162 森林整備②
「あれ? マルティーヌ様? どうされたのです? あっ、階段が! いつの間に?」
「ふふふ。私が魔法で作ったの」
「領主様が自ら……」
好きでやってることだからね。
それにしてもよく集めてきたね。シェリルは両手に山ほど小枝を抱えている。
「それにしてもすごいわね、シェリル。よくこんな短時間で集められたわね」
「えーと、その。枝ぶりがよい木から少々……」
そういうことか。落ちていたのを拾ったのではなく、ホイホイ枝をもいで集めたんだね。
まあ、でも小枝が一本折れたくらいで枯れたりしないよね。
「結構よ。助かるわ」
そう言うとシェリルがパアッと顔を輝かせた。へぇ。彼女ってなんというか――素直なんだね。
「じゃあ、ここからは私の仕事ね」
そう言ってシェリルの腕の中にある小枝を二本取って、両手で地面にトンと立たせる。
頭の中にはよくある遊歩道の手すりが浮かんでいるので、あーら不思議、トンと地面を叩いた次の瞬間にはドドーンと手すりが出来上がる。
グイッと押して強度を確かめたら、びくともしなかった。地中に深く刺さっているみたい。
そこもイメージ通りなんだね。
「まっ、マルティーヌ様」
びっくりした?
「シェリルには初めて見せたわね。私の魔法はフランクール公爵の折り紙つきよ?」
「な、なるほど。道理で……」
よかった。単純な人で。
さすがに二本の小枝でバババーンと一気に手すりが完成したら変に思われるだろうから、一応両手の幅くらいに留めたんだよね。
ということで、ここからはシェリルから小枝を受け取ってパパン、受け取ってパパン、という風に、階段の両脇に細い丸太風の手すり付きの柵を作っていった。
「素晴らしいです! マルティーヌ様!」
初見の人にはそう言われる。
ローラもリエーフも最初はそんなんだったよ。キラキラと目を輝かせて私を見ていたもんね。なんだかもう遠い昔のことのようだわ。
「この先に同じような勾配の箇所があれば、このように階段を作るので、その小枝はまだ持っていてくれる?」
「はい」
おっと。忘れないうちに言っておこう。
「コホン。ローラ。レイモンがこの森を管理している方に遊歩道を作ることは伝えているはずなんだけど、追加で森の奥に咲いている花の植え替えをお願いできないか聞いておいてほしいの」
「道を歩きながら可愛らしいお花を観察できるようにということですね?」
「そうよ。ローラも山や森に咲く可愛らしいお花を知っているのね?」
「はい。もちろんです。小さな花が多いので、貴族のお嬢様に愛でていただけるか心配ですが」
「いいのよ! 逆にそういうのがいいのよ。自然の中で普通に咲いている花を見るということが特別な体験なの」
うん。全く伝わってないね。
でも優秀な侍女に「否」はないので、
「かしこまりました。レイモンさんにお伝えしておきます」
と承ってくれた。
ローラに言っておけば彼女は忘れないから大丈夫だと思う。
森に咲く花はグレンよりも森の管理者の方が詳しいと思ったからお願いするけれど、一応彼にも話しておくか。ブルースとグレンは我が家の緑の相談窓口だもんね。
あ、それと柵が壊れかけていないか、花が枯れてしまっていないか、定期的にチェックしてもらわないとね。
カントリーハウスに戻ったら、レイモンに今後の管理についても相談しよう。
「ねえ、シェリル。あなた、どのあたりまで行ったの? この先に景色の良いところがあったなら教えてほしいのだけれど」
「それでしたら湧き水を見つけましたので、そちらにご案内いたします」
おぉぉ! いいね! いかにも静かな森の中って感じじゃん!
「まあ、そうなの。私がちょこちょこと歩いてどれくらいかかりそう?」
シェリルが小枝を集めて戻ってくるまでの時間からして、それほど奥まで行っていないと思うけれど、侮れないからね。
さあ、私の小さな歩幅でえっちらおっちら行ってどれくらい?
「そうですね。森の入り口からここまで歩いてこられた時間の、更に倍くらいでしょうか」
その顔は、私の体力次第ではもう少しかかるかもしれないってこと?
でもここまでなら歩きで十分もかかっていないはずだから、お喋りしながら二、三十分ってところだと思う。
「そう。それならよかったわ」
シェリルについて進んで行くと、まばらに空間が空いていて左右どちらへも行けそうなところに出た。
「シェリル。ちょっと待って」
「はい」
ここはルートを外れないようにガードしておかなくっちゃ。
「小枝をちょうだい」
「はい」
ガードレールのように、コースに沿って道の両脇に柵を立てていく。
どうしよう。さっきよりも少ない小枝でたくさん柵を立てているけれど、不思議がられていない? 大丈夫かな?
大丈夫だった。シェリルの表情に変化は見られない。
小枝が片手で持てるくらいになると、シェリルは空いた方の手で、出来上がった柵の強度を確認していた。
今のうちに「えいやぁ」って作っちゃう。
「ふう。こんなところかしら」
「マルティーヌ様! 本当にマルティーヌ様は素晴らしい魔法の使い手でいらっしゃいますね!」
私を称賛するあまり、いい具合に目が曇っているね。大歓迎だけど。
そこからは柵を作るまでもない感じのゆるゆるとした登り道が続いた。
「マルティーヌ様。あちらです」
おぉぉぉ!
すごい! 本当にチロチロと水が湧き出ている。
さすがに水量が少なすぎて小川になったりはしていないけれど。
でも素敵! 都会で疲れている人なら絶対に気に入ってくれると思う!
「素敵な場所ね。ここで休憩をして引き返すのがよさそうね。理想的なコースだわ」
さすがに小枝で四阿を作るのはやり過ぎかな。
うーん。ベンチくらいならシェリルがいても大丈夫かな?
「シェリル。もう一度さっきと同じくらい小枝を集めてきてくれない?」
「はい。それでは少々お待ちください」
そう言うとあっという間に駆け出して行った。すごい体力だ。
「何を作られるのですか?」
ローラ。「物によってはお止めさせていただきます」って顔に書いてあるよ?
「簡単なベンチよ」
「ベンチですか」
「ええ。それとテーブルかしらね」
「え?」
だって、テーブルがないとお茶とお菓子を食べられないでしょう?
私なら布でも敷いて地面の上に座るけれど、高位貴族の令嬢には無理だから!
「自然と調和する簡単な作りのものよ。心配いらないわ」
最後はジト目での抗議。うっ。負けないんだから。
「本当はお茶の準備ができるように、そうね、少し離れたこの辺にローラたちが作業できるテーブルもほしいところだし、なんなら人数が増えた場合に備えて予備の簡易的な椅子や折り畳めるテーブルも――うっ」
ローラの目がジト目から炎を宿したそれに変わった。
あ、ははは。冗談だってば。
「まあ、その辺りはおいおいね。今日やることではないわよね」
「はい」
シェリルはノリがいいみたいで、さっきと同じと言ったのに張り切ってさっきの三割り増しの小枝を集めてきてくれた。
もしシェリルが不審がるようなら止めていたけれど、その辺りは緩いみたいで、始終、「素晴らしいです!」と小さく拍手をしてくれていたので、チャチャッと長方形のテーブルと三人が余裕で座れるくらいのベンチを二つと、スツールも二つほど作った。
どんなもんだい!
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