9 成形魔法でチョチョイのチョイ
ブクマ、評価をいただきまして、ありがとうございます。
屋敷に戻った私は厨房に直行した。
厨房は既にもぬけの殻で、レイモンがきっちりと仕事を終えていたことがわかった。
オッケー。オッケー。
ここからスタートね。
厨房の設備や食材を一通り見て回った。
うん。無理。
魔石を使う調理器具は使い方がわからないし、薪オーブンは火加減の仕方も中の温度変化もわからない。
「私もお手伝いします」と言って、私にピタリとくっついて来たローラは、私の様子を見て料理は無理だと判断したらしい。
なんと言って励まそうかと悩んでいるみたいだけど、違うからね。
このままだと無理っていうだけだから。
ふふふ。とうとうアレを使うときが来たのだ。
私の魔法――成形魔法を!
実はマルティーヌはこの力をあまり使いこなせていない。
なぜなら、何かを作り出すには、その完成形を思い浮かべる必要があるから。
マルティーヌはずっと屋敷に引き篭もっていたせいで、屋敷の中にあるものしか知らない。
そう。彼女には宝の持ち腐れだったのだ。
その点、私なら、モノに溢れた令和の日本の記憶があるからね!
似た材質さえ入手できれば、ほとんどの物が作れるんじゃないの?
うっふっふっ。
「何だか世界征服もできそうな気がしてきたわ」
やばい心の声が漏れてしまったけど、幸いローラには聞こえなかったらしい。
「ローラ。厨房の外に出てくれる?」
「マルティーヌ様?」
「私がここでこれからやることは誰にも見せないと、お母様と約束させられているの」
「それは、厨房で料理をするなど伯爵令嬢のやることではない、とおっしゃりたかったのでは……」
「やるのが駄目なのではなくて、見られては駄目なの」
「はぁ……」
渋るローラを厨房から追い出して一人になると、「ぐふふふ」と、つい悪い顔で笑ってしまった。
「とりあえず使い慣れたキッチンに改造しちゃおう」
かまどらしきものがあったので、そこで炭火調理をすることにした。
キャンプのバーベキューコンロだ。あれをイメージすれば、何を作ればいいかわかる。
幸い、ここにはさまざまな大きさの鉄鍋や大量の薪がある。
「えーと。まずは炭かな」
調理台に薪を置いて、両手で薪を触りながら黒く艶のある炭をイメージすると、あっという間に私の想像通りの炭に変わった。
「やった! 出来た! すごっ! 魔法だよ魔法! よぉしっ! ジャンジャンいこう!」
まずは鉄で作るものから。
ダッチオーブンとフライパン。それらを乗せられるバーベキューコンロ。それに焼き網も。あ、トングもあった方がいいよね。火おこしのスターターもいるか。
木製のものといえば、何をおいてもまずは菜箸。木べらはその辺にありそうだけど一応作っておこう。
……ん? 木ってパルプになって紙になるよね? ってことは、キッチンペーパーも出来るかな?
「出来た!」
薪がキッチンペーパーになったよ。もう私に作れないものなんて、ないんじゃない?!
調理台の上に、成形魔法で作った物を並べてみた。
「……すごい。壮観だわ。思い通りのものを成形できるって、この世界に3Dプリンターがあるようなもんじゃない。いや、もはやそれを凌駕しているかも。…………で。晩ごはんは何を作ろうかな」
結婚式の料理のために大量に食材を揃えたらしく、見たこともないくらいの量が厨房にあった。
「でもこれ、野菜はいいとして、肉は全部が塩漬けされている。塩漬けの肉かぁ。使ったことないんだけど。とりあえず洗って塩を落とせばいいのかな……。主食のパンは――。あっ! ああっ! パンがない!」
危なかった。早く気がついてよかった。作り置きがあるかと思ったら、なかった。
ドアを開けるとローラがドアから三十センチの距離で立っていた。こわっ。
本当に私を一人きりにするのが心配なんだね。
「ごめんローラ。パンだけはすぐに焼けないわ。買ってきてくれる?」
「かしこまりました。数日分を買ってきておきますね」
ん? なぜ、ホッとした顔をした?
パンがあれば、とりあえずは腹が膨らむとでも思った?
私、ちゃんとごはん作るからね!