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【書籍化&コミカライズ】転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです  作者: もーりんもも
第一章 伯爵家の当主になりました

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26 再会

 視察を終えて王都のタウンハウスに戻ったのは、領地を出た翌日の夜だった。

 軽い夜食を食べて寝た私は、次の日の夕方まで眠りこけていた。

 十二時間以上寝られるのって、若さだと思う。

 こんな風に眠り続けたのは高校生のとき以来かも。


 ずっと気が張っていてアドレナリンがドバドバ出ていたお陰で動けていたんだな。その間も疲れはずっと蓄積され続けていた訳で……。

 領地への移動は、やっぱり片道三日かかると覚えておこう。


 レイモンは領地に残った。私が本格的に稼働するまでは、引き続き領主代行の仕事をしてもらう必要があるから仕方がない。

 それでも一週間後の公爵との面談には立ち会ってくれる約束だ。その時には馬車を使うように頼んだけど、どうだろうなぁ。また馬で駆けつけそうで、ちょっと心配。




「マルティーヌ様。お疲れは少しは取れましたか? お茶をお持ちしましたので、一口だけでもいかがですか? それとも夕食前に何か軽く召し上がりますか?」

「ありがとう、ローラ。お茶をいただくわ。食事は――そうね、夕食を少し早めにしてもらえるかしら」

「かしこまりました。アルマに伝えておきます」


 紅茶が体に染みる……。水分補給は大事だもんね。

 

「ねえ。ローラもリエーフも疲れは残っていないの?」

「はい。もちろんです。私たちは日頃から体を動かすことに慣れておりますから。これしきのことは全く問題ございません。マルティーヌ様は体力があまりないのに無理をされたせいで、お体に負担がかかったのではないでしょうか」

「そう――かしらね」

 

 くぅ。ほんと、体を動かしてなかったもんね、私。世の貴族令嬢たちも似たり寄ったりじゃないかな。


 結局、タウンハウスに戻った翌日は、ダラダラとベッドで過ごして終わった。







 カントリーハウスを出発した日から三日間を復路にかかった日数と数えることにして、四日目の朝。


「……もう。気がつけば面談の日まで残り七日じゃないの」


 アルマとの意思疎通は良好で、私が食べたい料理がほぼ想像通りの形で出てくる。

 彼女は知らない料理にも果敢に挑戦してくれる。今日の朝食は、昨夜リクエストしたフレンチトーストだ。


 大まかにレシピを伝授したら、バゲットを使って見事に再現してくれた。「表面はカリッと焼いてほしい」と、そこだけ念を押したら、気持ち厚めに切ってくれて、いい具合にカリカリ食感を味わえた。

 もちろん中はふんわりしていて、バターがジュワッと出てくるのもすごくよかった。週一で作ってもらうことにした。


 そんな朝食を堪能した後は、しっかり働かねばと執務室にやってきたものの、ソファの上でぐうたらしてしまう。

 一応、帰りの馬車の中で、フランクール公爵へのプレゼン資料の構成を考えはした。

 それなのに――。

 既に仕事場所として定着していた執務室のソファに座ると、手が動かなくなる。


 リエーフには休みを取るように言ったのに、相変わらずドアの向こうで護衛任務を遂行中だし、ローラは三十分おきに様子を見にやってきては、お茶のおかわりを勧める。

 私のやる気はどこへ行った?


 ソファーの上でぐでぇと沈んでいると、ノックに続いてドニの声が聞こえた。


「マルティーヌ様。お手紙をお持ちしました」


 お!


「入っていいわよ」


 髪は直せないので姿勢だけ正して、すまし顔を作る。

 ドニがニッコニコの笑顔で差し出した銀トレイの上には懐かしい封筒があった。ソフィアからの返事だ。

 早く読みたいけど、これはいよいよ疲れたときのご褒美にとっておこう!


「やっと笑顔が見れました。マルティーヌ様は大変可愛らしくていらっしゃるのですが、笑うと更に可愛らしさが増しますね」


 つい本音がこぼれちゃったと言わんばかりに控えめに微笑むドニは、女性の扱いが上手い。

 十二歳の子ども相手にそんなお世辞はいらないんだけど。でもまあ疲れているときは、これくらいの軽いノリが心地いい。


「ありがとう。あ、それから。ローラに昼食までは顔を出さなくていいって伝えてちょうだい」

「かしこまりました。その前に温かいお茶を交換しておかなくてもよろしいのですか?」

「ええ必要ないわ」


 立ち去る前にもスマイルを忘れないドニは、執事の他にもう一つ別の属性が乗っかっている気がする……。まぁ癒されるんだけど。



 ――で。あれだな。前世でもそうだったじゃん。やる気が出るのを待ってちゃ駄目。やる気は、やり始めると出てくるもの!


 とりあえず、主な事業を列挙してみる。農業の内訳として詳細な品目も書く。レイモンに教えてもらった売り上げのパーセンテージから円グラフを作成する。


 フォーマットを整えようか。最初にドーンと大きな目標を書こう。あれかな。やっぱランドマーク建設だよね。まあ三年後の姿として。私は大風呂敷を広げるのが好きなのだ。

 ストーリー的には、そこへ至るためのタスクと、解決すべき課題を書いて――と。

 うん。調子が出てきた。だんだんと乗ってきたぞ。

 

 いや、もっと最初に夢を語りたいな。前世の私の夢でもあったんだけど。

 ランドマークったって、私が作りたいのは駅前の商業ビルとかじゃなくて、ホテルなんだよね。そういえば亡くなる直前って、朝食バイキングの企画書を作っていたんだった……。

 まあホテルっていうほど大層なものじゃなくていいから、そう、オーベルジュくらいでいいんだ。美味しいものを食べて、のんびり過ごしてもらえるような……。


 前世で訪問した国内外のオーベルジュの記憶が蘇る――って、あれ? 私、今、夢を見ているのかな? なんか意識が――ぼんやりして――。






 意識が戻ると、私はベッドに寝かされていた。


「気がつかれましたか。少し無理をなさったようですね」


 ん? 誰?


