表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/163

148 オーベルジュのメニュー

 オーベルジュの建設現場に到着すると、やっぱりテンションが上がる。

 シンプルなデザインだけど白い外観がプール池の水に映ってとても綺麗。

 そう。私がプール池の完成形をイメージできるよう水を張ってもらったのだ。

 職人たちの作業はオーベルジュの奥にある従業員用の寮に移っているので、物音は聞こえるけれど姿は見えない。


「こちらのオーベルジュですが、建物自体は既に完成しております。レストランにはテーブルや椅子なども設置が完了しており、調理器具と食器類の納品を待っている状態です。隣のワークショップスペースでは、お客様にハーブティーのブレンドを体験していただく予定でして、こちらも備品を揃えている最中です」


 公爵は私の説明を黙って聞いてくれている。表情はデフォルトのままだからお小言の予兆はない。

 ドヤ顔にならないよう気をつけているもんね。


「ハーブティーのブレンドの体験? そのようなことをして楽しいのか?」


 ムッ。楽しいもんねー。私たち女子は楽しんじゃうもんねー。


「はい。女性は『特別』な物を好みますから。自分でブレンドして世界にたった一つのハーブティーを作るというのは、とても楽しいことなのです」

「そうか」


 そうですよ。


「……レストランとハーブティー。君が考案した料理や菓子は確かに魅力的だが、わざわざ馬車で数日かけて来てまで食べたいと思うかどうか。宿泊したところで楽しみはハーブティーのブレンドだけ。これで客が見込めると?」


 くぅぅ。言い方! わかるけど!

 毎月のようにうちに食べに来ていた人に言われたくないんですけどね!


 でもまあ、やっぱりそれが一番気になりますよね。

 だから他にも色々楽しめるようにアクティビティ面の開発も頑張っているんですよ。

 もっと言うと、何もしないことを楽しんでいただけると嬉しいんですけどね!

 まだこの国でそこに達しているお金持ちはいないのかなぁ。

 ……あ! 一人いるかも。

 パトリックなら三十連泊くらいしてくれるんじゃないかな? ふふふ。


「基本的には領民の利用を想定しています。このように邸宅風に建物と庭を設計しましたので、自宅で茶会を開けない方にも、特別な日に少し背伸びをして利用する場所と捉えていただけるのではないでしょうか」

「ふむ。裕福な平民でなければこのような屋敷には住めないだろうから、確かにその狙いは面白い」


 お! 公爵が認めてくれた!


「はい。レストランは開店直後はランチ営業のみにして、ディナーは宿泊客のみに提供する予定です。客室の稼働が安定し、従業員も仕事に慣れたところでディナー営業を開始する予定です」

「そうか」

「それと、できれば大勢の領民にこのオーベルジュに親しんで利用してもらいたいので、パン屋のような持ち帰り用の軽食メニューを開発する予定です」


 ん? と公爵が怪訝な表情で聞き返してきた。


「『持ち帰り用の軽食メニュー』とはどのようなものなのだ? パンではなく軽食?」

「はい! 実は、その軽食もなのですが、レストランで提供するメニューの候補を是非召し上がっていただき、リュドビク様のご意見をお聞かせいただけないでしょうか」

「私の意見だと?」


「はい。オーベルジュは平民も貴族も区別なくご利用いただく予定です。通常ですと、貴族が利用するような高級な宿は、かなり裕福な平民でないと利用できません。値段的にも身分的にも。このオーベルジュはハードルを下げて平民が普段使いできる施設にしたいのです。貴族の方々は逆にお忍びでご利用されるくらいに。ですが、おもてなしは貴族の方むけのサービスなのではないかと思うくらいに丁寧にしたいのです」


 うん。前世で宝くじ一等十億円が当選したらやりたいなって考えていたことだから、すらすら出てくる。

 ん? ということは、私、今、十億円以上持ってるってことじゃない?!

 うぉぉぉぉ!!


 今更だけど、本当に今更だけど!

 モンテンセン伯爵領の年間予算てどれくらいあるんだろう?

 県とか市とかと同じレベルだよね? 十億ぽっちじゃないよね?


 よく考えたら、今着ている私のドレスだって、おそらく二、三百万円はするんじゃない?

 ダルシーさんなんか、国一番のデザイナーにオートクチュールを注文しているんだから、前世で人間国宝に一点物の着物をオーダーするのと一緒だよね?

 テレビでやっていたけど、一千万とか千五百万とかしていたよ?


 ……あ。

 私……こっちで意識を取り戻して以来、値札を見て買い物をしていない……。

 くぅぅぅ。


「……? 何を興奮しているのだ?」


 ヤバいヤバい。落ち着け。いったん忘れよう。それよりもメニューの話だよ。


「コホン。失礼いたしました。平民にしてみれば、貴族の方がお泊まりになる部屋に泊まり、貴族の方がお召し上がりになるものを食べられるというのは、大変貴重な体験ですので、手が届く価格設定ならば、一度くらい体験してみたいと考えるのではないでしょうか。最初は私の友人らに体験宿泊をしていただく予定なのですが、その際お出しするメニューで失礼にならないラインをご教示いただきたいのです」

「つまり、平民向けの価格で収まるメニューが、貴族にとって、きちんともてなしと感じられるものかどうか見極めたいというのだな」

「はい」


 さっすが。一を聞いて十を知る人だね。お利口さん。




 カントリーハウスに戻り、夕食は外食チェーンの社長プレゼンみたいに、数種類の考案メニューを公爵に出して、あれこれ意見をいただいた。

 全体的に割とカジュアルなメニューだけど、不合格は一つもなかった。

 うーん。食いしん坊さんは料理に対して優しすぎるのかもしれない……。

 それでも趣旨は理解してくれていたはずなので、本当にまずいものは「却下」って言ってくれそうだから、おそらく問題ない範囲だったのだろう。


 翌日、公爵に帰りの馬車でも食べられるように『カスクート』を多めに渡したら、ギヨームと二人で目を輝かせて帰って行った。

 新鮮なチーズが入手できる環境に感謝だね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【『このライトノベルがすごい!2026』のアンケート投票のお願い】
私は初めての参加となりますが下記2作品が対象です。「もーりんもも」で検索して選択してください。
第1位から10位までの回答が必須で面倒ですが投票していただけると嬉しいです‼︎ 回答はこちらから‼︎
最後に昨年の総合1位を入力する箇所がありますが、「負けヒロインが多すぎる!」です。

転生した私は幼い女伯爵 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです
私が帰りたい場所は ~居場所をなくした令嬢が『溶けない氷像』と噂される領主様のもとで幸せになるまで~
――――――――――――――――――――――――――
完結しました!
追放された悪辣幼女の辺境懺悔生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜

カドコミ にて『転生した私は幼い女伯爵』のコミカライズ連載中です。

『転生した私は幼い女伯爵3 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
⭐️⭐️⭐️⭐️アース・スターノベルから3巻発売中!⭐️⭐️⭐️⭐️
あらすじや口絵イラストはこちらの特集ページをご覧ください。
ご購入はこちらからamazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i988178

『転生した私は幼い女伯爵2 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
各サイトで発売中amazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i928141

①巻はこちら
あらすじ等はこちらの特集ページをご覧ください。
amazon 楽天 紀伊國屋書店ヨドバシカメラ
i901832

『私が帰りたい場所は ~居場所をなくした令嬢が『溶けない氷像』と噂される領主様のもとで幸せになるまで~』
DREノベルスから2巻発売中!
購入はこちらからamazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i929017
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