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【書籍化&コミカライズ】転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです  作者: もーりんもも
第二章 領地を改革します

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80 常備薬作り②

 小屋の中のテーブルの上に、ジュリアンさんが手際よく道具類を並べていく。

 さっき摘んだ二種類の薬草は管理人の少年が綺麗に洗ってテーブルの真ん中に置いてくれた。


「先生、追加でご所望の薬草はこれで合っていますか?」


 少年がジュリアンさんから個別に頼まれごとをしていたのは見ていたけど、その短いやり取りの間に「先生」と呼ぶような関係になっていたとは驚き!


「はい。合っています。そうだ。ちょっと待っていてください」


 ジュリアンさんはそう言うと道具類から手を離し、壁際の棚の方へ行った。

 棚に並べていた本の中から一冊を取り出すと、パラパラとページをめくりながら戻ってきた。


「これを見てください。確か前回、この苗も持ってきていたと思うのですが。見覚えはありますか?」

「はい、先生。ちゃんと植えてあります」

「よかった。ではこれも追加で持ってきてください。ええと。量は片手に載るくらいで結構です」

「はい!」


 何やら私抜きで師弟関係が構築されているようで、軽い嫉妬を覚えるんですけど。


「ジュリアンさん。彼が薬草を持って帰って来るまで、薬の生成に必要な薬草類をメモしていていいですか」

「ええ、もちろんです。この図鑑のイラストが参考になりますから、名前とページ数をメモされておくといいかもしれませんね」

「はい。では、まず熱冷ましからご教示いただけますか?」

「それでは用いる量の多い順に薬草を並べましょう」


 私たちの会話を聞いていたローラがそっと紙を差し入れてくれたので、早速ジュリアンさんが並べてくれた薬草をメモしていく。

 使用する量は比率をイメージできるように、盛られた姿そのままに、もっこりとした大小の山を書き添えていく。鑑定魔法が使えれば楽勝なんだけどね。


「熱冷ましの薬草以外に四種類を使われるのですね。これらを加えると、どういった働きをするのですか?」

「薬の成分変化を抑制し、効能を持続させる働きをします。どうしても時間経過と共に効能は低下していきますから。これらは効能を邪魔することなく品質を一定程度保つ作用があるのです」

「すごいですね。それは――相当数の薬草を試された結果ですよね。そんな貴重な知識を教えていただけて本当にありがとうございます」

「前にもお話ししましたが、広く役立てていただくために研究しているのですから、私としては本望なのですよ?」


 そうはいっても、やっぱりすごいことだと思う。


「ジュリアンさん。ちなみに効能を持続させる薬草というのは効能ごとに違うのですか? 熱冷ましにはこの四種ですが、痛み止めにはまた違うものを混ぜるのでしょうか?」

「鋭いですね。ええ。痛み止めには違う薬草を三種使います」

「ではジュリアンさんは、効能ごとに最適な組み合わせを探し出されたのですね」

「ええ。まあ。現時点でのものですけれど」

「すごいです! 持続作用のある薬草を見つける一方で、その組み合わせを試されるなんて、どれだけ時間がかかることか……」


 プルプルと小刻みに震える手をギュッと握って、ジュリアンさんを見たら、彼から熱っぽく見つめ返された。


「それにしても不思議です。今もそうなのですが、マルティーヌ様と話していると、学園で同級生と話していた頃を思い出します。マルティーヌ様は薬学を学ばれたことはないですよね? 薬学は専門コースの学問ですから、教養科目を教えておられるサッシュバル夫人もご存知ないと思うのですが。いったいどこでそのような知識を?」


 でへへ。まぁ健康情報が氾濫していた世界で生きていたので、多少はそれらしい知識があるのです。

 けど――。ここではちょっと不自然だったか。どうしよう……。


「それはその。こちらに来てからというもの、何故か母と話した記憶が折に触れて蘇るのです。母は長く病床にありましたので、自分でも色々と調べていたようでして……。今になって思い返し、ようやく意味がわかるようになったのです」

