96 年越しの準備は大変
情報解禁されました。
『転生した私は幼い女伯爵』の①巻が11月15日にアース・スターノベルから発売されます!
あと一月ちょっとで年が明ける。
そう意識させられたのは、レイモンが、「年内にやっておくことリスト」を発表したからだ。
正確には、リストの発表は現状報告の後で、「イベントがたくさんあるから、年末年始は勉強はお休み」と言ったのだ。イエーイ!
ちなみに、やっておくことリストはどの領地でもほとんど共通しているらしく、サッシュバル夫人も十二月になると、長男が継いでいる領地へ帰省されるらしい。
だから十二月と一月は完全どフリーとなる! イエーイ!
「マルティーヌ様? 続けてよろしいでしょうか?」
そう。たった今聞いたところで、聞いたそばから、「うぉぉぉ!」と内心ガッツポーズしちゃってた。ごめん、ごめん。
「オホン。ええ、大丈夫よ。続けてちょうだい」
「まず、大工の手配ですが、こちらは無事に完了いたしました。十二月から五月までの契約を済ませたところです。木材の確保も程なく終えるでしょう」
お! 大工を確保できたんだ! やるじゃん!
「ねえ、レイモン。その契約期間ならば、騎士用宿舎と厩舎の修繕に加えて、オーベルジュも建てられるっていうことよね?」
「はい。それと、教会の修繕も含めてのものになります」
うわぁー。それがあったわ! 忘れてた。
「そうね。教会の修繕が一番大事だわ。オホン。ええと、順番としては、教会の修繕、専用宿舎、厩舎の修繕、最後にオーベルジュね?」
私は、ちゃんと良識をわきまえていますよとアピールしておく。
「はい。その通りでございます。ですが――」
は? 出たよ、レイモンの「ですが」。何なの?
「何か懸念事項でもあるの?」
レイモンが珍しく言い淀んでいる。何か意見したいのかな? それって反対意見?
「……マルティーヌ様。正直申し上げまして、オーベルジュという施設を建てたところで利用される方が本当にいらっしゃるのか、私といたしましては自信を持てずにおりまして」
「あら! そんな心配をしてくれていたの? まずソフィアが来るわ。お母上もご一緒にね。あの子が王都で宣伝してくれると思うから、新しい物好きな令嬢たちが次から次へとやって来ると思うの」
ちょっと楽観的だとは思うけどね。でも、オープン時には、いろんな体験型のメニューを用意するつもりだから。
「さようでございますか。承知いたしました。それでは大工たちの契約は五月までで問題ございませんね」
「もちろんよ! あ、建築資材の、特に木材の買い付けだけれど、私の魔法で増やすことが出来ると思うの。だから買い付けは七、八割程度の量でいいと思うわ」
レイモンがうっと喉に何かを詰まらせたような表情をした。
あれ? なんかまずかった?
「それでは公爵閣下に叱られてしまいます。マルティーヌ様の魔法は大っぴらにしてはならぬと仰せでした」
うーん。まあリスクっちゃリスクかもね。増やせると思ったんだけどなぁ。
「そうね……」
私があまり納得していないと見てとったレイモンが、皆まで言ってくれた。
「マルティーヌ様。前にも申し上げましたが、予算なら心配いりませんので、業者から必要なだけ購入してください。彼らもプロですので、完成した建物を見れば、どれくらいの木材を使用したかわかることでしょう。注文を受けた量が少ないと思えば、他領から安く買い付けたのかなどと、邪推されるかもしれません」
あぁ、そういう……なるほど。それもそうだね。
「わかったわ。レイモン。ちゃんと見積もってもらって必要なだけ買いましょう」
「はい、マルティーヌ様。それから、一点ご報告ですが、年始のご挨拶の件で、フランクール公爵が明日こちらにお見えになられます」
「は?」
ぅえぇぇぇ!
「何かしら、その、年始のご挨拶の件て?」
「さあ、そこまではお知らせいただいておりませんので」
「そ、そう……まあ、明日になればわかるわね」
公爵一行は、絶妙な時間に到着した。
公爵の訪問に備えるために昼食を早めに取ろうと、十一時半にダイニングルームへ向かっているところにやって来たのだ。
わざとか? わざとだな。うちでお昼を食べる気だったな。
それでもポイントを稼ぐチャンスではある。歓迎してやろうじゃないの!
「ようこそおいでくださいました。お疲れでしょうから、まずはお部屋にお茶をお持ちしますね。この後十二時から昼食の予定なのですが、よろしければご一緒にいかがですか?」
公爵は表情を変えなかったけれど、ほんの少し目の奥で笑った気がする。
「助かる。遅くなっては落ち着いて話ができないと思い、朝食もそこそこに宿を出たのでな」
ほらー。やっぱり。お昼ご飯に間に合うように急いで来たんですね。
くっ。用心していたのに、目の端に赤毛の男が映ってしまった。相変わらずニヤニヤしている。
「では、十二時にダイニングルームにお越しください」
私は慌ててギヨームを脳内から締め出し、歓迎の意味を込めた満面の笑みで公爵を招待した。後のことはレイモンに任せる。
厨房に急がねば。ポイントゲットのために!
厨房には既に、十二時からに予定を変更して、公爵も含めての昼食になることが伝わっていた。
「ケイト。忙しいところごめんなさいね」
「とんでもございません。何でしょうか?」
「せっかく公爵閣下にお昼をお出しするので、まだ召し上がられていない料理をお出ししたいの。確か、潰したジャガイモをマヨネーズであえたものは出したことなかったわよね?」
「はい! そちらは収穫祭の後にマルティーヌ様に教えていただいたものですので」
よっし! ポテサラは間違いないよね。
「じゃあ、それをお願いね。ハムを多めに入れてね。夕食にお出しする料理はまた後で考えましょう」
「かしこまりました」
11月発売の2作品のSSも書き終えて一息ついたところなのですが、今月下旬からは2作品それぞれの2巻の改稿が始まる予定なので、来週以降もしばらくは毎週金曜日の更新とさせていただきます。




