159 ホットサンドは大成功
本日カドコミで4話①が更新されています!
翌朝。
早起きしてオーベルジュまでやって来た。
八時前に到着すると、アレスターたちと交代した王太子の護衛が表に立っていた。
レストランに入ると、王太子たちは朝食をとり終えて、いい具合に部屋に引っ込んだ後だったようだ。
厨房の中に集まって一息ついている従業員たちを労わなくっちゃね!
私が厨房に顔を出すと、全員がピシッと背筋を伸ばした。
すごいわ。よく訓練されている。
「休憩中のところ悪いわね。昨日今日とずっと緊張状態が続いていたでしょう? まだオープン前の練習期間なのに、よく頑張ってくれたわね。本当にありがとう」
つい頭まで下げそうになりグッと堪える。
「もったいない」とか「いえいえ、そんな」とか「ありがとうございます」とか、みんな顔をグシャグシャにして返事をしてくれた。
涙ぐんでいる人もいるけれど、それってずっとストレスがかかっていてやっと解放されたからじゃないよね?
オーナーからの労いに感極まったからだよね? そうじゃなきゃ困るー!
「この後のお見送りは私に任せてちょうだい。皆さんはレストランの前に整列してくれるだけでいいから」
一斉に、「かしこまりました」の声が響いた。
「ではマルティーヌ様にお茶の用意をお願いしますね」
ローラはそう言うと、私に、「早く厨房から出てください」と顔に書いて催促した。
フロントのドアがよく見える外のテーブルで、食べたいのを我慢して紅茶だけいただいていると、パトリックがフロントのドアを開けて外に出て来た。
そういえば従者も連れずに軽装で飛び回る人だった。
着の身着の儘で草むらに転がっても平気な人だから荷物も少ないんだろうな。
私を見つけると駆け寄って来た。
「やあ、マルティーヌ! 朝食で君の言っていたホットサンドを食べたよ。あんな風に僕の描いた絵を焼き付けるなんて、ほんと面白いことを考えるよねー」
「お気に召していただけたのならよかったです。特に可愛いものが好きな女性や子どもには好まれると思ったのです」
えへへ。褒められるとちょっと嬉しい。
「リュドビクなんて、『ハムとチーズを挟んだパンを焼いたものになります』って説明を聞きながら、茶色く焼き付けられた兎をしばらく睨みつけていたからね! そのくせ、僕がホットサンドにかぶりついたら真似して食べるんだから困ったものだよ。それどころかお代わりしようとして、『卵とベーコンのホットサンドがすぐに出来上がると思います』と聞いて、『ではそちらをいただこう』なんて格好をつけていたからね」
プププ。公爵らしいな。ほんと食いしん坊さんだね。
そんなに気に入ったのなら、今度カントリーハウスに泊まられたときは朝食で出さないといけないかもね。
カントリーハウス用のホットサンドメーカーを追加で注文しておこう。
ホットサンドメーカーは正式に職人に製造を依頼した品だ。
何でもかんでもホイホイ私が作ろうとするから、レイモンから、「職人に指示して製造できるものはできるだけ任せるようにしてください」と注意されてしまった。
今はちゃんと、外注できる物かどうか、最初に考えてるもんね。
まあ、パトリックの簡易イラストのお陰で外注できたようなものなんだけど。
彼が、運動会で使用した私のトランプもどきの絵を見て大笑いしたので、ちょっとだけむくれていたのだ。
そしたら、その場で兎と子熊の絵を描いてくれたので、つい、「もう少し子ども向けにできるだけ線を減らして簡略化した図案のようなものになりませんか?」とねだってしまった。
そうして出来上がったのがこのホットサンドメーカーなのだ!
噂をすれば公爵とギヨームが出て来た。護衛と王太子の姿も見える。
「おはようございます」
微笑マシマシで公爵に声をかけたのに、「来なくてよいと言ったはずだが」と素っ気ない。
ちぇっ。
「ひどいなー。せっかくマルティーヌが見送りに来てくれたのに、それはないだろ」
そうだ、そうだ!
いいぞ、パトリック。もっと言ってやれ!
「美味しい朝食に満足して、お土産までもらったんだからお礼を言いなよ」
公爵がピキッってなっている。
お土産作戦を私が忘れるとでも?
三人分の手土産を公爵に渡すよう昨日のうちに指示しておいたからね。
うっかりそれぞれに渡しちゃうと、王太子が気に入って定期的に王宮に納品――なんてことになりかねないから、公爵を経由して面倒事を丸投げしたのだ。
パトリックは、「お土産を受け取ったのは知っているぞ。僕の分はたくさんもらうからね!」と言っているのだ。
まあ好きにしてください。
「ご滞在中にご不便などはおかけしなかったでしょうか? なにぶんレストランが主体の簡易的な宿泊施設ですので、こういうところに泊まり慣れていらっしゃらない方には物足りない点が多々あったかと存じます。本格的に営業を開始する前に改善すべき点など伺えましたら幸いです」
意外にも王太子がにっこり微笑んで答えてくれた。
「いや、快適に過ごせた。食事を目的に訪れるところだと聞いていたので問題ない。急な来訪にもかかわらずもてなしてもらったことに礼を言う」
もうすっかり王太子の口ぶりなんですけど。お忍び設定をお忘れですね。
「ご満足いただけたようで嬉しいです。それでは皆様、王都までの道中何事もございませんように」
王族に対するお見送りとして、きっと公爵も許してくれると思うので、従業員共々深く頭を下げて見送った。
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