178 マルティーヌのお誕生日会②
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「お――誕生日?」
へ?
私の様子から、何もわかっていないらしいと察したレイモンが丁寧に教えてくれる。
「コホン。マルティーヌ様はお忙しくてお忘れのようですが、今日は六月最後の日でございます。マルティーヌ様。十三歳のお誕生日おめでとうございます」
あ! そうだった。いやー、すっかり忘れていた。半分他人事というか……。
今日はマルティーヌの誕生日かぁ。
私がこっちの世界で目覚めたのが七月の頭だったから、ほぼ一年になるのか。早いなぁ。
おっとっと。それにしても、お母さんが亡くなってから誰もマルティーヌの誕生日を祝ってあげてないんだよね。
ソフィアからはお祝いのカードとかが送られてきていたかもしれないけれど、マルティーヌの元には届かなかったから、ずっと寂しく過ごしていたんだよね。
くぅーレイモン!
発案者はレイモンだね?
今までの分まで、大勢で誕生日を祝おうと企画してくれたんだね。
あ、ちょっと……。
「ぐすっ。ひっく」
無理かも。我慢できそうにない。
「うっ。うっ。ひっく」
ここで泣いては、淑女教育を受けた意味が――領民だっているのに。完璧な淑女としてみんなの記憶に残りたいのに。
あ。ローラが泣いている。ずるいよぉ。
「れ、レイモン。あ、あでぃがとぉ。あ、あでぃ、ひっく。うっ。ううっ」
とうとう涙がボロボロ溢れてしまった。
ローラが慌ててハンカチで涙を拭ってくれるけれど、ローラ自身も涙が頬を伝っている。
ハンカチを受け取って、なんとか格好をつけて女優みたいに目頭を押さえて涙を食い止めてみる――けど止まらない。
もう仕方がないので、我慢せず少しの間泣かせてもらった。
ローラは、「わーん」と声を上げていなかったけれど、涙の出方がギャン泣きに近い。
他人が号泣する様を見て、ようやく気持ちが落ち着いた。
静かに鼻水を拭ってハンカチを置き、息を整える。
「皆さん。本当にありがとう。こんな素敵な誕生日は初めてだわ。さあ、せっかくだから一緒にいただきましょう!」
この二段のショートケーキだけじゃないよね? レイモンのことだから、抜かりなく全員分を用意しているよね。
あ、そうだ。サッシュバル夫人。本当は夫人が主役のパーティーを開きたかったのに。
「マルティーヌ様。お誕生日おめでとうございます。どうか、そのようなお顔をなさらないでくださいませ。私にとっては、成長した生徒の姿を見ることが何よりのご褒美なのです。共に過ごさせていただいた時間が無駄ではなかったことが、はっきりとわかりますわ。マルティーヌ様はお勉強だけでなく、領主としても領地発展の理想を掲げて誠実に領民に向き合われました。このオーベルジュが最初の成果ですわね。後見人のリュドビク様の薫陶を受けられたのでしょうが、何よりもその尊い志の為せる業でしょう。大変感服いたしました。王立学園での更なる成長を期待しております」
サッシュバル夫人の愛情に満ちた祝福に全身が包まれる。
「ありがとうございます。本当に良いご縁をいただきました。私こそ言葉では言い尽くせないほど感謝しております。サッシュバル夫人がご自慢できるような人物になってみせます」
わー。感極まって、ついつい大きなことを言っちゃった。
夫人も笑いたそうにしている。でも笑わないでいてくれた。
「レイモン。せっかくの貸し切りなんだから、テーブルや椅子は自由に移動してもらって、みんなで楽しみましょう」
「かしこまりました」
「みんな一緒に」という私の言葉を聞いて、従業員たちがレストランの店内からテーブルや椅子を運び出してきた。
「全員、飲み物を持ってちょうだい。私はガス入りのお水がいいわ」
シュワシュワと弾ける泡がシャンパンみたいだから。
私がそういうと、大人たちはグラスを手にして、互いにワインを注ぎ合った。
私とサッシュバル夫人の前には、従業員がそれぞれグラスを置いてくれた。夫人は赤ワインだ。
私が立ってグラスを持つと、夫人も同じようにしてくれた。
そろそろみんな飲み物を手にしたかな?
「皆さん、行き渡りましたか? えー、コホン。今日は私のために集まってくれてありがとう。来月から王立学園に通うためしばらく留守にするけれど、長期休暇は領地で過ごす予定だから、収穫祭には戻ってきます。領地の諸々の差配はレイモンに任せますが、どうか皆さん。健康で幸せな毎日を過ごしてくださいね。私が最初にここを訪れた際にお話しさせていただいたことは、今も変わらず私の胸の中にあります。モンテンセン伯爵領で暮らす皆さんこそが、我が領地の血であり肉なのです。領地が健やかであるためには、温かい血が通い、健康な肉がついていなければなりません。もう一度言います。どうか皆さん、自分と家族の健康を第一に考えてください。あなた方が健康で幸せな生活を送ることが、ひいては我が領地の安寧と発展につながるのです。それでは、モンテンセン伯爵領の発展を願って、乾杯!!」
この場にいた全員が同時に、「乾杯!!」と言いながらグラスを掲げた。
そして一口飲むとグラスをテーブルに置き、大きな拍手をしてくれた。
ローラが再び泣き出して、サッシュバル夫人も涙ぐんでいる。
私は絶対に泣くもんかと二口目を飲んで空を見上げた。
高く掲げたグラスの向こうに初夏の澄んだ青空が見える。
カメラがあったら、とっておきの一枚が撮れたかも。
いやいや。カメラの無い世界でよかった。
ハンカチを鼻に押し当てている姿が世に残らずにすんだんだから。
皆様がアンケートにご協力くださったお陰で、2作品とも「次にくるライトノベル大賞」の本選に進むことができました‼︎
いよいよ本日から投票が始まりましたので、お手数ですがもう一度、2作品に投票をお願いいたします‼︎
投票ページは下にリンクがあります。応援よろしくお願いします‼︎
ノミネートNoは、「100」と「151」です。




