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18 初めての領地

ブクマ、評価、毎話いいねをくださる皆様、応援ありがとうございます。

 モンテンセン伯爵領は、国の南西に位置し国境に面している――マルティーヌが知っているのは、それだけだった。

 道中のローラの講義によると、我が領地は農業がメインだけど、森林もあって木材の加工もしているとのこと。牛も豚も鶏も山羊も羊もいるので、食料は豊富だと言う。これは本当に嬉しい。






「ようやくですね。あそこに見えるのがお屋敷です」


 こっちが見えるということは、あっちからも見えるということ。

 私はローラにも手伝ってもらって、急いで例の黄色いドレスに着替えた。

 ローラは私がドレスを作っていたことにも、ファスナーにも驚いていたけれど、だんだんと驚き方が小さくなっている気がする。





 カントリーハウスの前に馬車が止まりドアが開けられると、使用人たちがズラリと並んでいるのが見えた。

 うっ、と息を詰まらせながらも、今こそアラサーの余裕を見せるときだと自分を鼓舞し、差し出されたリエーフの手を取る。

 踏み台を降りると、レイモンが迎えてくれた。

 知っている人間がいてくれると、こんなにも心強いんだ……。


「お帰りなさいませ、マルティーヌ様。お疲れでございましょう」

「いいえ、レイモン。あなたの方こそ少しは休めましたか?」

「お気遣いありがとうございます。どうか、そのようなことはお気になさいませんように」


 え? 気になるよ? 私、上司として労務管理をする立場なんだもん。


「まずはお部屋にご案内いたします」


 私が歩くと、次々と使用人たちが頭を下げていく。

 なんかすごい。なんかすごい!






 屋敷の外観は歴史を感じさせる――はっきり言えば古臭くて冷たい感じがした。

 でも、石とレンガを組み合わせた優美な装飾は、さすが領主の館という感じだった。


 それが屋敷の中に入るとイメージがガラリと変わった。

 全体的に洒落た内装で――一部だけ壁紙のデザインを変えてアクセントを付けていたり、階段の手すりに凝った装飾を施したり――細部に至るまで気を配られていた。

 ……意外。洗練されているデザインなのに、温かみがあって居心地がよさそう。




 私の部屋は最上階の角部屋だった。私とレイモンの後をついてきたリエーフは、扉の外で待つみたい。


「……広い」


 この部屋はマスターベッドルームだな。

 お子ちゃまには似つかわしくないキングサイズのベッドがドンと置かれている。

 夫婦が語らい合うのにちょうどよそうなソファーとローテーブルに、ちょっとした仕事ができそうなデスクもあった。


「歴代の当主様が使用されていた部屋になります」


 それでか。調度品がシックなんだよね。絶対に子ども部屋じゃないと思った。


「お部屋を整える時間がなかったため、シーツやベッドカバーくらいしか交換できませんでした。申し訳ございません。どうぞマルティーヌ様のお好きなように改装なさってください」


 確かに。そこだけ白とピンクだわ。気を遣ってくれたのね。


「私、白もピンクも大好きよ」

「それは、ようございました」

「この部屋は、お父様が使っていらっしゃったまま――ということかしら?」


 あの男の使っていたものを使うのはちょっと嫌かも。


「いえ。先代の旦那様は当主になられてからは、一度もいらっしゃっておりません。お小さい頃には、度々いらっしゃっていたのですが。この部屋は、先々代の旦那様がお使いになられていたままになっております」


 あー。やっぱりそうなんだねー。領地のことは、本当にレイモンに丸投げしてたんだ……。

 煌びやかな王都で遊ぶだけの人生か。はー。絵に描いたような、ぐうたらなボンボンだったんだなー。

 私が遠い目をしていると、ドアがノックされた。


「マルティーヌ様。お荷物を運び入れたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ローラの声で現実に戻った。


「いいわよ」


 男性使用人を従えたローラが部屋に入ってきた。男性使用人は部屋の中に荷物を運び込むと、一礼して部屋を出ていった。

 ローラが慣れた手つきでテキパキと荷物を片付け始める。


「ねえレイモン。みんなは――この屋敷で働いているみんなは、私みたいな子どもが――その、十二歳の女の子が領主になるって聞いて、不安に思ったりしていないかしら?」


 レイモンは大きく首を横に振った。


「何をおっしゃいます。正当な主人をお迎えできることが、どれほど喜ばしいことか。皆、マルティーヌ様のお世話をできることを幸せに思っております。年齢など関係ございません。幼くして当主になられる方は決して珍しくありません。他領では三歳で跡を継がれた方もいらっしゃいます。この屋敷は長い間、主人が不在でした。屋敷もろとも領地を見捨てられたように感じている者も少なくありません。それを――マルティーヌ様は、取るものも取りあえず、真っ先に領地入りされたのです。これを喜ばない使用人がおりますでしょうか。先代の旦那様に対しては、正直、思うところがある者もおりましょうが、マルティーヌ様に対しては、より一層、忠誠心が増したことでございましょう」


 いつの間にか片付けを終えたローラまでもが、うんうんと涙目でうなずいている。

 ありがとう、レイモン。それもこれも、レイモンの教育の賜物でしょ? 主人を敬うよう、事ある毎に言い聞かせていたんじゃないの?


