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17 内装も変えちゃおう

「もう、ローラ。早く乗って」

「は、はい」


 ローラが馬車に乗り込んでドアを閉めたのを確認して、リエーフに叩いて合図する。


「それでは出発します」


 さあ、いよいよだわ。




 カタコトと走り出した馬車は、軽やかに進んでいく。


 え? これ――リエーフの腕がいいからとか、そういう理由じゃないよね? サスペンションが効いているんだよね?

 揺れはするんだけど暴力的でないというか、さっきまではガタンガタンッと揺さぶられていたのが、カタ――カタ――カタ――という軽い振動に変わっている。


「……マルティーヌ様」


 ローラがパアッと顔を輝かせた。

 そうでしょう? 違うでしょう? 良くなったでしょう?


 壁を叩いて、「止めて」と言うと、馬のいななきと共に馬車が止まった。

 きっとリエーフには車内の私たちの感動は伝わっていないよねぇ。


 あぁ、リエーフとも感動を共有したかった、と思っていたら、ドアを開けたリエーフに、「何をなさったのですか?」と食い気味に聞かれた。


「リエーフ。なんですか、やぶからぼうに」

「申し訳ありません。ですが、私の知っている馬車とは違っていたもので」


 あ! そっか。御者台も繋がっているもんね!


「私の魔法で少しだけ補強というか、振動を低減する部品を付け加えたの。すごいでしょう?」

「すごいです! マルティーヌ様!」


 リエーフは本当に感激しているみたいで、興奮を隠しきれない様子。

 まあ、乗り物系だし、男の子の方が反応がいいのかもね。


 じゃ、ローラ。次は私たち女子の番だよ。


 もう一度おさらいしておくと、私の成形魔法は、材料さえあれば思い描いた形にできるというもの。

 つまり、鉄鍋を瞬時にバネに変えた後、もう一回鉄鍋に戻すことだって可能。

 だから、領地までの道中だけ馬車を改造して、着いた途端に元の姿に戻すことだって出来る。

 ふっふっふー。

 だからもう、内装も好きなだけイジることにする!


「リエーフ。馬車の中には私たち以外は入らないわよね?」

「もちろんです。安全を確保するため、休憩中も私が目を配っております」

「よかった。じゃあ、内装を変えてもバレることはなさそうね」


 またしてもリエーフとローラが揃って目を見開いた。


「座りっぱなしって、思っていた以上に疲れるのよ」


 ……マジで。

 サスペンションは基本中の基本で付けてみただけなのよ。

 理想はファーストクラスのフルフラットシート!

 とにかく横になれるだけで違うはずだから。


「ローラ。少しだけ座席を変えたいから降りてくれる?」

「かしこまりました。ドアはお閉めいたしましょうか?」


 リエーフが何を言うんだとローラを睨んだ。

 え? 気になる? これからやることを見たいの?


「別に開けたままでいいわよ。あなたの意見も聞きたいし」

「それではそのようにいたします」


 ローラはもう自分を取り戻したみたいで、有能な侍女モードに戻っちゃった。

 開け放たれたドアの前に、背筋を伸ばして立つローラの横に、ピョコッと並ぶリエーフが可愛い。


 さてと。

 まずは、ドアと反対側の壁に座席を作って繋げ、コの字形にしてみた。

 壁に沿って体を横たえてみると、微妙に足がつっかえる。

 服のサイズを合わせたように、馬車を三十センチほど拡張した。


 ――いい。すごくいい。ああ、枕が欲しいわ。


「リエーフ。今すぐじゃなくていいから、綺麗な鳥の羽を見つけたら拾っておいてね」


 リエーフは困惑した表情で、「かしこまりました?」と、若干、語尾を上げ気味に返事をした。

 うん。わかんなくていいからお願いね。


 あ、寝返りが打てないわ。もうちょっと幅も広げよう。これじゃあ診察台のベッドみたいだもん。いっそ馬車の半分くらいはベッドにしてしまおう。

 うーん。飛行機じゃないけど、揺れに備えてベルトは必要かもね。後で木綿の布をローラにもらって、デニムのようなゴツいベルトを作ろう。


 なかなかの出来に満足していると、ものすごい視線を感じた。まさに熱視線だわ。

 横になったまま頭をドアの方に向けると、リエーフとローラがものすごく何かを言いたげに私をガン見していた。


 まあまあ。


「あのね、ローラ。お行儀が悪いけど、時々はこんな風に横になろうと思うの。それで――あなたの座る場所だけど。あっ! いいことを思いついたわ」


 ローラだって足を伸ばしたいよね。私が横になっている時は、私の頭側の座席を動かして、ローラのオットマンにしてあげればいい。

 ――となると。


 コの字形で繋がっていた座席を、ベッド部分と、二つのオットマン型座席に分けた。オットマン座席は四隅の下に杭のようなものを付けて、床に開けた穴にはめて固定できるようにする。

