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93 護岸工事④

「素晴らしいです! マルティーヌ様は本当に魔法がお上手ですね。フランクール公爵からお聞きしていた通りです。この目で見ることができて嬉しいです!」


 は? キーファー、もう一回お願い。公爵がなんだって?


「ええと、リュドビク様が私のことをそのようにおっしゃっていたの?」

「はい。マルティーヌ様は天性のセンスで魔法を使いこなしていらっしゃると。まだ学園で学ばれてもいないのに、呼吸をするように操られるのだと。だからマルティーヌ様こそが、モンテンセン伯爵領の一番の財産だと伺いました」


 ちょっ、は? えぇぇ!

 待って。あの人、そんな風に思っていてくれたの?

 えぇぇぇーー。だったら、私にもそう言ってくれたらいいのに!

 顔の硬さを取って、ムチは後ろに隠してアメをたんまりくれてもよさそうなものなのになー。

 私を迂闊に褒めると、いい気になってサボっちゃうとでも思った?


「まあ。そのようにお褒めいただき光栄だわ」


 と、とりあえずは返事をしておこうか。




 補助作業員の二人は残って後始末をするらしい。

 それ以外のみんなは、それじゃあ帰りますか――みたいな雰囲気を出しているけど、なんだか後ろ髪を引かれているような気がする。

 うーん? 

 何だろう? 何かが気になるような……? 違和感とかは特に感じないけど……。

 目の前の拡張された川の流れは静かで何の問題もなさそう。


 ……………………。

 ……………………。

 ………………ん?


「あーーーー!」


 みんながギョッとして私を見たけど、それどころじゃないよ!

 無い! 無いじゃないの! 

 橋が一つしか見えない!


 ちょっ、ちょっと。えぇぇ?

 ここから随分と下ったところに一つ橋がかかっているのが見えるけれど、川上の方には橋が見えない。

 は? めっちゃくちゃ不便じゃない?


「ねえ、キーファー。この川にかかっている橋って、向こうの方に見える橋だけってことはないわよね? まさか一つじゃないわよね? この川に橋っていくつかかっているの?」

「橋ですか? ええと――」


 スコットがサッとキーファーの前に地図を出した。


「二つですね」


 はぁん?!


「少ないわよね? それともこれは普通のことなの? フランクール公爵領でもそれくらいなの?」

「それは――普通はもう少し掛かっているものですが」


 でしょ? そうでしょ?

 めっちゃくちゃ不便じゃないの。みんな相当遠回りしていたんじゃない?


「もっと橋を掛けるべきだと思うわ。どうせ蛇行部分の工事は来週だから、今日の余った時間で一つでもいいから橋を掛けるわ!」


 マジで! 絶対に必要でしょ。こっちが優先でしょ!

 材料なら目の前にある。

 川べりに塗りたくったコンクリートを成型魔法で増やして橋にしちゃえばいい。材料は土と石だから、彼らは土魔法だと思うはず。大丈夫なんじゃない?


「マルティーヌ様。さすがにそれは。今日のところは一度お屋敷にお戻りになって、レイモンさんに相談した上で決められてはいかがでしょうか?」


 ローラから待ったがかかった。予定にないことを嫌うのはわかるけど、でもでも!


「ねえ、ローラ。あなたは知っていたんじゃないの? みんな困っていたのでしょう? もしかしたら陳情もあったかもしれないわ。材料ならあるのだし、私の魔法なら簡単に出来ると思うの。ちっとも疲れていないのだし、それにまだお昼の鐘も鳴っていないでしょ? 一箇所だけでもいいから掛けさせてちょうだい。お願い!」

「マルティーヌ様……」


 ローラが返事に詰まっている横で、キーファーとスコットは地図を睨みつけていた。

 偉い!

 私が「橋を掛ける」と言ったから、一箇所掛けるなら、まずはどこが最適かを考えているんだね。


「キーファー。利便性を考えたならば、橋はあといくつあればいいと思う? その中でも一番利用頻度が高いと思われるところに一つ作りたいのだけれど」

「それでしたら、あと三本ほど掛けていただければ、領民の皆さんの生活が改善されると思います」

「わかったわ。次回は橋二つと蛇行部分の工事にするわ。それで、最初の一本はどこがいいの?」

「はい。こちらがよろしいかと」


 キーファーが指差したところは、蛇行部分が終わってなだらかに流れ始めているところだった。


「じゃあ、行きましょう!」

「はい!」


 魔法大好きキーファーが元気よく返事をしてくれて、なんとなくなし崩し的に橋を掛けることになった。

 とりあえず塗ったばかりのコンクリート部分をバケツ一つ分取り出して、作業員の一人に運んでもらうことにした。

 ローラの顔は見ないで歩く!





