145 案内板
1000万PV達成しました!
いつもお読みいただきありがとうございます!
「クエルさん。私はこちらで少し作業をしていますね」
「………はい」
「マルティーヌ様。お着替えはよろしいのですか?」
「ん? そうね、手が汚れるくらいで服は大丈夫だと思うわ」
ローラは相変わらず心配性だな。
瓦礫を薄く伸ばしていくぐらいなら、もう人差し指でトンと触るくらいでできそうな気がする。貯水槽と護岸工事で慣れちゃったもんね。
レイモンに頼んでいた瓦礫は、KOBANの建設予定地に、工事現場にある赤いコーンみたいに細く尖った円錐形に積まれている。
私が少しだけ腰を屈めて手を伸ばせば触れることができる。
さっすが、レイモン! 私のドレス事情まで考慮してくれたんだね!
「ふっふっふんふっふっふん」
自分でも知らない鼻歌が出ちゃった。
ローラが見ているので、左手でスカート部分の膨らみを押さえて瓦礫に触れないようにしながら、右手の指先をちょんと瓦礫に付けて、魔法で白っぽい石畳となるように地面の上を薄くコーティングしながら伸ばしていく。
とりあえず見える範囲の道路は石畳風に綺麗に敷くことができた。
残りの瓦礫はオーベルジュの方へ移しておいてもらおう。今度オーベルジュの視察に行った際、もう少し延伸させることにする。
自慢げにローラを見たら、彼女は瓦礫を使った作業はお終いとばかりにタオルを取り出したので、慌てて制止しようとしたら、ガツンと言われた。
「マルティーヌ様……もしや、その定期運行のルート全てを石畳にされるおつもりですか?」
え? ローラ……なんて壮大なことを考えてるの? やってもいいけど、多分レイモンからお許しがでないよ。
「さ、さすがにそれは無理だわ。いずれはやってもいいかもしれないけれど、その前にやることがたくさんあるし……つ、つまり、今はただ、領都の中心部くらいは美しく整備したいと思ったの。本当にそれだけよ?」
「さようでございますか。もし石畳の道を延伸させるおつもりでしたら、その作業は職人に発注するべきものですので、マルティーヌ様は指示を出されるだけでよろしいかと思います」
「そ、そうね。もちろん私が全部やるなんて、そんなこと考えていなかったわ。中心部だけよ、もちろん」
なぜにジト目?
あれ? 信じていない?
「あ、ええと、あのね、ローラ。もう少しだけ私の土魔法で作業しておきたいの」
一応クエルがいるからね。「成形魔法じゃなく土魔法だよ」と言っておく。
何も聞かずに、「はい」とだけ返事をしたローラは上級使用人っぽい。成長したんだねぇ。
せっかくなので、このまま案内板も作っちゃおう。
停留所の案内板といえば、一番上の丸いところに停留所名が大きく書かれているけれど、そこを時計にしたいのだ。
時計はこの世界じゃ高級魔道具だから、平民たちには馴染みがないようだけど。
魔道具の製造販売は、フランクール公爵家がほぼ独占しているので、レイモンから公爵に正式に発注してもらった。
三十分間隔の時計は一番精巧な物で、しかも私の希望した直径五十センチという大きさの時計は、通常製造されていないそうで、まず見積もりからとなった。
さすがに公爵に甘える訳にはいかないもんね。
特注ということで、正式にモンテンセン伯爵家として購入することが決まった。
それでもお友達価格にしてくれたらしい。そういうところは優しいんだよね。
ローラとクエルの視線を感じたので、簡単に説明をしておく。
「コホン。馬車の運行時間を掲示した案内板の上に、大きな時計を設置しようと考えているの。まあ見てもらった方が早いから、ざっくりとした形の物をここに作っておくわ」
定期運行の最初のルートはオーベルジュからカントリーハウスまで。その途中にある平民の住宅街にも停まる予定。カントリーハウスへの通いの使用人たちが住んでいるから。
だから停留所は三ヶ所になる。
チャチャッと、まんま前世の停留所の案内板を作り上げる。
「上の丸いところに時計をはめ込む予定よ。少し低い位置にあるこの四角いところに運行時間や運行ルートを表示するの」
ローラとクエルは、キョトンとしている。
ちょっと! ドヤ顔の私が恥ずかしいじゃないの!
「ま、まあ、完成したら案内板の機能がよくわかると思うわ」
ローラは、「はい」とだけ言って、勝手に私の手を拭き始めた。はいはい。終わりでいいですよ。
「クエルさん。ここには掲示板といって、これくらいの板を立てたいの」
そういって、両手で五十インチくらいのテレビ画面の大きさを空中に囲って見せた。
「…………かしこまりました」
クエルはうなずくと、ささっと図面に書き込んでいる。
さすがに建設の邪魔になりそうなので、掲示板は最後に設置しよう。
掲示板には、私から領民に知らせたいことを掲示するつもり。
紙が安かったらフリーペーパーみたいに『ご自由にお持ち帰りください』ってボックスを作るんだけどねぇ。残念。
それでも領内の識字率が上がらないことには、読み聞かせる人が必要なので、しばらくは顔役とか読める人に口頭で伝播してもらうしかない。うーん、悔しいな。
馬車の定期路線が拡大して領内の隅々まで行けるようになれば、人や物が今以上に動くと思う。
田舎路線は貨物車のように荷物の運搬を兼ねればいいんだもの。
最初は採算が取れなくても――いや、ずっと赤字でも補填しながら継続するべきだろう。
公共福祉のために!
まあ、まずは大勢が利用する人気路線の開拓が必要だわ。
森林を整備して『森林浴』という新しい遊びのメニューを紹介すれば、オーベルジュから○○森前という路線を作れるだろうし。
私が最初にオットーのチーズ工場を見学したみたいに、工場見学と試食のツアーを企画してもいい。
うん! 夢が膨らむ一方だわ!!
3巻発売中です。よろしくお願いします。




