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20 カントリーハウスの料理人

 一仕事終えて屋敷に入ると、身体中の力が抜けそうになった。


「……はぁ。ちょっと甘いものを食べて横になってくるわ」

「は?」

「冗談よ」


 いいの、レイモン。放っておいて。

 あぁ、もう。安心した途端に心の声が漏れちゃった。


 まぁどうせ甘いものなんてないしね。

 あの街歩きで買ってきたクッキーはひどかった。

 砂糖をジャリジャリ口にしているみたいで、ペッて吐き出したくなったもんね。


 高級な砂糖を惜しげもなく使用していることが、イコール高級品という定義だったとは。

 そういえば、幼い頃の子ども茶会のお菓子もそうだったかも。私、砂糖を舐めているみたいで好きじゃなかった。


「マルティーヌ様。お疲れでしょうから、ひとまずお茶をお淹れしますね。何か甘い物がないかケイトに聞いてみます」

「ありがとう、ローラ」


 ローラには疲れているように見えたのかな。


「それでは応接室でいただかれてはどうでしょう。今回のご訪問では、よくお使いになる部屋だけをご案内いたします」

「そうね」


 レイモンがそう言うと、ローラも承知したというようにレイモンを見てから背を向けた。

 ご訪問か……。私って、まだ来客みたいなもんなんだよね。

 ここを我が家だと思える日が早く来るといいなぁ。






 応接室に入ると、ちょっと感激して、「わぁ」と声が漏れてしまった。

 内装のデザインを依頼した業者? は大当たりだったね。

 応接室は、白とベージュを基調にした明るい部屋で、調度品は重すぎず、漆器や陶器に交じって色ガラスの装飾品なども置かれていた。


「どうぞマルティーヌ様のお好きなものをお飾りください」

「あら。私は素敵だな、と思って見ていたのよ?」


 まあ確かにちょっとだけ地味だなとも思ったけど。

 それにしても、ローラもレイモンも私の考えていることを読みすぎだわ。

 ちょっとくらい放っておいてくれていいのに。





 ローラが持ってきてくれた紅茶は、フローラルな香りが強いものだった。

 この二日間、彼女には幾度となくお茶を淹れてもらったけれど、毎回、味も香りも異なっていた。

 これは結構好きかも。


「お口に合ったようで、よかったです」

「……?」


 どういうこと?


「お気に召さないときは、いつもミルクをたっぷり入れられていましたから」


 バレてた……。そうなの。フレーバーって好みが分かれるよね。

 あ、イマイチかもと思ったら、ミルクティーにしちゃえば、とりあえず気にせず飲めるから……。

 繊細――と見せかけて結局は大雑把な私。

 

 あれ? もしかしてローラ――。色々な種類の紅茶を出していたのは、私の好みを探るため?

 侍女ってそんな苦労をしないといけないの? 今度からちゃんと感想を言うね。


「これはマルティーヌ様をお迎えするにあたり、ケイト――カントリーハウスの料理人が焼いた物です。マルティーヌ様は甘いお菓子はお好みではないようでしたので、控えめな味にしてもらいました。どうぞお確かめください」


 甘いお菓子は大好物なんだけど。甘()()()のが苦手なのよー。

 でも、ま。砂糖ジャリジャリじゃないようだし。

 ゴーフルのように薄く焼いた物を一口食べてみた。


「美味しい」


 小麦粉と卵と砂糖とバターかな? うーん、砂糖とバターはほんのちょっぴりしか入っていないかも? とにかく普通のお菓子の原型みたいな感じ。

 うん。砂糖をまぶしたような王都のお菓子よりも、全然こっちの方がいい。


「ねえ、レイモン。そのケイトっていう人が、ここの料理人なのね?」

「はい、マルティーヌ様」

「私、ケイトのこと気に入ったわ」

「それは、ようございました」

「この後の夕食も楽しみだわ」

「ご要望があれば伝えますが?」

「いいえ。まずはケイトがいつも作っている料理を食べてみたいわ」

「かしこまりました。それではケイトに任せることにいたしましょう」


 何を作ってくれるのかな? あー、ちょっと楽しみだわ。


「マルティーヌ様。夕食までまだ少し時間がございますので、明日からの視察についてご相談させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 おう! そのために来たんだもんね。


「二日間の視察日程を組んでみました。コホン。明日の午前中ですが、まずは領地の主たる商品である小麦の畑を、午後は、小麦に次いで出荷量の多いジャガイモとカボチャの畑をご覧に入れたいと考えております。明後日は、農業以外を見ていただきたく、森林の管理状況や木材加工について、それに畜産関連を予定しております」


 いいね! なんか楽しそう。子どもの頃に行った工場見学を思い出すよ。

 本当に明日と明後日の丸々二日視察になるんだね。戻るのは明々後日か。レイモンのことだから、もう宿の手配も抜かりなく済ませているんだろうな。

 本当に有能な人。現代の日本に生まれていたら、社長秘書として出世したんじゃないかな。


「ありがとう、レイモン。楽しみだわ」


 とっても楽しみなので、寝不足なんてことにならないよう、気合を入れて休むことにした。

 ちなみに夕食は、チーズグラタン(のようなもの)と塩、胡椒したチキンのソテーだった。チキンは塩加減がいい感じで、美味しくいただいた。

 つけ合わせが蒸し野菜だったので、もしかしたらローラが作っていたのはケイト直伝のものだったのかもしれない。

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