177 マルティーヌのお誕生日会①
本日カドコミで第6話①が更新されています。
王立学園入学までに習得しておくべき内容は全て履修した。
当初の目標だった三大改革も完了の目処が立った。
つまり――いよいよ王都へ向けて引っ越しをする準備に入る段階になってしまったということだ。
それがあまりにも気が進まなくて、ついつい自室のソファーに座りボーッとしてしまう。
レイモンやローラは忙しいみたいで、私がぐうたらしていても口煩く注意しなくなった。
それも何だか寂しくて、いよいよ何もやる気がしない。
とはいえ、お世話になったサッシュバル夫人とお別れする訳だから、そこは何かしら謝恩パーティーのようなイベントを開かなくては、と夫人に打診したところ、見事に固辞されてしまった。
……ショック。
もういっそ日がな一日、甘い物でも食べながらソファーの上でぐでぇと過ごそうか。
よし、そうしよう。
朝着たワンピースを脱いでブラウスとクロップドパンツに着替える。
そしてソファーの上であぐらを組んでアルマに何を作ってもらおうかなぁと考えていたらローラが部屋に入って来た。
あ。ピキッとなってる。
あははは。これはまあ、生活の乱れは服装に現れるってやつですよ。
「マルティーヌ様。最近どうされたのです? サッシュバル夫人からお褒めの言葉をいただくほど成長されましたのに。今のマルティーヌ様のお姿をご覧になったらきっと落胆されて、自信を失われるのではないでしょうか?」
えー。だってだってぇ。
自分でも拗ねているのか何なのかわからない。
『反抗期』? 違うな。子どもの『イヤイヤ期』か。
……あ、わかった。私……燃え尽きたんだ。
「ローラ。私、燃料切れみたい。もしかしたらもう動けないかもしれない」
切実に訴えたのに、ローラは、「お食事はダイニングルームにお出ししますよ?」と、しらっと答えた。
どうせご飯を食べに下りるくせにって言いたいんだね! 食事のためなら動くでしょうと。
「ひどい。這ってでも行けって言っている?」
「普通に歩けますよね? それよりも、サッシュバル夫人とお別れ会をなさりたかったのではありませんか? サッシュバル夫人より、『今日の午後のお茶はオーベルジュで』とお誘いがございましたが」
「本当に? もちろん喜んで行くわ!」
「それではそのようにお伝えいたしますね。それと、後ほどお着替えが必要ですね」
「そう――ね」
仕事を増やしてごめんなさい。
「せっかくのお出かけですし、領地ではおしゃれする機会もございません。新年祝賀パーティーでお召しになったドレスを着てみられてはいかがでしょう?」
「あ! そうね。領地には私たちしかいないものね!」
そうだよ! 着よう! 勿体無いもんね。
あんなに素敵なドレスだけど、王族方にお披露目した手前、もう二度と人前では着られない。
夜会で一度着たドレスを再度着るのは相当に恥ずかしいことなのだと、サッシュバル夫人との何気ない会話の中でそういうニュアンスを感じ取った。
それでも背に腹は変えられない下位貴族の四姉妹とかは、姉妹のドレスをリメイクして着回しているらしいけれど。
もしそのことを笑う貴族令嬢がいたら、絶対にお友達になれないね。
◇◇◇ ◇◇◇
夫人がわざわざオーベルジュでお茶を飲もうと誘ってくれたのだから、お菓子もいつもより豪華なはずだと予想して、昼食は軽めに済ませた。
そうしてまたしても二人がかりで着付けとメイクをしてもらった。
外に出ると、声をかけていなかったのに当然のようにシェリルもいて、リエーフと一緒に護衛してくれることになった。
オーベルジュに到着すると、テラス席のテーブルにはお客様が一人もいなかった。
ランチが終わってお茶の時間にはなっているけれど、何人かはいると思ったのになぁ。
おかしいな。客の入りは順調なはずなのに。
私が一直線にレストランへ向かおうとすると、ローラとリエーフとシェリルの三人が立ちはだかった。
おおう? 何? 何? 何事?
「ローラ。どうしたの?」
「マルティーヌ様。本日はレストランは貸し切りです」
「え? サッシュバル夫人が貸し切ったの?」
てっきりテーブルを予約してくれたものだとばかり思っていた。
「どうぞこちらのお席におかけください。すぐにサッシュバル夫人をお呼びしますので」
「そ、そう?」
ローラに言われるままにレストランを背にして着席した。
すると背後からどよめきが聞こえて来たので振り返ると、サッシュバル夫人を先頭に大勢がレストランから出て来た。
なんとレイモンまでもいる。
ええっ? アレスター? ディディエとマークにマルコムも?
キーファーとスコットもいる! 二人とはほんの二日前にお別れの挨拶をしたところなのに?
あ、顔役の皆さんも。モーリスにマシューにオットー。アルマにケイト、ロディ。エディーにグレン。
大集合じゃないの!!
え? ちょっと何なの? 何これ?
まさか私がお別れ会をしたがっていたから、サッシュバル夫人を招待してのサプライズパーティーを企画してくれたの?
もう私までサプライズはやり過ぎでしょ。事前に知らせておいてよ。
サッシュバル夫人が私の向かいに座ると、レストランの従業員が大きなホールケーキを、それも豪華に二段のケーキを私の前に置いてくれた。
あ、こら。夫人の前に置いてくれなきゃ駄目じゃないの。
私がケーキをそうっと前に押し出そうとしたら、何やら全員が目配せしながら顔を見合っている。
ん? ん?
次の瞬間、皆が呼吸を合わせて私に向かって言ってくれた。
「お誕生日おめでとうございます!!」
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