167 マルティーヌのお茶会②
「皆様。こちらのオーベルジュは、レストランでのお食事を楽しんでいただき、そのまま泊まれる施設として建設いたしました。貴族専用ではございませんのでご不便をおかけするかと思いますが、お困りの際は何なりと従業員にお申し付けくださいませ」
ソフィア母娘は全部わかった上で積極的に楽しもうとしてくれるだろうけど、ルシアナ母娘は粗探しに躍起になるような気がして、先に断っておいた。
あ、ソフィアママが「任せて」っていう顔で援護射撃をしてくれた。
「あら、そのようなお気遣いは無用ですわ。事前にそのように説明をいただいた上で、私たちはお屋敷ではなくこちらでの滞在を選ばせていただいたのですもの。それに受付――ええと『フロント』でしたっけ? 夜も常駐しているとお聞きしましたわ。それに加えて護衛の方が夜通し警護してくださるそうで、かえって申し訳ないことをしたのではないかと思っておりますのよ?」
おばさまは優しいなぁ。
「それにしてもマルティーヌ様は当主になられたばかりですのに、短期間でこのような施設をオープンされ、お茶会まで開催されるとは本当に驚かされますわ」
ルシアナママが、よくできたニコニコスマイルを浮かべながら発言した。
……えぇぇ。微妙。
額面通りなら、「当主として積極的に活動を始めたのですね」と取れるけれど、「ホテルもどきのショボい宿を作って何を偉そうに。今まで碌にお茶会に参加したこともなかったのに当主になった途端に開催?」とも解釈できる。
うーん。よくわからん。パス。
「今日は内輪のお茶会ということで顔馴染みの私たちを招待されましたけれど、王都に行かれましたら正式な茶会を開かれるのかしら?」
ん? ルシアナは何が言いたいの?
「うふふ。モンテンセン伯爵領は豊かなところですものね。マルティーヌ様をお支えしたいという殿方は多そうですわ。どの家も招待状を心待ちにしているのではないかしら」
サンキュー、ソフィアママ。そうか。そういうことか。
私の配偶者争いね! 十二歳の子どもなのにね!
それに何だかお金目当ての輩がうじゃうじゃいるよって言われた気がする。
でもまだその辺については公爵とちゃんと話をしていないんだよねぇ。
「マルティーヌはよりどりみどりね。選べるなんて羨ましいわ。うちは弟が継ぐから、私は適当な嫁ぎ先を見つけなきゃいけないんだけど、見つかるかなあ。大手の商会の息子とかでいいんだけどなあ」
あらら。ソフィアはもうオフィシャルからプライベートモードに変わってる。
ま、いっか。一通り上っ面の会話はやったもんね。
あ、そういえば、ソフィアに最後にあったとき、「弟が生まれたばかりで」みたいな会話をしたね。まあ、もちろん知っていたけどね。
「ソフィアったら気が早いわね。確か、ルシアナ様はお兄様がいらっしゃったわね?」
サッシュバル夫人と一緒に、招待客の家族については事前に情報を整理したのだ。
「ええ」
あれ? ルシアナがカチンときたみたいで、厳しい視線を返してきた。なんで? 私、まずいこと言った?
ああ、もしかして……。
ソフィアの発言の流れを汲んで、「あなたも探すの大変でしょう?」って、私が仄めかしたと思ったのかな?
もう、これだから貴族は……。普通に会話させてよ。
おっと。ソフィアママとルシアナママの視線も交差している!
ルシアナママが「フン」と鼻を鳴らしたように見えたけど、気のせいだよね?
「カッサンドル伯爵はそのようにお考えなのですね。うちは主人が、『王太子殿下がなかなか婚約者を決めてくれなくて困る』とこぼしておりましたわ。殿下がお決めにならないと、他のご子息も動けませんでしょう?」
おぉぉ。つまり、ルシアナは平民になんて嫁がせないと。結婚相手は名家の子息に決まっているでしょう? と。次期当主夫人でも狙っているのかな?
ルシアナママの目つきからは、「お宅と違って」というセリフが聞こえてくるよ。おー怖っ。
ソフィアが母親の機嫌が悪化したのを察したらしく、空気を読めない体で陽気に話題を変えた。
「『オーベルジュ』って、名前が面白いわね!」
オッケー。乗っかるよ!
「よかった。目新しい名前を付けたかったの。それでお部屋はどうだった? 両端の角部屋は『貴賓室』なのよ?」
「貴族専用じゃないけれど、貴族が泊まることも考えた部屋ね。侍女がすぐ隣の部屋に泊まれるのは助かるわ」
私とソフィアの会話が弾みそうなところに、ルシアナママが強引に割り込んできた。
勝手に話題を変えてイラッとしている?
「マルティーヌ様。食事の時間を指定されたのですが、どのお部屋に泊まっても同じですの?」
もちろん非難ではなく、あくまでも質問の体。
「貴賓室に泊まっている私にも、この時間で食べろと指定するつもり?」と言いたいのだろうけれど、ニッコニコのルシアナママ。
「はい。こぢんまりしたレストランですので、食事を提供する時間は限らせていただいているのです。そこはお客様にご協力いただくスタイルなのです」
無邪気さを装って答えておく。馬鹿なふりとも言う。
さすがに、言外の意図に気づかないふりをしたことくらいはわかってくれたと思う。
「フン」と聞こえてきそうなくらいに、ルシアナママはルシアナとそっくりの角度に顎を上げる。
似てるなー。
次にくるライトノベルのエントリーが始まりました。
「転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです」をエントリーしていただけると嬉しいです‼︎
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