6 私だけの固有魔法
お陰様で異世界転生(恋愛)の連載中日間ランキング22位に入りました。
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執務室に移ると私はソファーに浅く腰掛けて、精一杯の厳しい態度で武装した。
最初に、私の身の回りの世話をするはずの侍女を呼んだ。
執務室に入ってきた彼女は、私たち四人の視線に怯みながらも平静を装って挨拶した。
「お、お呼びでしょうか。お嬢様」
「まあ! あなたって、呼んだら来ることもあるのね。私のことなど眼中にないものだとばかり思っていたわ」
「そ、そのようなことはございません。確かに手が離せなくて、一二度、遅れてしまったことがあったかもしれませんが」
明らかに嘘とわかる言い訳に、レイモンが眉を吊り上げた。
マルティーヌは面と向かって文句なんか言えなかったかもしれないけど、私は違うよ?
「ふーん。一二度ね……。どうせティーカップが手離せなかったのでしょう? 私の頼みなどよりも、使用人同士でお茶を楽しむ方が重要ですものね」
「な、何を――。決してそのようなことは――。わ、私は、お嬢様のことを疎かにしたことなど一度もございません」
はい、クビっ!
ベルを鳴らして呼んでも、一度も来なかった人間が何を今さら。
言いにくいことはレイモンが告げてくれた。
「お前には今日限りで辞めてもらう。理由はわかっているな?」
「そ、そんな。だって――。みんなも――」
「ドニ。連れて行きなさい」
「はい」
「は? 何よ! ちょっと離しなさいよ!」
優男だと思ったドニだけど、軽蔑するような眼差しでぐいっと侍女の腕を取ると、部屋の外へ強引に引っ張っていった。
一連の問答に、ローラも心なしかムッとしているみたい。
ドニがドアを閉めると、レイモンに尋ねられた。
「マルティーヌ様。あのような口答えをする使用人など考えられません。もしや、他の者たちも似たような感じですか?」
「ええ。多分そうだと思うわ」
「でしたら、マルティーヌ様に不愉快な思いをさせる訳にはまいりません。私の方で然るべく対応しておきます」
うん? それって、つまりほぼ全員クビってこと?
あ、ちょっと待って。
「あ、あのね。レイモン。確か馬丁は昔からいる人だったし、庭師のじいじ――おじいさんは、お母様のお気に入りの花を絶やさず世話をしてくれていたの。だからこの二人には引き続きいてもらいたいわ」
「承知いたしました。馬車は使う必要がありますから、御者も当面は今の者に任せるとしましょう」
よ、よかった。ちゃんとしている人には残ってほしいもんね。
「私からも一言よろしいでしょうか。是非、メイドも入れ替えていただきたく存じます。この家のメイドといったら――。掃除も洗濯も、全然なっておりません」
ローラがぷんすか怒っている。そうだよね。手抜きしまくってるよねー。私も気になってたんだ。
レイモンもうなずいている。
「確かにそのようですね。メイドは希望者が多いはずですから、働く意欲のある者を採用すれば済む話です。あとはまあ、料理人は代わりが見つかるまで置いておくとして、残りの者はいったん解雇した方がよいでしょう」
料理人!
そうだ。その問題も片付けなきゃ!
「ねえレイモン。この家の料理人の腕をどう思う?」
「腕前は今ひとつですね。領地のカントリーハウスの料理人は、野菜でも肉でも、どうやって美味しく料理しようかと考える人間ですが、この家の料理人は、野菜などはとにかく柔らかく煮て濃いめの味付けをすればいいくらいにしか考えていないように思います」
そうなのっ! そうなのよ!!
めちゃくちゃしょっぱいの! ただただ塩味が効いているだけなのよ。
前世の日本のレベルを求めるのは間違っていると思うけど、やっぱりこの家の料理人が作ったごはんってまずいよね。
マルティーヌは侍女にごはんを用意してもらえず、お腹を空かせていることがよくあった。
我慢ができなくなると厨房に行って、料理人から直にパンをもらっていたけれど、生まれついての貴族令嬢だったマルティーヌは、厨房に行くことをものすごく恥じていたんだよね。
マルティーヌは食べられるだけで満足していたけど、食事は人生の喜びの一部だということを、私は思い出しちゃったからね!
「あのね、レイモン。料理人も解雇してほしいの。料理なら私に任せてくれればいいから」
「は?」
まあ、驚くよね。普通、貴族の令嬢は料理なんてしないものね。
でも私、道具と食材さえあれば、料理できるので!
この世界の厨房のままだと難しいけど、私には、私好みのキッチンに改造できる能力があるので!
母親に、「魔法のことは誰にも言っては駄目よ。お父様にも秘密にするのよ」と言われていたから、マルティーヌは自分の魔法のことを誰にも話していない。
私の魔法は、公的には「土魔法」とされている。それもせいぜい土を固める程度の貧弱な使い手だと誰からも思われている。
でも本当は違う。
初めて母親に見せたとき、ビビってたもんね。
彼女が床に落として割った陶磁器の人形を魔法で修復したのは、マルティーヌが五、六歳の頃だったと思う。
元は、少年が少女に一輪の花を渡している人形だった。
それをマルティーヌは元に戻しただけでなく、あろうことか一輪の花をブーケに変えたのだ。
私の魔法は、素材を手にしただけでイメージした製品を成形できる、「成形魔法」。
おそらく、この世界で誰も使ったことのない特別な魔法。
しかも、あのときは100分の素材から、105分の製品を成形した。
前世の記憶を持ったままこの世界に転生した私だから、この世界の人々とは何か根本的なものが異なっているのかもしれない。
まあ、記憶を取り戻した今だからこそ、そう思うんだけど。
母親が危惧したのもよくわかる。こんな力、バレたら大変だわ。権力者たちにいいように使われかねないもの。
人に見られないように気をつけなきゃね。
できれば、王都なんかにいるよりも領地に引き篭もるに限るわ……。