「そうでしたか。これは悪いことを聞いてしまいました。申し訳ありません」


 困ったときはいつも母親のせいにしているな、私……。そしていつも相手に謝られている……。


「いいえ。それよりも、前回教えていただいたこの熱冷ましの薬草ですが、薬を作る場合は根元の部分だけを、それも根っこまで使われるのですか?」

「ええ。葉の方は飲用でよいと思います。薬にする際は、根を含めた方が効能が強まるのです。それならばと土を混ぜてみたりもしたのですが、さすがに土は関係ありませんでした――。すみません。つい――。コホン。私からも一つよろしいでしょうか?」

「はい。何でしょうか」


 ジュリアンさんは薬草オタクだ。この様子だと、研究に没頭するあまり食事とか他のことを忘れていそうで心配だなぁ。


「味についてのご相談なのですが。どうしても効能を重視してしまうため、これまでは味については後回しにしてしまい、飲みやすくする工夫をしてきませんでした。マルティーヌ様は気にされますよね?」


 お? おう……。そりゃあね。飲みやすいに越したことはないけど。私が気にするだろうってどういう意味ですか?


「そうですね。具合の悪いときでも飲み下せるような優しい味になれば嬉しいです」

「……やはり。マルティーヌ様ならそうおっしゃると思いました。いつも相手を思いやるお優しい方ですからね。弱い方の立場になって考えることができるのは、本当に素晴らしいことだと思います」


 へ? 本人を前にして、そんな恥ずかしいことをよく言えますね。


「せ、せめて、子ども用の薬は飲ませやすいように味を工夫できると有り難いです」

「子ども用……?」


 ん? ジュリアンさんが、意味がわからないといった顔でおうむ返しにつぶやいた。

 あれ? もしかして……?


「あの。熱冷ましの薬ですが、いえ、薬全般ですが、大人も子どもも同じ薬を同じ量服用するのでしょうか?」

「ええ。発熱という症状は同じですから」


 ジュリアンさんは不思議そうな顔のまま、私の質問の意図が別のところにあるのではないかと探っている。

 いや、言葉のまんまですから。


「子どもに大人と同じものを同じ量飲ませても問題ないのですか?」

「ええ、もちろん」


 へぇ。そうなんだ。前世だと、子どもは大人の半量とかだったけど。ここじゃ大丈夫なんだ。薬草から作る薬は同じ量でいいんだ……。


 ――本当に?


「あの。子どもといっても乳幼児から成人間近まで幅広いですけど。体の大きさに関係なく同じ量を飲ませるのですか?」

「ええ。今まで気にしたことがなかったですけれど。なるほど……。そう言われてみれば、確かに必要とする量に違いがあってもいいはずですね……。マルティーヌ様。それに関しては持ち帰って調べてみます。その間、マルティーヌ様の方でも確認していただけると助かります。重症でない子どもには、少量ずつ飲ませて変化を見ていただけないでしょうか?」


「はい。もちろんです。そのように指示いたします。薬を配るときには、飲む量や回数などの説明をしようと思っていたところなのです。全員に毎回説明書を配ることはできないので、渡す人に、口頭で説明することを義務付けようと考えていました。その際、些細なことですが、薬を受け取る前には手洗いやうがいをさせるつもりです。汚れた手で目や口や鼻を触ると――ウィルスなんて言葉は使えない。バイ菌もね――よくないものが体の中に入ってしまいます。清潔を保つことも病気にかからない、かかったとしても蔓延を防ぐことになると思いますので。ですから手洗いの癖をつけてもらうための小さな一歩になればと――」


 やだ、私。何を熱く語ってんの!

 ジュリアンさんが聞き上手だから、ついついしゃべっちゃう!

 もぉー! 恥ずかしい。


「マルティーヌ様は思慮深い――というよりも愛情深くていらっしゃる。モンテンセン伯爵領は良い領主に恵まれましたね」


 だから、もう! 褒めすぎだってば! 照れる……。

 もー、顔が。顔が!

 私、今絶対――締まりのない表情になってるー!

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完結しました!
追放された悪辣幼女の辺境懺悔生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜

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