運命の女神 ~勇ましき罪人たる王~
一人の王がいた。
運命の女神の寵愛を受け、国を興し、廃れた世を救った英雄である。
そして、この一幕は王の寝所にての出来事である。
「どうなさったのです?そんなところで突っ立って」
「いや、何も」
王はぼんやりと自分の妃と自分の子を見つめていた。
穏やかな日差しが部屋の中に入り込み、キラキラと世界を飾り立てている。
ちょうど妃は授乳中で、赤ん坊はお腹いっぱいになって眠くなっている。
けれども赤子を離そうとすると、また思い出したように吸いだすので、苦笑しながら妃は我が子を見ていた。
「昔。昔、俺はその子のような赤子を手にかけたことがある」
「はい?」
突然放り出された言葉にぽかんとする妃。
「昔の話だ。俺が王になる前、俺は運命の女神の言うがまま一つの村を襲った。女、子供関係なく殺した。その中には赤子もいた」
「・・・何故そのような話を?」
「さあ、何故だろうか」
王は我が子を撫でてやる。
「・・・多分、運命の女神が囁けば、俺は迷わずお前達の命を奪うだろう。俺はそんな男だ。そのことを警告したかった・・・のかもしれない」
「悔いておいでなのですね」
「悔いたところで、奪った命が戻る訳でもないがな。この罪は消えはしないのだ」
妃は王に頬をすりよせ、そして囁く。
「貴方が罪人ならば、この国の、いえ、この世界で平和をむさぼっているもの全てが罪人なのです。貴方はそれだけの事を成した」
「だからこそ死んでいった者達の分まで良き治世をと言う訳か」
「ええ。よくお分かりで」
王は一笑し、立ちあがる。
「いつ狂人となるか分からぬ王の治世を望むと言うのか?いつその身に俺が刃を突き付けるかも分からぬのに」
「大丈夫です。私は貴方に殺されませんし、この子だって私が殺させません」
「そのようなこと・・・」
「私は貴方の妻で、そしてこの子の母親なのです。だから、させません。絶対に」
「・・・そうか・・・そうだな」
妃は王に向かって微笑む。
そして、それに答えるように王は顔をくしゃくしゃにして笑った。