「この辺りになります」


 キーファーが立ち止まって地図で確認をした結果、橋を掛ける場所が決定した。


「馬車が余裕で通れるくらいは必要よね」

「はい。荷馬車が通れると皆さん助かるはずです」


 オッケー。橋の幅はイメージできた。

 デザインはどうしようかなぁ。コンクリートの平な橋じゃあ味気ない。せっかくだから少しは気の利いたデザインにしたい。


「ねえ、キーファー。丈夫で固い石ってすぐに持ってこられる?」

「はい。貯水槽をお作りになった際に集めた石でよければ、近くにあります」

「じゃあ悪いけれどバケツひとつ分ほど持ってきてくれる?」

「承知しました」


 キーファーが返事をすると、スコットが飛び出して行った。

 いいコンビだなあ。


 じゃあスコットが石を持って帰る前に基礎的な橋を掛けちゃおう。

 最初に頭に浮かんだのは、山口の錦帯橋。アーチを緩くすれば渡るのに労力もいらないはず。

 川幅の真ん中に土台を作って、両側からアーチをかければいい――――いやいや。何も前世の常識に囚われる必要はないじゃない。


 この河岸からコンクリートを増やしつつ、川幅の半分ほどのところまでアーチをかけて、そこから土台を下に伸ばすイメージで川の底へズドンと、なんなら川底を掘ってコンクリートを流し込むイメージで作ればいいんじゃない?

 それから残り半分のアーチを向こう岸まで伸ばせば、あーら簡単。あっという間に橋がかかっちゃう!


 イメージ出来ればこっちのもんだもんね。

 作業員にコンクリートの塊を川岸に置いてもらい、しゃがんで手を伸ばすと、キーファーの荒い息遣いが聞こえた。

 ちょっと! そこまで興奮するようなことじゃないでしょ!


 とりあえず無視して、川岸に五メートルほどの幅にコンクリートを伸ばし、そのままアーチ状に伸ばしていく。


「はぁぁ。素晴らしいです……」


 キーファーの吐息まじりの呟きがちょっと気持ち悪い。

 けど、無視無視。


 そのまま伸ばして真ん中あたりまで来たので、いったん下の方へ土台を伸ばす。

 うーん? 何も錦帯橋みたいに土台の上にボンと乗る感じにしなくても、そのまま一体型でいいかも。

 そうだ。土台に向かって滑らかに……橋の下側が、川岸から真ん中の土台までが半円になるようにして……いいかも!

 あっ、これ! 半円が川面に映って真円に見える『眼鏡橋』っていうやつじゃない?

 ……おっとっとっと。向こう側のもう半分も同じようにして――っと。


 出来た!


「いい感じじゃない……」


 出来上がった橋を見て、本当にイメージ通りに出来上がったので、思わず呟いてしまった。

 正に自画自賛。


「素晴らしい……素晴らしいです! え? ほんの数分でしたよね? 十分もかかっていないですよね? どういうことですか!? 土魔法をここまで極められているとは……」


 言葉を発する度に、これまでの有能伝説が崩れていくキーファー。だけど、ありがとう。

 それだけ素敵って思ってくれているってことね。



 えー。業務連絡です。キーファーさん。両手を下ろして、気をつけの姿勢をとってください。

 何かに取り憑かれたような目で、私の方に手を伸ばして近づいて来ないでください。


 ローラもキィーって歯軋りしそうな顔で睨んでくれている。

 おっとっとっと。

 リエーフにガシッと捕まっちゃったんですね。じゃあリエーフ、あとはよろしく。




 キーファーが役に立たなくなったと思ったら、スコットが戻って来た。


「マルティーヌ様。このくらいで足りるでしょうか?」


 スコットは、後ろ手に捕まえられているキーファーに驚いたようだけど、ちゃんと物事の優先度を理解していて、私に見たことのある石を見せてくれた。

 そうそう。それよ、それ。


「ありがとう、スコット。そう。この石が欲しかったの」


 スコットはバケツどころか、漬物業者が使っているような黄色い大樽くらいの入れ物にいっぱいの量を持ち帰ってくれた。

 ふっふっふ〜。ではでは、これで綺麗にコーティングして仕上げよう。


 あー。背中にキーファーの視線を感じるけど、リエーフの腕力を信じているから。

 この石は散々扱ったから、今じゃ目をつぶっていても自由自在に変化させることができると思う。

 まあ見ながらやるけどね。

 目の前のコンクリートの橋を、一センチくらいの厚みで覆うことだけを考えれば、あーら不思議!

 スルスルーッと伸びていき、橋の下も土台の部分も、全てを覆い尽くすことが出来た。


「ハァァ」


 もはや不審人物の呻き声にしか聞こえないキーファーの大きな溜め息だけど、聞かなかったことにして、ローラに告げる。


「今日の作業は終わったわ。このまま馬車に乗ると汚れそうだから、持ってきてくれた布をシートに敷いてね」

「かしこまりました」


 視界の隅でキーファーに目をやると、大人顔負けのリエーフによって、何やらクレームと共にスコットに渡されているっぽい。

 まあ優秀な彼のことだから、時間が経てば元に戻るんだろうけど。

 これからはキーファーの前では迂闊に魔法を使えないなぁ。

 熱に浮かされた状態で、公爵に変な報告とかしないよねぇ? 大丈夫かなぁ……?

思いついてしまったら、マルティーヌはやらずにはいられません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 開発局並みだね……。 後は山をくりぬきトンネルも……バキッ!!☆/(x_x) [気になる点] キーファー氏とリュドビク公爵の今後。
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