなぁ…。