 ローラはきっと私の足元側に座るだろうから、そっちにオットマンを二つ連結できるように床の穴を調整した。


 あぁ、ちょっと。オットマンの位置を変えようと思うとベッドが邪魔! でも診察台ベッドに戻すのは嫌。仕方がないから馬車の横幅も二十センチほど拡張する。

 うん。これで動けるね。


「見て、ローラ。このオットマンをこうして、こっち側に置くと、ローラも足を伸ばせるでしょ? ほら、そんなに重くないから――」

「マルティーヌ様! お止めください。私が自分で動かしますから!」

「あ? そう? じゃあ、やってみて」


 ローラは馬車に乗り込むと、オットマンの足を穴にはめたり外したりしながら、慎重に確認している。

 何をしているの? 安全性の確認?

 リエーフが、「あの」と、言いづらそうに口を開いた。


「……マルティーヌ様。馬車が大きくなったのもマルティーヌ様の魔法でしょうか? さすがに御者も大きさが変わったことに気がつくと思うのですが」


 おう! やっぱり? 


「一目でわかるほど大きくなったのかしら?」


 すっとぼけてみた。


「それはもう。こんな魔法があるのですか? マルティーヌ様は、何でも思いのままにできるのですか?」


 ふふふ。リエーフもそう思う? 私はできると思う。

 あぁ、でも――。

 

「多分、こんな魔法は知られていないと思うの。だから秘密にしてほしいのよ」

「マルティーヌ様。少し心配になってきました。確かにこれほどの魔法を使えることが知られると、それこそ王家が国のために使うようにと何か言ってきそうで怖いです。とにかく領地に着いたら、すぐにレイモンさんに相談しましょう」


 ローラ、脅かさないでね。でも、そ、それは、怖いね。


「わかったわ。じゃあ、馬車の大きさを変えるのは止めた方がいいかしら……」


 私がしょぼくれてつぶやくと、リエーフが、「いえ。王都の貴族ならまだしも、平民に魔法に詳しい者はおりませんから」と、慰めてくれた。


「マルティーヌ様は土魔法の使い手と伺っております。拙い知識ですが、確か、土と木は相性がよかったはずです。ですので、馬車の車体を少しだけ大きくすることなど貴族には容易いことだと言えば、平民は信じるでしょう。御者への説明は私にお任せください」

「本当? よかった」


 じゃあ、そういうことで。よろしくね、リエーフ。


「それでは悪いけれど、御者にはさりげなく説明してもらえるかしら?」

「かしこまりました、マルティーヌ様」


 うん。リエーフもそんな風に笑うとイケメン度がアップするね。


 じゃあ、問題が解決したところで、もうちょっとだけ追加しておこう。

 飛行機のキャビンで思い出したんだけど、窓の上に荷物入れがあると便利だよね。あ、ついでにオットマンの中にも収納できるように、カパッと座面を外せるようにしよう。


 「ふぅ」と一息ついて、自分の仕事ぶりに満足していると、リエーフに声をかけられた。


「マルティーヌ様の魔法は本当に素晴らしいですね。見ているだけでワクワクしてしまいます」

「ですが、マルティーヌ様。立て続けに魔法を使われていますが、お体の方は大丈夫ですか? お疲れではありませんか?」


 ローラの方がお姉さんだけあって、仕事を忘れていないね。気遣ってくれてありがとう。


「ええ、大丈夫よ。特に疲れは感じていないわ。多分、それほど魔力を使っていないのだと思うわ」

「そうですか? それでしたら、よろしいのですが。お茶はいかがですか?」

「ありがとう。でも本当にまだ元気だから、そろそろ出発しないと。リエーフ。御者を連れ戻してくれる? 先を急ぎましょう」


 リエーフは、「かしこまりました」と言うなり、駆け出して行った。






 馬を連れて戻ってきた御者は、あらかじめリエーフから聞かされていたようで、大きくなった馬車を見ても、大して驚いた様子は見せなかった。




 そこからの移動は本当に快適だった。

 二時間おきに休憩を取っては体を軽く動かしていたから、疲れが蓄積されていく感じがしなかった。これが若さというものかもしれないけれど。


 快適な空間を確保できたので、二日という移動時間を領地の予習(ローラとのおしゃべり)にあてることにした。

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