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異世界にゲームの姿でTS転生したので、従者と旅して回ることにしました。  作者: 愛枝ハル
ハウラ獣王国

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第71話 獣王国

 「じゃあ……、ここはどういう国なんですか?」


 地図に描かれた帝国のやや北東に位置する国を指差す。


 「ここは…ハウラ獣王国だな」

 「ハウラ獣王国?」

 「国民の9割以上を獣人が占めている獣人達の国だ」


 獣人達の国…! ってことは、誰も彼もがケモ耳ってことだよな。おお、やる気が俄然出てきたぞ。

 ん? よく見ると帝国と獣王国の間を沿うように何か描かれている。なんだろうか。


 「この帝国と獣王国の間にあるのは何なんですか? 随分大きく描かれていますけど」

 「ああ、ここにはドデカい山脈が連なっていてな、こいつのせいで帝国と獣王国は直接行き来出来ないんだ。国交はほぼ無いと言っていい」

 「え、でも、帝国に獣人がいるのは獣王国が近いからじゃ無いんですか?」

 「帝国は昔小国の集まりだって話は聞いたろう? その時に小さいながらも獣人の国があったから、その名残なんだ。まぁ、その国ももしかしたらこの山脈を抜けて獣王国から渡ってきたのかもしれないがね。前に私が行った時は、王国側からぐるりと回る羽目になったよ。全く、この邪魔くさい『森』さえ無くなれば、そういう不便さも無くなるんだがね」


 エリスさんはそう言って、地図の中心に描かれた大きな森を不機嫌そうにトントンと指で叩く。

 ガルドにいた時に森の説明を受けたことはあるが、実際に地図上での大きさを見たことが無かったので、まさかこれほどとは思わなかった。不自然にまるい森の面積は、帝国と同程度の広さはありそうだ。これだけ広いと、一度迷ったら一生抜け出せずにいたかもしれない。俺達がガルドに近い位置で目覚めたのは相当運が良かったと言える。


 でも…、あれ? 帝都って確か、王国の沿岸部から森の方角へ向かった先にあるんだよな。俺の予想が正しければ、帝都って森にかなり近くないか?


 「あ、あの、帝都ってこの地図で言ったらどこにあるんでしょうか?」

 「ん、帝都か? 帝都ならここだな」


 エリスさんが帝都の場所を指差す。森の直ぐ側だ。


 「森に近過ぎませんか…!? 森って定期的に獣が溢れ出てくるんですよね…?」

 「『溢れ』のことか? 王国じゃ災害扱いかもしれんが、ここじゃ一種のイベントに過ぎん。王国は費用対効果が見合わないと研究から撤退しているが、帝国はまだ探索と研究を続けている。それに、()()を示すのにこんなお誂え向きな場所は無いだろ?」


 あぁ、なるほどね…。実力を示したい人達がこの国には大勢いるから、森に挑む人材には困ってないのか。ガルドとは大違いだな…。


 「そんなことより行き先は決まったのか? 獣王国に行くなら紹介状くらいは書いてやるぞ」

 「いやでも、山脈があるんですよね? 今からまた王国側に戻るのはちょっと遠すぎると言うか…。そういえば、この獣王国の西にある小さい国は何ていう名前なんですか?」

 「そこはセレニタ教国だ。遠いも何も、お前たちには便利な移動手段があるだろ」


 ここが前に聞いたセレニタ教国か。あの変人枢機卿は元気にしてるだろうか…。

 というか、便利な移動手段? 何のことだ?


 「移動手段…ですか?」

 「あのドラゴンだよ。あいつに乗せてもらえば、こんな山脈なんて飛び越えて一直線だろ。お前たちが頼めば、あいつは否と言えないみたいだしな」


 その手があったか! そもそも最初は山から帝都まで飛んできたんだし、ジェイドなら山脈を飛び越えるなんて訳ないだろう。

 そうと決まれば早速準備に取り掛かるか!


