3 後見人が必要
「ええと。爵位って、女性でも継げるものなの?」
レイモンが首を縦に振った。
「はい。性別は特に定めがございません。お嬢様以外に旦那様――先代のニコラ様の血を受け継ぐ方はおられませんので、お嬢様が正当な跡取りとなられます。また念の為、旦那様が遺言書を作成されていないか、昨日当家と過去に取引のあった弁護士に早馬で確認いたしましたが、ニコラ様は作成されていないとの返事がございました。従いまして、モンテンセン伯爵家の地位と財産は、全てお嬢様が相続されることになります」
……お、おう。なんだかすごい。ちょっとよくわかんない。
「お嬢様――いえ。モンテンセン伯爵になられたので、もうお嬢様とはお呼びできませんね」
「あら、そんな。じゃあ、これからはマルティーヌって呼んでちょうだい」
「マルティーヌ様ですか?」
「ええ。他のみんなにもそのように伝えてね」
「かしこまりました。マルティーヌ様。コホン。なお葬儀ですが――明日の午前に執り行う予定になっております。こちらも勝手ながら私の方で決めさせていただきました」
私、寝込んでいたんだもんね。
問題ないと、うなずいてみせる。
「ちなみに、今朝の新聞にその旨の記事が掲載されております」
ドニがサッと新聞を広げて訃報欄を見せてくれた。なんと「病死」と書いてある!
まあマルティーヌの記憶によれば、貴族の不審死は、軒並み「病死」とされるらしいけど。当然、国への届出もそのようになされる。それが貴族社会の慣例!!
ちょっと貴族の皆さん! おイタがすぎませんか!
それにしてもレイモンって、秘書としても、いや広報になるのか? とにかくマスコミとの付き合い方も一流だね。
あのゲス親父は自分の死後のことなんか、絶対に何も考えていなかったと思う。ほんと、自分のことにしか興味を持てない人だった。遺言作成なんて気の利いたことをするはずがない。
私が遠い目をしていると、レイモンが咳払いをして続けた。
「相続の件なのですが、相続人が未成年の場合は少々ややこしい決まりがございます」
あら?
「相続人が未成年の場合は、成人するまで後見人を立てる必要がございます。通常は三親等以内の成人男性を立てるものなのですが、モンテンセン伯爵家には該当する方がいらっしゃいません」
そうだった。一人いたんだけどね。父親の弟が。
どこかの商会で名誉職みたいなことをしていたらしいけど、それって多分、伯爵に押し付けられて仕方なく作った役職だよね。
その叔父さん、いい歳をして結婚していなかった。独身のまま、あと一年粘っていれば叔父として私の後見人になれたのに。残念でした。
去年、下位のベルモン子爵家に婿養子に出されたんだよね。だからもう我が家の問題に口出しできない。
そういえば母親がものすごく嫌っていたっけ……。
まさか、その理由を知っているレイモンが婚姻を誘導したんじゃないよね? なんか、ありそうで怖い……。
「マルティーヌ様。ご気分はいかがですか?」
「ええ。大丈夫よ」
すっかり相槌を打つのを忘れていた。
「後見人につきましては、一月以内に当家から希望を出さない限り、王家から然るべき人物が指名されます」
それは絶対に避けなくっちゃ!
その後見人に、私の今後の生活が左右されることになるなら――大問題じゃない?
こういう案件は、王家にとってはただの面倒事でしかないはず。事務的に処理されるだけだわ。変な人物が指名された日には目も当てられない。
ろくでもない人間を上にすえると、とんでもない苦労が下に降りかかってくる。
もう、前世で嫌っていうほど体験したから、そういうのは勘弁してほしい。
私の平穏な生活のためには――。
「できれば当家から指名したいわね……。明日の葬儀には、カッサンドル伯爵もいらっしゃるかしら?」
「奥様のご友人の? マルティーヌ様もご令嬢同士、親しくされておりましたね。王都にいらっしゃるはずですので、これまでのお付き合いからすれば、おそらくいらっしゃるのではないでしょうか」
やったー! じゃあ久しぶりにソフィアに会えるかもしれない。マルティーヌの唯一の友達。
社交的で活発なソフィアと地味で大人しいマルティーヌとは、なぜだか気が合ったんだよね。
「カッサンドル伯爵夫人は、お母様の学生時代からの親友と伺っているわ。当家のこともよくご存知だし、カッサンドル伯爵に後見人について相談したいと思うのだけれど」
「なるほど。それはよろしゅうございますね。それでは明日お見えになられましたら、お時間を頂戴するよう手配いたします」
「ええ。そのようにしてちょうだい」
レイモンも懸案事項が片付いたことに安堵したようで、ふぅっと息を吐いた。
「現時点でマルティーヌ様に報告しておかなければならないものは以上になります。この後、旦那様のお身体を清め納棺が終わりましたら、改めてご報告させていただきます。それまでお部屋でお休みください」
了解! もう、あとのことは全部、何から何までレイモンの言う通りにしてもらっていいんだけどね。
「レイモン。ありがとう。あなたがいてくれて本当に心強いわ。引き続きよろしくお願いね」
「はい。マルティーヌ様」
「あ、それと。レイモンも、時間を見つけてちゃんと休んでね」
「もったいないお言葉です」
私が立ち上がると、ドニがドアを開けてくれた。
すごい。さっきの新聞といい、こんな神対応、今までされたことがないわ。
……ああ私たち――私とお母様は、レイモンのお陰で生活できていたんだね。