「ありがとう、レイモン。本当にありがとう」


 「ローラもありがとう」と言おうとしたら、ローラが必死に視線をレイモンへやっていた。

 ええと。その目配せは、アレのことだよね? 今、ここで話せと?


 ちょっと待って。まだ心の準備が――。

 私があわあわと焦り始めたのを、優秀なレイモンが見逃すはずもなく。


「マルティーヌ様? いかがなされました?」


 もう、言うしかないんだね。


「あの――ね、レイモン。相談というか、知っておいてもらいたいことがあるのだけど……」

「何でございましょう?」


 あー。またなのね。

 仕方がないので、カーテンにそっと触れる。


「私の魔法は土魔法って聞いているでしょう? でもね、本当は違うの。お母様に秘密にするように言われていて……。『周囲からみくびられるくらいがいいのよ』って。でも、あなたには真実を知ってもらった上で、必要であれば懸案事項に対する処置を考えてもらいたいな、と」


 そう言って、くすんだ緑色のカーテンを薄いベージュ色に変えた。


「…………!!」


 言葉を失ったレイモンが、カーテンの生地をひっくり返しながら、繁々と見つめている。


「ええとね。私の魔法って、どうやら製品の形や色を自由に変えられるみたいなの。すごく変わった――魔法よね?」

「……マルティーヌ様」


 ん? その顔はどう判断したらいいの? 言葉もない感じ――なのはわかったけど、驚愕というより憐憫に近い? ん? あれ? 泣いちゃう? なんか涙ぐんでない?


「マルティーヌ様。素晴らしい魔法だと思います。この上もなく素晴らしい魔法に違いありません。ですが、奥様のおっしゃる通りだと存じます。このような魔法、私は聞いたことがございません。私では判断いたしかねます。後見人となられる高位の貴族の方にお尋ねすべき事案ではないかと」


 あー。やっぱりかー。つまり、後見人となった人に相談か。


「そうね。そうするわ」

「それでも私は嬉しゅうございます。このような立派なお力をお持ちの主人に仕えることができて、この上もなく幸せでございます」


 感激してくれるのは嬉しいけれど、泣かないでね?


「私もです、マルティーヌ様!」


 ローラまでもが、なぜか負けじと力強く宣言した。

 そんなローラにレイモンが釘を刺そうとしたので、私の方から白状した。


「あのね。ここに来るまでの間に、ローラとリエーフには話してあるの。もちろん秘密にするって約束してもらったわ。その、それと――」


 馬車の中で横になっていたことは伏せて、少しだけ馬車を改造したことを説明すると、「是非、その馬車を拝見したい」と言われてしまった。






 レイモンを先頭に、私、ローラ、リエーフと続く一行を、屋敷の使用人たちが何事かと手を止めて見てくる。やだ、恥ずかしい。

 





 馬車置き場へ行くと、数人の下男が馬車を囲んで何やら談議していた。

 王都から来た家紋入りの馬車が珍しいのか、それとも規格外の大きさに驚いているのか――。さあ、どっち?!



 下男たちは私たちが近づく気配を感じ取ると、馬小屋の方へ逃げていった。

 まあ、私でもそうする。


 見るからに一回り大きな馬車に、レイモンが息を呑んだのがわかった。

 そんなレイモンに、リエーフが、「マルティーヌ様が大きな馬車を望まれたということで話は通しています」と口添えしてくれた。

 サンキュー、リエーフ。聞いた人が、「そうか、特注なのか」と勝手に勘違いしてくれそうな言い方だね!


 レイモンは、「よろしい」とだけ返事をして、ドアを開けた。

 え? 中まで見るの? そのまんまにしちゃってたよ……。バレバレじゃん。




 私がちょっぴりへこんでいると、リエーフが声をかけてきた。腰に付けていた袋に手を入れて何かを取り出そうとしている。


「マルティーヌ様。羽を拾えとのことでしたが、この中からお選び頂けますか?」


 うそ! リエーフ! いつの間に!

 白と茶色と黒とあったら、やっぱり白を選んじゃう。でも茶色い羽もあったかそうだし。うん。白い羽は枕に、茶色の羽は布団にしよう。

 どれくらい増やせるかな。さすがに布団にするには一、二本じゃ足りないよね。


「じゃあ、これとこれをちょうだい。この羽ってどのくらい落ちているものなの?」

「いくらでもございますよ」

「そうなの? じゃあ、手の空いているときでいいから、カゴ一つ分ほど集めてもらえるかしら?」

「かしこまりました」


 これで羽毛布団と枕ができるわ!

 うふっ。現金なもので、すっかり気分が良くなった。




 見るだけ見て満足したのか、レイモンがやっと馬車から出てきた。


「面白い機能を追加されたのですね。半分以上をシートで覆われているのは、膝を突き合わせて密談をするためでしょうか?」


 いや、違うよ。違うけれども。――言えない。


「そうね。そういうことにも使えるわね」


 レイモンが、ふむふむと勝手に納得してくれたので、よしとする。


「それより、マルティーヌ様。どうやら皆が集まってきたようですので、お屋敷に戻りましょう」


 ……皆? みんなって? なんで集まったの?

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― 新着の感想 ―
>くすんだ緑色のカーテンを薄いベージュ色に変えた。  王都の屋敷でワンピース作るときに色の合うカーテンを探し回ってたって事は、色を変えるのが面倒or疲れるのかな?
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