 「お、行き先が決まったようだな。何か必要な物があれば侍女に言いつけろ、なんでも用意してやる。ジェイドには私から話をしておこう」

 「ありがとうございます、わざわざ地図まで出して頂いて。本当に助かりました」

 「私としても良い暇つぶしになったよ。獣王国から戻ったら土産話でも聞かせてくれ」

 「はい、その時は是非」


 俺は深々とエリスさんに頭を下げた後、部屋に戻って次なる目的地へ向かうための準備を始めた。といっても、荷物は全てインベントリに入っているから特にすることもないんだけどね。






――――――――――――――――――――――――


 「もう行ってしまうとは随分急ぐんじゃのう。もう少しゆっくりしてから行けばよいものを」

 「ゆっくりするのは見て回った後でもいいと思いまして」

 「そうか、その時はまた帝国に来るとよい。迎え入れる準備はいつでもしておるからの!」

 「その時はお言葉に甘えさせて頂きますね」


 俺達は今、皇城内の広場でセレーネやエリスさんに見送られている真っ最中だ。この広場は前にジェイドが降り立って血を抜いた広場で、現状でドラゴンの姿になったジェイドを収容出来る場所はここしかないため、出発はこの広場からになった。

 広場にはセレーネやエリスさんだけでなく、俺の銃を研究しているエルフやドワーフ、俺達を世話してくれていた侍女さん達も見送りに集まってくれている。


 「スズ、アリア、リリー、君たちには本当に感謝している。娘の成長をこれからも見られるのは君たちのおかげだ。そこで、餞別といってはなんだが贈り物をさせてくれ。おい」

 「はっ!」


 セレーネが喋り終わると、エリスさんが前へ出てきて、俺達へ贈り物がしたいと言ってくれた。エリスさんが使用人へ合図すると、複数の使用人達が一抱えもあるような箱を3つ持ってきた。

 エリスさんが開けるよう指示を出し、使用人達ががぱりと箱の蓋を開けた。


 「これは…コートですか?」

 「ああ、獣王国は比較的北に位置しているから、それなりに寒いんだ。防寒具の一着くらい持っておいたほうがいい。特別な毛皮を使っているから、かなり温かいぞ?」

 「ありがとうございます!」


 防寒具ってのは盲点だった。北にあるのは地図上でわかっていたことなのに、失念してしまっていた。

 使用人がコートを箱から取り出して俺達に渡してくれたので、両手でそっと受け取る。


 「随分軽いんですね。大きなコートですし、てっきり重いのかと…」


 受け取ったコートの生地は分厚く、丈は俺の足首まですっぽりと覆えるくらいに大きいのに、その重さは見た目よりずっと軽い。それでいて手で持っているだけで温かさがわかるくらいモコモコだ。


 「特別な毛皮と言ったろ? 山脈の上は気温が低いから今のうちに着ておけ」

 「助かります。防寒具は用意していなかったので…」



 『ぬぅ…。まだ終わらんのか』


 いつまでも出発しない俺達に痺れを切らしたのか、ドラゴンの姿に戻ったジェイドが首を伸ばしてくる。


 「じゃあそろそろ出発しようか」

 『やっとか、長い事待たせおって』

 「スズ様、出る前に一度締めておいたほうがよろしいのでは」

 『あイヤ! どうぞ、どうぞ乗ってくれ! ほら、乗りやすいように腹ばいになってやる!』


 アリアの一言を聞いたジェイドが、焦った様子で乗りやすいように腹を床にベッタリとくっつけた。低くなって乗りやすくなったジェイドの背中には特注の大きな鞍が取り付けられている。これはセレーネが試作品として作らせた物で、今回実験も兼ねて使わせてくれることになった。これなら以前のように風圧で振り落とされそうになることも無くなるだろう。アリアとリリーは何故か残念そうな顔をしていたが。


 ジェイドの背中に乗り込んで、鞍へしっかりと腰を下ろしてベルトで固定する。


 『乗ったか!?』

 「ああ、いつでも良いぞ!」

 『よし!』


 俺の返事を聞いたジェイドが翼をはためかせて勢いよく浮き上がった。下を見ればセレーネ達が手を振ってくれている。俺も負けじと両手で振り返して答えた。


 ジェイドはそのまま皇城を超える高さまで上昇した後、帝都に大きな影を作りながら遠くに見える山脈に進み始めた。

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