「まだ少し熱がありますが、ポーションで無理やり下げると体に負担がかかりますので、夕方になっても下がらなければ、こちらをもう一本服用するようにしてください。少し起き上がるくらいは問題ありませんが、あまり体を動かさず安静になさってくださいね」


 お医者さんなの? ん? あれ?


「あー」


 人を指差すなんて、私、何をやっているの。


「あなた……。あのときの」

「おや? 私のことを覚えていてくださったのですか?」


 だってイケメンだったんだもん。今もベッドのそばの美しい顔から目が離せないでいるし。

 キラキラと輝く青い瞳の青年は、街ブラをしていたときに会った人だ。


「お医者様だったのですね」

「今日は自己紹介をさせていただきますね。私は医師ではなく薬師のジュリアンと申します。どちらかというと薬草とポーションの研究を主な仕事にしているのですが、知人に頼まれれば、研究結果であるポーションをお分けしているのです」

「……知人?」


 ……え? 今このタウンハウスにいる人間で、王都に知り合いのいそうな人間って、じいじと馬丁と御者くらいなんだけど。

 彼らが薬師――それも研究メインの人と知り合いっていうのは、ちょっと考えにくいんだけどなぁ。


「マルティーヌ様。ドニです。ご近所のお屋敷の方から紹介いただいたそうです」


 ローラが教えてくれた。あ、側にいてくれたんだ。

 ……へ? ドニが? いつの間に?


「さすがドニです。私たちが領地に行っている間、彼は大人しく留守番をしていただけではなかったようで。どうやら、ご近所のタウンハウスに勤めている侍女たちと知り合いになったらしく、すぐにお呼びできる方ということで、先生に連絡をとっていただいたのです」


 うわぁ。女同士でもなかなかできないのに。たった数日で彼女たちとのネットワークを築いてしまうとは。……優男(やさおとこ)、恐るべし。


「そうだったの。あとでドニにお礼を言わなくてはね」

「お礼だなんて。当たり前の仕事をしただけですよ? 私もリエーフも、すぐにドニに追いついて王都での生活に慣れてみせます。タウンハウスでお暮らしになるマルティーヌ様をお支えできるように、諸々把握いたしますから!」

「そ、そう」


 今のローラは熱血漢バージョンだ。

 拳を握りしめているローラを優しい眼差しで見ているジュリアンさんから、癒しのオーラがほわほわと滲み出ている。

 ジュリアンさんがいてくれてよかった。


 でも、そっか。あのとき抱えていた大きなカバンにはポーションが入っていたのかも。

 あーでも、イケメンに看病されるなんて! 前世の私なら恥ずかしくて頭から布団をかぶって隠れたはず。

 でもでも。ドニよ、グッジョブ。素敵な人選。あ、そっか。侍女推薦って言っていたもんね。そりゃあイケメンが一番最初に浮かぶかも。

 でも腕は確かみたい。発熱していたなら、今はそこまで体がだるくないし、熱っぽさはあまり感じない。

 はぁ。ジュリアンさんはいつまでいてくれるのかな? 十二歳の子どもの仮面をかぶって甘えてみたいなー。まぁできないけど。


「先生。今日は本当にありがとうございました。マルティーヌ様がお倒れになったときは、どうなることかと、それはもう心配で。すぐに熱が下がって普通にお話しできるようになるとは……。先生、その節は、まるで不審者に対するような態度をとってしまいまして――この通り、ご無礼をお詫びいたします」


 男前なローラが自分の非を認めて謝罪した。綺麗に体を折り曲げて頭を下げている。ふふふ。今日は、「先生」呼びなんだね。

 うん。素直に謝れる子って大好きだよ。


「ど、どうか頭をお上げください。それに先生はやめてください。私は医師ではなく、しがない薬草の研究者ですから。それに、あのときは私の方こそ不躾でしたし」


 今度はジュリアンさんがぺこぺこと頭を下げ始めた。両者譲らずといった感じだ。

 ここは私の出番かな?


「先生――と呼ばない方がよろしいのでしたわね。ジュリアンさんでよいかしら? こんなによく効くということは、私が飲んだポーションは、もしかしてかなり上等な物だったのでしょうか?」


 そう尋ねると、何故かジュリアンさんがふわりと嬉しそうに微笑んだ。あーもう。青い瞳がキラキラして、見惚れているうちに目をやられそう。

 ポーションって、ランクに応じて金額が上がるくらいの知識しかないから、こんな質問になっちゃったんだけど。


「実は、私の研究というのが、症状に応じたポーションを作ることなのです。お嬢様にお飲みいただいたのは、熱冷ましに特化したポーションになります。他にも、痛み止めや、化膿止めといった特定の効能があるポーションを作れないものか、研究しているのです」


 嘘ぉ。ちょ、ちょっと待って。元気なときに詳しく話を聞きたい。是非、研究内容をご教示いただきたい。

 これは是非ともジュリアンさんのスケジュールを押さえなくては――と思ったところで意識が遠のいていった。


 どうやら熱冷ましのポーションのせいで眠気に抗えなかったらしい。

 そのままジュリアンさんに挨拶すらできずに私は眠ってしまった。

次話でいよいよ公爵が登場します。

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― 新着の感想 ―
>やる気が出るのを待ってちゃ駄目。やる気は、やり始めると出てくるもの!  至言!
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